鬼の子
連載の小さな星と聖杯の秘密の1エピソードを短編ように改変。ザマァに挑戦。
新人類が地上を取り戻して50年
かつて超常の力で人類と戦い敗北した我々は地獄と呼ばれる仮初めの世界を作り出し逃げこんだ。
我々と戦った人類側の戦力であった魔法使い達は、その数を減らし我々に反撃の機会が訪れたのだ。
人食い鬼と呼ばれた我々は地上を取り戻すとともに新人類と名乗りは始めた。そしてかつての人類を旧人類と呼び家畜化した。
しかし我々は退化した。人食い鬼の子は鬼ではなく人がうまれだした。何かが狂いだしてる。
鬼というのは謎が多かった。自分達の正体など旧人類である人以外はきにしない。そのはずだったが地上を支配しだすと共に我々は自らの正体が気になりだす。
だから鬼から人の子が生まれ出したのだろうか。
人食い鬼はなぜか人が誕生するはるか以前から人食い鬼だった。
人類は絶滅したくなくて、我々に生贄を差し出すようになったが我々だって絶滅したくなかった。だからかつては地獄と呼ばれる世界を作りそこに逃げ込んだのだ。
人族はある魔法使いの生き残りが弱いものの逃げ込む先として第8世界を造った。7回失敗したのち作られた世界、そこには王や我々に対抗しうる魔法使いは受け入れ無かった。
我々は逆だ。強いものだけが突破できる壁の先に地獄を作った。
しかし逆というのは同じという事。同じ軸に立つから逆なのだ。
鬼達は人類のように暮らしだしかわった。
労働や消費、貨幣経済もだが何より、死ぬ事を恐れるようになった。以前から死を避けようという思いはあったがそれが恐怖からくるようになった。
そんな節目の時代、私の子は人間だった。
子には全く愛情がわかない。”おいしそう”というのが子をみた感想だ。理性により子を食べてはいけないという思いがあり生かしているだけだ。
しかしやはり何かが狂いだしている。
私はそんな愛情がわかない子を守るために愛し合った夫を殺してしまった。
私は子を連れ逃げている。ここにいてはいつ誰がたべてしまうか分からない。ここは人食い鬼の街なのだ。私は自分の欲と戦いながら愛情のわかない子を連れて逃げている。
人食い鬼は人の何を食べるかにより名前がかわる。
私は戸惑いを食べる鬼、肉体よりも感情を食べる鬼は強い力をもつ傾向がある。肉体も食べられるが特に好みなものが人類の戸惑いの感情なのだ。
感情を食べる私は鬼の中でもかなり強い力をもっていた。そんな私が戸惑っている。
私は旧人類の世界で言う警察のような組織に追われている。返り討ちにする事など容易いはずなのだが、なぜな逃げてしまう。警察に例え勝てても倒せば鬼の社会には戻れない。それが怖いと思ってしまう。夫を殺した今、もう手遅れなのに手を出せない。
私は森の奥に逃げる、人類化した鬼は森の中には住まない。だから森に逃げ込んだ。けれど森には食べるものがない。地獄に住んでいる時はなぜかお腹がすく事はなかった。けれど今は人を食べねば腹がへる。
私の変化に気づいた子が戸惑っている。
とまどいは私にとってのご馳走だ。私の空腹は加速する。愛する夫を殺してまで守った。それなのにもう我慢出来なくなり始めている。私の瞳から涙がこぼれる。私のまだ3歳になった子は私が子をあやした時のように背中をトントンと撫ぜるように叩いた。
50年前、新人類と旧人類の戦いは新人類が勝利した。
その後、5億にまで減った旧人類の半数は和音という魔法使いの生き残りの作った第8世界に逃げ込む。我々新人類に指名手配された和音の居場所は旧人類最大の秘密だった。その第8世界が崩壊した。崩壊する際に和音を含む旧人類側の新人類に対抗できる残り僅かな魔法使いが複数死亡した。それが最後の決定打となったのだ。これでもう旧人類に反撃の目もなくなった。
それが6年前の事
そしてその頃から我々人食い鬼の子に人が生まれ始めた。高位の鬼ほどその傾向は強い。
森に潜み、子にバレない様に人を襲う日々。
子が5歳になる頃にはようやく子に対する食べたいという気持ちは抑えられるようになっていた。
けれど森で育てたせいだろうか、子は精霊語という薄汚れた言語を使う様になってしまった。
私が叱り付けると子は泣いてしまう。
なぜか子は精霊語を覚えた事を誉められると思っていたようだ。私があやすと機嫌をなおす。
