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諦めの悪い伯爵令嬢は、婚約者様の人生最後で最大の願いを絶対に叶えたくないのです  作者: らしか


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第十七話

ドレスの手配が済み、私は参列者への招待状作りに入った。この作業が、準備の中で最も大変で責任重大であると言われているそうだが、基本的な下準備は執事であるジェスパーが既に行なってくれていた。そのため、私は名前リストに沿ってお手紙を書くだけで良い。ただし、グランジュ公爵家とどのような関係の人なのかは私も把握しておかなければならないので、解説役のミラとジェスパーに付いてもらっているが。


「王族の方々への招待状はこちらで以上になりますので、続いては親族の方々へのものに取り掛かりましょう」


ジャスパーがそう言うと、ミラが隣から新しい便箋を用意してくれる。私も改めて姿勢を正し、ジャスパーの説明に耳を傾けた。


「まずはグランジュ公爵家から参りましょう。宛先はオフェレット伯爵家です。ミュリエル様はかの伯爵家についてはどれほどご存知ですか?」


私はオリヴィエ様から聞いたお話と、王妃様がおっしゃっていたことを思い返して答える。


「あまり詳しくは聞いていないのだけれど、オフェレット伯爵夫人は先代公爵様の妹君で、オリヴィエ様のことを実の息子のように愛されている、と…」


オリヴィエ様はあまりご家族のことを詳しくお話にならないので、私も詳しいことは知らない。幼少期にご両親を亡くされているので無理もないが。


「はい、その通りでございます。さすがミュリエル様でございますね」


ジャスパーは私を大袈裟に褒めた後、咳払いをして補足説明を始める。


「オフェレット伯爵夫人はご主人様の叔母にあたる方ですが、早くにご両親を亡くされた旦那様の母親代わりとして、それはもうご主人様を可愛がられたのですよ。ご主人様が成人なさってからも、はるばる伯爵領からお顔を見に来られるのです。ご主人様と夫人のご子息様はお年が近しいこともあって、幼い頃から交流を持たれております。まだ婚約者様はお決めになっておられないようですが、ご主人様の結婚も決まりましたことですし、近いうちに相応しいお方をお選びになるかと」


彼の話を聞いただけで、伯爵夫人がどれだけオリヴィエ様を大切に思っておられるのかがよく分かった。オフェレット伯爵領は、王都からかなり遠い場所にある。正確には分からないが、数日程度で来られる距離ではない。そんな場所から公爵邸を訪れ、旦那様の母親代わりをなさっていたというのだから、深い愛情を抱いておられるのだろう。


「そうなのね、知らないことばかりだったわ。私は結婚式で初めてお会いすることになるかしら?」

「おそらくはそうなるかと思います。以前は頻繁に王都へお越しになっておられたのですが、最近はたまに贈り物が届けられるに留まっております。どうやら伯爵領の経営が芳しくなく、夫人もお忙しい日々を送っておられるようでございます」


私はまだまだ知らないことばかり。普段から教育係による指導は受けているけれど、まだそれも道半ば。これから半年の間でできる限りの知識と作法を身につけなければならない。


オフェレット伯爵、夫人、ご子息のお三方を招待する旨を記し、出来上がった手紙をミラへ渡した。後でジェスパーが不備がないか確認してくれるそうだ。



「続いては、ミュリエル様のご家族様へのお手紙に移りましょう。こちらはミュリエル様ご自身の方がよほどご存知かと思いますので、ぜひ後学のためにお話を聞かせてくださいませ」

「えぇ、分かったわ」


私は手紙を書き進めつつ、自分の家族について話した。改めて他人に説明するのは初めてなので、どこから始めれば良いのか迷ったけれど、無難に共に暮らしていた家族から話すことにする。


