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あしたのしあわせ

掲載日:2025/12/06

仕事帰りスーパーに寄る。「ほら〜感じるでしょう」聞き馴染みのある軽快な店内BGMが、仕事の疲れを癒してくれる。思わず歌詞を口ずさんでしまう。我ながら子供っぽくて恥ずかしい。


春巻きの皮、じゃがいも、エビ、大葉を慣れた手つきでかごに入れる。私はふと、子ども連れの母親たちの笑い声に目を向ける。


あの輪の中に自分がいたかもしれない。一瞬だけ胸がざわつく。


家に帰り、スウェットに着替える。


具材をまな板の上に置き、壊れ物を扱うかのように優しく撫でる。鼻歌を歌いながら、上機嫌に刻んでいく。ザク、ザク、とリズム良く。


音が小気味よく耳を刺激するたびに、今日こそは食べてくれるかもしれないと胸の奥が小さく弾む。


夫の好物は春巻きだ。義母の得意料理で、食卓にたびたび出たらしい。昔は二人で一緒に包んだこともあった。


そのときの笑い声や、油の弾ける音が、まだ耳に残っている。あの子とも作りたかった……。もう叶わない夢に心を侵食され、目の奥に熱いものを感じる。


努力は報われるはずだ。


ショウガを加え、具材を炒めると、食欲をそそる香りが部屋に満ちる。喉の奥に刺さるような鋭い空気を柔らかなものへ変えてくれた。


包む作業は手間がかかるけれど、それこそが愛情の証だと、昔、夫が言っていた。


くるっと巻いて、端を折り、また巻く。


油に沈めると、パチパチと黄金色の泡が立つ。痛々しいほどまでの純白が色づいていく。


その姿をただ、じっと、瞳を動かさず見つめていた。


テーブルの上に、二人分の皿を並べる。


コップにビールを注ぎ、一息つく。


グラスの表面に水滴が伝い、指先が少し冷たくなる。


帰ってきたら一緒に食べよう。


その言葉を胸の中で転がしているうちに、ゆっくりと視界が暗くなっていった。


ピーチだろうか、フルーティな甘い香りが音とともに漂ってくる。その香りに手足の熱が奪われていく。


「……おかえり。遅かったね」と笑いながら吐いた声が、少しだけ震えていた。


食卓には、冷めた春巻きが並んでいる。時計の針が一分、また一分と進む。


「先にお風呂にする?」甘い匂いが遠くなっていく。待ってと言いかけたが、ぐっと歯を噛み締め飲み込む。深く息を吸って微かに残る香りを追う。まだ、自分の中に留めておきたかった。


しばらく経ち、キッチンに立つと、三角コーナーの中に、冷めきった春巻きがぐったりと横たわっていた。黄金色の輝きは、無色の拒絶に変わっていた。


私は静かにその場を立ち去り、寝室のドアを閉めた。拳をぎゅっと握りしめる。


噛みしめた唇から、赤がにじむ。


その鉄の味が、私を現実につなぎとめていた。


ベッドに横たわる。シーツの片側だけが、いつも冷たいままだ。彼は今日もソファで眠るつもりなのだろう。目を閉じると、油の弾ける音と、春巻きの香りが蘇った。思い出も弾けて飛んでいってしまったらいいのに。



「明日は何を作ろうか」



そっと、祈るように、呪うように、小さくつぶやく。

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