人食い鬼の間には更に人の子が生まれる現象が続いているらしいのだが、食べずに育てられるものは5人に1人も居ない。私だっていつまで食べずにいられるか分からない。消えてしまった食欲がいつ戻るか分からないのだから。
そんなおりだ。
「私はウェン・・・、ってえぇぇぇぇぇぇ!?あなた人食い鬼!?」
私の目の前にはサラがいる。人類側に残った最強の魔法使いだ。彼女はいつも偽名をなのっている。鬼から見ても美しいと思える容姿を持つ彼女は半身にひどい火傷の傷をおっている。呪いによるものだろう。和音が世界とともに崩壊した際に近くにおり被害は受けたがなんとか生き延びたのだ。
彼女は戸惑った。だからその戸惑いを、私は食べようとしたが歯が立たなかった。
少しなめただけで信じられないほどの甘みがあり、その後苦みがやってくる。彼女には一部鬼の血がながれている事がわかる。
旧人類が新人類に歯向かわず生贄を差し出す限り、新人類はそれ以上は旧人類を食べない。森はそのルールが適用されない。そして私よりサラは強い。
けれどサラは我々を襲わない。
サラは剣を抜き私を見つめる。サラのうしろからはおいしそうな男性が顔を出す。秀一と呼ばれる魔法使いの1人、和音の師の師、有名な魔法使いは鬼である私でも知っている。
2人は森で細々と暮らしているらしい。
秀一、サラは戦う気はない。魔法使いや知恵のある種族は不戦協定が結ばれており聖域では戦ってはいけない事になっていた。ここは聖域ではないのだが、互いにみだりに戦わない事は習慣になっている。
私にしたってそうだ。食欲のままに人に襲いかかるのはケダモノのする事だ。というのが一番の理由だが、2番目の理由として、サラは私よりはるか格上の存在で勝ち目がない、という事も影響している。
サラは剣を持ってはいるが、力は抜いている。私と対等か劣る実力の秀一はまだ緊張を緩めては居ない。秀一と2人だけで出会っていたら戦いになっていた筈だ。恐らく決着はつかず、負けた方は逃走した事だろう。
魔法使いも我々鬼もちょっとやそっとデは死なない。
私はふと子に名前をつけていない事を思い出す。新人類では珍しい事ではない。生まれた時から〇〇を食べる鬼という名がついているのが普通だった。
それが子が人食い鬼、新人類でないと気づいた理由でもあった。
我々は一旦魔法により小屋を用意し互いについて話し合う。
サラは「私は故郷追放された。ポーラ、故郷の先代の女王を守れなかったからね。多分現女王のディアナが私を解放したかったというのもあるのだけれど」といった。サラはポーラとともに建国にかかわった人物だが現女王が、親友である先代女王の死により傷心したの彼女に気を使ったのだろう。
私にはわからなかったがサラは泣き出しそうになっており、言葉を続けられなかった。魔法使いは不老不死であり数を減らしたのはこの世界から旅立ったからである。彼女はこれまで国の為にこの世界に残ったのだ。
秀一は「私も弟子の死を悲しんでいる。何より悲しいのは弟子のサシェが死ぬその時まで私はサシェの事を忘れていた事だ。サラの、というより、彼女の国の魔法の影響だった。私が文句を言いに行くとサラがおり、私は彼女にひどい言葉を投げつけた。サラは弱々しく。私の言葉に打たれ続ける。私より遥かに強いサラは何も言い返さなかった。それが6年前。私が落ち着いた後同じ苦しみを抱く彼女を責め続けた事を謝り、以降我々はともに暮らしている」といった。
私は私より強かった筈の旦那が私に殺された時の事を思い出している。初歩の魔法に過ぎない”負い目があると反撃が出来ない事がある”はいまだに魔法使いにさえ効果を及ぼす事がある。旦那が本当は子を食べたく無かった事を知り私は涙を流す。
私は「6年前の事件は旧人類の家畜化を決定づけた。もう旧人類には我々に対抗できる魔法使いは残っていない。サラ、お前は重傷、ディアナを庇ったポーラ、その場にいた優秀な魔法使い達、ブランドン、サシェ、和音は死にルカを庇ったミザエルは数十年復活出来ない。」そのほかにも由紀菜もミザエル同様復活待ちとなった。またコーネリアスは実力がたりない。ディアナ達は迫害された民族、友人の魔法使い達が死んだ今、もう表には出てこない。災害の跡地を調べた新人類の学者の見解だ。
私は大切な話を切り出す事にする。