「アリスタシー伯爵家の屋敷に住んでいたのは、私の両親と私、弟の4人でした。お父様は何よりも領民の暮らしを最優先に考える、領主としては素晴らしい人格の持ち主だと私は思います。お母様は深窓の令嬢として育ってきたにも関わらず、そんなお父様を支えようと多くの苦労を経験してきた人です。弟はまだ幼く、社交界デビューすら果たしていませんが、早くも次期当主としての自覚が芽生えているらしく、よく未来の伯爵領について話していました」


アリスタシー伯爵家は経営が厳しく、伯爵家とは名ばかりの貧乏っぷりではあるが、家族仲はとても良好だと思う。現に私は、両親を心の底から尊敬し、弟をこよなく愛している。


「加えて、嫁いで家を出た姉がいます。お姉様は私とは違って容姿端麗な上に器量も良かったので、数年前にとある伯爵家のご子息とご縁がありました。今は子を授かっているそうで、長旅となる結婚式への参列はできないと事前に連絡がありました」


私は、参列者リストに書かれていたお姉様の名前の隣に、欠席と記入した。


「そのようなご事情があったとは存じ上げませんでした。私の調査不足でございましたね」

「いいえ、無理もないことよ。このリストを作ってくれていたことも、とても感謝しているわ。どうもありがとう」


私からの感謝の言葉を素直に受け取り、そのようなお言葉を頂けてうれしゅうございます、と喜んだ様子を見せたジャスパー。彼にとっては仕事の一部でしかなかったかもしれないけれど、それが私にとってはとても大きなことで、感謝に値するものだった。今こうして私の隣で解説をしてくれているのも、大変助かっている。ジャスパーはこの屋敷の執事としての仕事を多く担っているにもかかわらず。



その後も、ジャスパーとミラの手助けのおかげで、無事に作業は進んだ。貴族家の中では最も権威のあるグランジュ公爵家の当主が行う結婚式なだけあって、参列者の数はとても多い。さすがに1日では書ききれなかったので、数日に分けて取り組んだ。合間の休憩時間には2人と談笑し、今までよりもずっと2人のことを知れたと思う。


「こちらで最後でございますね。お疲れ様でございました」

「ありがとう、ジェスパー、ミラ。2人のおかげでなんとか私でもこなすことができたわ」


私の言葉に、ミラは首を横に振った。


「いえ、私たちはあくまでミュリエル様のお手伝いをさせていただいていただけにすぎません。この大仕事を成し遂げられたのは、紛れもなくミュリエル様ご自身のお力によるものですわ」

「ミラの言う通りでございますよ。ミュリエル様のご謙遜なさる態度は清く尊いものでございますが、もう少しご自身の功績を誇られてもよろしいと思います。行きすぎた謙遜が美徳とは限りませんゆえ」


ジャスパーの言葉に、はっと気が付かされた。きっと彼は今後の私を思って指摘してくれたのだと。

私は今後、グランジュ公爵夫人として社交界へ出ることとなる。その地位は揺るぎのないもので、私自身が過ぎた謙遜をすることは、公爵家の地位を不本意に下げる行為となる可能性があるのだ。

今まではこの態度で良かったかも知れないが、今後はそうともいかなくなる。今のうちから意識しておくに越したことはない。


「…そうね、分かったわ」

「ミュリエル様はそのままのミュリエル様で十分に魅力的なお方なのですから、もっと自信をお持ちになってくださいませ。今すぐに、とは申しませんので」


ジャスパーはにこりと笑い、深々と礼をして部屋から去っていった。さすが、長年公爵家に仕えてきた執事なだけはあって、周囲のことをよく観察しているのだろう。



「ミュリエル様、ここ数日の作業でお疲れでしょう。本日は早くお休みになってくださいませね」


ミラは私の体を気遣い、いつもより早い時間から湯浴みと就寝の準備を整えてくれた。


私は周囲の人に恵まれている。常に私を大切に思い、配慮してくれる人たちばかり。その筆頭は、オリヴィエ様なのだが。

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