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諦めの悪い伯爵令嬢は、婚約者様の人生最後で最大の願いを絶対に叶えたくないのです  作者: らしか


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第五十六話

久しぶりの更新となってしまい申し訳ありません!

しばらくは多忙のため、不規則な更新スケジュールとなる予定です。今後ともよろしくお願いします!




オリヴィエ様が歩けるようになってからは、目を見張るほどの速さで回復の道を進んでいった。日差しが暑く感じられる程度の季節を迎える頃には、杖をついて歩くのには心配がいらないほどになっていた。


「ミュリー、少し良いですか?」


自らの足で私の部屋までお越しになったオリヴィエ様は、何やら嬉しそうな表情をしている。


「はい、もちろんですわ」


私も刺繍の手を止めて、オリヴィエ様をソファに誘導した。彼の隣に腰を下ろした私は、いったい何のお話だろうかと疑問に思う。


一呼吸おいたオリヴィエ様は、決意を固めたような表情で要件を口にした。


「1週間後、2人で街へ出ませんか?」

「…街へ、ですか?」


あまりにも唐突な提案に、すぐには理解が追いつかなかった。今までオリヴィエ様と外出をしたことは何度かあったけれど、それはどれも社交へ出るなどの必要な用事があった際のことだ。1週間後には特に何の予定も入っていなかったはずなのだが。


「はい。私の体調もようやく整ってきましたし、何よりこうして歩けるようになりましたから。ミュリーと街歩きをしたいのです」


あれこれと考えた私の予想は大きく外れ、どうやらただ街へ出て散策をしたいということのようだ。


「私は構いませんが… 人があまりにも多いのでオリヴィエ様が杖をついてゆっくりと歩く余裕がないかもしれませんね」


王都は人口が多く、流通の最終到着点でもあるため多くの物資が行き交っている。杖をつきながらゆっくりとしか歩けないオリヴィエ様が散策をするには、少々難易度が高い。私はオリヴィエ様の身の安全を最優先に考えるので、街歩きに出ることで転倒などの危険性があるのであれば、容易には賛同できない。


「人が少ないところで、行きたいところがありまして。そこまでは馬車で向かうつもりなので大丈夫だと思いますよ。心配には及びません」

「そういうことでしたら。ちなみにその行きたいところというのはどちらなのですか?」


王都の中で人が少ない場所と言われてもなかなか思い当たる場所はない。

首を傾げて問うた私にまっすぐ視線を合わせたオリヴィエ様は、人差し指を私の唇に当てて言った。


「当日までのお楽しみです」




1週間後の街歩き当日。早朝にミラから声を掛けられて目を覚ました私は、まだ半分眠った状態のまま使用人たちに身支度を整えられることになった。何やらオリヴィエ様から細かな指令が出ているようで、彼女たちは実に楽しげだ。


「さぁ、ミュリエル様、しっかりと目を覚まされてくださいね。お化粧をしますよ」

「…えぇ」


昨夜は今日の街歩きを楽しみにしすぎてなかなか寝付けなかったのだ。我ながら幼い子どものようなことをしてしまい、翌朝である今、こうして眠気に襲われている。


しかし、そんなことを言っていられるのもここまでだった。

顔を洗い、お化粧をして。バタバタと進む準備に、段々と私の頭もはっきりとしてくる。


「ご主人様とのお出かけはもう随分と久しぶりのことになりますから、気合いを入れて準備いたしましょうね!」


いつも以上に張り切っている使用人たちの様子に戸惑いつつも、仕上がった自分の姿を見てやはり彼女たちの仕事は一流だと改めて実感した。

普段は軽いお化粧と作業の邪魔にならないヘアアレンジにとどめているが、こうして彼女たちの持つ能力を最大限に使えば、自分でも美しいと思えるほどの仕上がりとなる。


「ありがとう、みんなのおかげで今日の街歩きはより一層楽しく過ごせそうだわ」

「それはようございます。さぁ、準備が整いましたからダイニングルームへ参りましょう。ご主人様がお待ちですよ」


私は最後にもう一度だけ鏡を振り返り、ミラについて部屋を出た。ダイニングルームの扉は大きく開かれており、いつもの席にはすでにオリヴィエ様が着席しておられた。


「おはようございます、オリヴィエ様。お待たせしてしまいましたね」

「いえ、全く構いませんよ。おはようございます、ミュリー」


身支度を終えた状態で待っておられたオリヴィエ様は、いつもの数倍増して輝いて見えた。王太子殿下とロレッタ様の結婚式の際に着用された正装ほどの華やかさはないけれど、その仕立ての良さと特別感は一目見ただけで伝わってくる。


いつもの席に腰を下ろした私は、朝食を頂きつつも今日の行き先が気になって仕方がなくなっていた。今日1日の予定は全てオリヴィエ様が計画するとおっしゃったので、私は外出をすること以外何も聞かされていない。そのせいで楽しみな気持ちが抑えきれないのだ。


「今日は、かねてからミュリーと一緒に行きたいと思っていたところに行こうと思います。きっとミュリーも気に入ってくれる場所ですよ」


どのような場所なのか全く教えてくれそうにないオリヴィエ様。こうなると彼は絶対に私には教えてくれないので、到着してからのお楽しみにとっておくしかないのだ。



朝食を終えた私たちは、少しの間サロンで休憩をとり、馬車に乗って目的地に向かうことになった。

乗り込んだ馬車は、貴族が一般的に使う「普通」の馬車で、車椅子が乗せられるように改造されたものではなかった。目の前に座っているオリヴィエ様は確かに自らの足で歩き、もう車椅子という補助道具は必要ない。杖こそついているけれど、私と同じように馬車へ座れるようになったのだ。


「この馬車で出かけるのも久しぶりですね」


オリヴィエ様の声には、懐かしさと喜びが滲んでいた。私も言葉では言い表すことのできないこの温かな感情を笑顔に込めた。


やがて動き出した馬車は、ゆったりとしたスピードで王都の中心街へと向かっていく。グランジュ公爵邸は王城からほど近い、貴族たちの邸宅が立ち並ぶエリアにあるため、このペースだと中心街までは少々時間がかかることだろう。


「今日はミュリーの1日をもらって、たくさん楽しい思い出を作りたいと思っています。今、この瞬間はもう2度と訪れませんからね」


オリヴィエ様の嬉しそうな笑顔につられた私も、自然と同じ笑顔になる。

取り止めのない話をして過ごすことが出来るこの時間をとても贅沢で尊いものに感じる。オリヴィエ様とは話どころか意識の確認さえできない日々が続いていたのだから。


「そうですね。こうしてオリヴィエ様と今この瞬間を共にできて嬉しいです」



馬車はいつの間にか中央街を抜け、少し人の少ないエリアにまでやってきていた。この辺りには貴族が立ち寄るような場所はあまりなかったはずだけれど。

私にはオリヴィエ様の予定が分からないので、どうしてここへきたのかももちろん分からない。

疑問に思っているのが顔に出ていたのか、この道で合っていますよ、とオリヴィエ様からのフォローが入った。


そして、馬車は黒い鉄門扉の前に止まった。


「到着しましたね。行きましょう、ミュリー」

「は、はいっ!」


差し出されたオリヴィエ様の手をとり、馬車を降りた。

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