サラが私をまっすぐ見つめている。私が何か言いたいのだとわかっている。きっと何を言いたいのかもわかっている。秀一だってそうだろう。
「私の子を引き取ってくれないだろうか」私は彼女等の予想通り、そう切り出した。5歳まで鬼と過ごした子、私の瞳から一筋の涙が伝う。
私の声は震えていた。人の、家畜とかした旧人類の世界に送るのではない、魔法使い達は人の世界から逃げ出した。たしか人類の魔術師は100歳を超えるとこの世界から離れると言っているが、秀一はまだ100歳にはなっていない。家畜となった旧人類に託すのではない、かつて我々と渡りあった、そして、我々を退けた魔法使いに託す。
私は涙のこぼれる中もう一度サラを見つめる、名前もつけなかった子が私の服を強く掴む。子が戸惑っている。私は戸惑いを食べる人食い鬼、私は口を固く結ぶ。子を食べたいと思わなかったのは私の心が強くなり、子が戸惑わなくなったからだった。
おいしそうな子、おいしそうな秀一、動じていないサラ、わたしのお腹がなる。私は泣きながら笑った。
それでもサラは小さく首を振った。
「私は人食い鬼の世界にも行ったことがあるし襲われもした。探検家だった私は、現役時代には何度か鬼とも戦った。秀一君とあった時には強い鬼に食べられもした。でも私と鬼は敵じゃない。ただの時と場合の巡り合わせで戦う事があっただけ。私がその子を連れて行った後、あなたは死ぬつもりでしょう?それは見過ごせない。」といった。
私にそんなつもりなんてない。やっぱり旧人類と新人類は違うのだ。
私はもう一度サラを見つめる。上位の鬼は大きい以外はほとんど人間と変わらない見た目になる。天使と同じだ。鬼は大きい、巨人と同じだ。
鬼は魔法か形を持った存在だ。精霊やドラゴンと同じだ。
鬼には獣や魔物の姿をしたものも多い。
鬼には正体など無い。
それでも鬼と人は違う。違うという事は同じという事、同じだからこそ差異が気にかかる。
戸惑いを食べる鬼を見送る私とサラ、サラは必死に涙を堪えている。鬼は鬼だからそれには気が付かなかった。サラは鬼が去った後、私の胸に顔を埋めて泣いた。
サラは知っていた、あの鬼はもう長くない。あれだけ私になじられてもサラは涙は見せなかった。この美しい少女は、行きずりに出会った人食い鬼の為に泣いた。
サラにも来年には子が生まれる、私はすぐにあちらの世界に向かわない。あちらの世界に渡るには試練が控えているのだ。だから私が100歳になるまではコチラですごす。
その後サラが門を開きあちらに向かう予定だ。100歳になれば一度だけ試練なしにあちらに渡れる権利が発生する。人類には知らない者も多い。本当にまだ有効か分からない。どちらにしてもサラのサポートがあれば試練も9割方は大丈夫だというしその時一番良い方法をとればいい。
友人のハドソン氏はサラ達の国に渡るらしい。彼の弟子由紀菜嬢の元に向かうのだ。
私が100歳にならずとももしあちらの世界からタリアやエリーなど彼女と仲の良い魔法使いが迎えに来れば私を伴ってもより安全に抜けられるらしいがそれはどうなるかは分からない。
どちらにしても私達は悲しみの世界からぬけだすのだ。
終わった世界から魔法使いは脱出する。鬼、新人類と魔法使いの間には反抗しなければ生かされる取り引きが進んでいる。
幸いな事に感情を食べる鬼が上位に位置するため、人類から言語は取り上げられない。
それでも分断はすすみ、本格的な人類、いや旧人類の家畜化は更に進むのだろう。
所であの人食い鬼が連れていた子は何だったのだろう、サラは気づいている。本人は人を連れている気になっていたけれど私にはあの鬼が連れていた子が我々人類と同じとは到底思えなかった。
サラに見逃された私は子供に話しかける。私はもう全く子を食べたいと思わなくなっていた。私はまるで旧人類になったような気がしている。なぜかそれがうれしい。自然とこの子につけるべき名前が頭に浮かぶ。「あなたの名前をつけてなかったわね。あなたは浮かれた鬼を食べる人。」私の意識はそのまま途切れた。
その後の事は分からない。新人類は次の人類に淘汰されたのだろうか。その事を私達に伝えるものはいない。
ザマァって難しい。なんとか最後、人食い鬼が自分の子に食べられる話になりました。




