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願いの代償  作者: 神谷嶺心
第1章 — 姿を消すことの代償
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第9話 — 迷いの中の選択

「選ばなかった沈黙ほど、心を締めつける。」





ノゾミは、アイスクリーム屋のベンチの前で立ち尽くしていた。

シンジからのメッセージが、頭の中で何度も響いていた。


「またいつもの脅し…そうに違いない。

でも…もし、違ったら?」


彼に対して、もう愛情はなかった。

残っているのは、過去の傷だけ。

それでも、無視することができなかった。


レンは、メッセージに返事をくれない。

シンジは、壊れかけているように見える。

でも、それを修復する責任は——ノゾミにはない。


「レンなら、私の状況を理解してくれる。

何もしなかったら、シンジの家族に責められるかもしれない。

だって、まだ正式には別れていないんだから。」


そんな思考が渦巻く中、突然、誰かが彼女の服を引っ張った。


「お姉ちゃん…ママとはぐれちゃった。」


鼻をすすりながら、涙目の少年が立っていた。

ノゾミは周囲を見渡したが、母親らしき人は見当たらなかった。


彼女はしゃがみ、少年の目線に合わせて優しく声をかけた。


「大丈夫よ。お姉ちゃんが一緒に探してあげる。」


頭を撫でながら、少しずつ気持ちを落ち着けていく。

彼女はその場で待つことにした。

少年にチョコレートアイスを買ってあげる。


しばらくすると、少年がアイスを食べ終える前に、母親が現れた。

若い女性で、三十代には見えなかった。

顔には焦りと安堵が混ざっていた。

息子がノゾミの手を握りながらアイスを食べている姿を見て、涙を流しながら抱きしめた。


そして、ノゾミに向き直る。


「ちょっと、何してるのよ?

ほんの数分目を離しただけで、いなくなったのよ!」


ノゾミは状況を説明しようとするが、母親の勢いに圧倒されていた。


「すみません…あの…彼が迷子になって、私のところに——」


「言い訳なんて聞きたくない!

毎晩4時間も寝られないのよ。

子どもを育てるのがどれだけ大変か、分かってる?

夫は全然頼りにならないし、必要な時に限っていないのよ!」


ノゾミは顔を青ざめさせながら、頭を下げた。


「…申し訳ありません。」


母親は何も言わずに背を向けた。

言いたいことの半分も言っていないような顔だった。


ノゾミはその場を離れ、歩き始めた。

少年の母親のこと、少年のこと、そしてレンのことを考えながら。


「レンとは、子どもの話をしたことがない。

シンジは欲しがっていたけど…私は違った。

彼とは、無理だった。」


人混みの中を歩き続け、信号の前で立ち止まる。


「シンジとのことは、ちゃんと終わらせなきゃ。

もう顔も見たくないけど…けじめは必要。」


交差点を曲がってきたタクシーを呼び止める。

乗り込んで、適当な住所を告げる。


数分後、目的地に到着。

そこは、彼女の住まいとはまるで違う高級マンションだった。


受付で声をかける。


「607号室です。」


係員がシステムを確認する。


「どうぞお上がりください。

シンジ様から、あなたが来たら通すようにと指示がありました。」


ノゾミは深く息を吐き、エレベーターに乗り込む。

階を上がるたびに、心が沈んでいく。

まるで、上に行くほど自分が小さくなっていくようだった。


6階に到着。

一歩踏み出し、シンジの部屋の方を見る。


扉は、少しだけ開いていた。


ゆっくりと歩み寄る。

心臓の鼓動が速くなる。


扉の前で立ち止まり、ノックせずにそっと押す。


そして——

目の前に広がった光景は、衝撃的だった。


シンジが、リビングのテーブルの横で倒れていた。

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