表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諦めの悪い伯爵令嬢は、婚約者様の人生最後で最大の願いを絶対に叶えたくないのです  作者: らしか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/55

第十二話

現在中央にいるのは数組だけ。

オリヴィエ様は堂々とした振る舞いで歩みを進める。私もまっすぐ顔を上げて並んだ。


輪に加わり、曲の始まりと共にダンスが始まった。基本的にはオリヴィエ様がリードをしてくださるけれど、私の未熟さが迷惑をかけることにならないように集中しなければならない。


「ミュリー、体に力を込めすぎです。もっとリラックスして大丈夫ですよ」

「すみません、緊張していて…」


周囲を見回さなくても分かる。会場中の人たちが私たちに視線を向けていると。

ほんの2ヶ月前までは、こんなに多くの人の中で注目を集めることなどなかった。私はオリヴィエ様やロレッタ様、殿下のように、人に見られることに慣れていないのだ。

私のせいで、オリヴィエ様が悪く言われたら?

グランジュ公爵家の名誉に傷をつけたら?

そう考えずにはいられない。それがまた、私の緊張を助長する。


「大丈夫、大丈夫です。間違っても、失敗しても、ミュリーのことを責める人はいません」

「ですが…」


公爵家の一員となる私を表立って責める人はいないかもしれない。それでも、私の失敗が多くの人の記憶に残ることは確かだろう。


「何かあっても、私が持てる力を全て使って守ります。あまり、私の隣にいることを大きく捉えないで欲しいのです」


その言葉に、私は顔を上げた。オリヴィエ様の顔が思ったよりも近くて驚いたけれど、その困ったような伺うような笑顔に安心感を覚えた。

それと同時に、私の心に名前を知らない感情が生まれていることに気がついた。


「今はただ、この時間を心から楽しんでください。そうすれば、自然と上手く踊れるようになりますから」


オリヴィエ様の言葉はにわかに信じがたいけれど、私よりもずっと社交経験豊富な人の言葉を信じないわけにもいかない。


「分かりました。ありがとうございます」


それからの私は、苦手なステップや失敗の後を考えるのは辞め、オリヴィエ様とのファーストダンスを思い出深いものにしようとした。

持っている実力以上のことはできない。私が今までほとんど踊ったことがなく、今日のダンスが付け焼き刃でしかないことも重々理解している。それでも、楽しむことはできるから。


演奏が終わり、私たちのファーストダンスは終了した。特に大きな失敗は無かったと思う。ひとまず無事に終えられてほっと緊張が解けた。


「お疲れ様でした。さすがミュリーですね」


オリヴィエ様は私が日々練習をしていたことを知っている。その上で、今日のダンスを褒めてくださったのであれば、誰から褒められるよりもずっと嬉しい。


「ありがとうございます。オリヴィエ様にそう言っていただけて嬉しいです」



ロレッタ様と殿下が座っておられるテーブルまで戻ると、また次の曲が始まった。パーティーはまだまだ終わらないようだ。


「ミュリエル様、おかえりなさいませ」

「ただいま戻りました」


ロレッタ様が用意してくださっていた飲み物に口をつけつつ、会場の様子を伺う。ダンスの時ほどではないけれど、私たちのことを見ている人がいるのが分かった。

けれど、気にするのはやめた。気にしても仕方がないと理解したから。


しばらくして、殿下とオリヴィエ様はテーブルを離れられた。


「ミュリー、少し席を外しますが、ここから動かないようにしてくださいね。もしも離れるのであればロレッタと共に行動してください」

「はい、分かりました。ご心配ありがとうございます」


そんなに心配しなくても大丈夫なのに、と思いつつも、私を守るという言葉を違えない姿を微笑ましくも思う。


「ミュリエル様、お顔に出ておりますわよ」

「…あっ」


ロレッタ様に指摘されるまで、私が微笑んでいることに気が付かなかった。


「ふふっ、なんだか羨ましいですわね。やはり、ファーストダンスには不思議な力があるのでしょうか」

「ロレッタ様と殿下も本日がファーストダンスだったのではありませんか?」


私の指摘に、ロレッタ様は少し目を見開いて驚いた様子を見せた。


「あら、そうでしたわ。けれど、ミュリエル様と公爵のダンスはなんと言いますか、初々しく微笑ましいけれど洗練されていて… 適切な言葉が見つかりませんが、とにかくとても素敵でした」


社交界で活躍しているロレッタ様にそう言っていただけると自信になる。

きっと、今日のファーストダンスは一生記憶に残るもの。出来れば楽しく、嬉しい記憶として残したい。



「さて、アルフレッドも公爵もいなくなったことですし、ガールズトークをいたしましょう。私、憧れておりましたの!」


急にロレッタ様が手を叩いて目を輝かせた。私はあまりに突然の提案に動揺を隠せない。


「ガールズトーク、ですか?」

「えぇ! ミュリエル様にはお聞きしたいこともたくさんあることですし」


初対面の時とは随分印象が変わったなと思いながら承諾した。


「ガールズトークといえば、まずはこれからお聞きしないといけないですわね」


ロレッタ様はわくわくした様子を隠しきれないみたいだ。私は、家族以外の同年代の女性と親しく話した経験がほとんどないので、ガールズトークと言われても何を話していいのかよく分からない。必然と、ここはロレッタ様に倣うしかないのだ。


「ミュリエル様は、公爵のどんなところを慕っておられるのですか?」

「慕っているところ…」


私はオリヴィエ様のことをよく知らない。私が知っているのはオリーヴのことで、それをそのままオリヴィエ様に繋げるのはなんだか違う気がしてならない。

公爵邸で過ごすようになってから、オリヴィエ様とお話しする機会はそう多くなかったけれど、少しずつ理解して来たつもりでいた。けれど、関われば関わるほど知らない一面が見えて。あくまで理解したつもりになっていただけだったことを実感する。


「まだ婚約なさってから日は浅いですけれど、ひとつやふたつくらい好ましいと思うところはあるのではありませんか?」

「いえ、その… ないわけではないのですが」


私の歯切れの悪い言葉に、ロレッタ様は少々怪訝な顔をなさった。


「お待ちになってくださいな、ミュリエル様は公爵のことを慕っておられるのですよね?」

「えぇと… そう、ですね」


自分が思っているよりも、ずっとすんなり肯定した自分に驚いた。あぁ、私はオリヴィエ様を好いているのだ、と。


公爵邸に来たのはあくまでお父様の決定で、だんだんと自分の意思へと変わっていった。

けれどそこには、恋愛感情はなかった。私とオリヴィエ様の人生は決して交わることがなく、ミュリーとオリーヴとして終わっていくもののはずだった。


いつから私は、オリヴィエ様の人生に深く関わりたいと思うようになったのだろうか。

いつから私は、オリヴィエ様に私を見て欲しいと思うようになったのだろうか。


この心の底を羽でくすぐられるような感情は、やはり恋なのだろうか。


「私、どうやら野暮なことを聞いてしまったようですわね。大変失礼いたしましたわ」

「いえ、上手くお答えできなくて申し訳ありませんわ。まだ私の心が整理できていないようです」


私はどうやら、考えていることが顔に出る質らしい。そのせいで、ロレッタ様に気を遣わせてしまった。


「いつか、ロレッタ様には自分の言葉で説明できるようになりたいと思います」

「えぇ、ぜひ。いつでもお待ちしておりますわ」


にっこりと嬉しそうに微笑んだロレッタ様を見て、私も自然と口角が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