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第5話 — 心が向かう場所

「気づかないまま、心だけが隣にいた。」



翌朝が訪れた。

空はまだ曇っていた。雨は止んでいたが、

ノゾミの心の中では、まだ嵐が続いていた。

葛藤。沈黙。

時間では癒せない重さが、胸に残っていた。


ベッドから起き上がり、枕元のスマートフォンを手に取る。

画面が光る。


「入力中…」


——終わらないメッセージ。

まるで、何かの罰を受けているようだった。

でも、それは何の罰なのか?

届かないメッセージ?

返ってこない心?


彼女の思考も、感情も、すべてが一つの場所に向かっていた。

レン。


「私、間違った選択をしたのかな…?

結婚生活はもう壊れていたのに。

離婚を望むことが、どうして悪いことになるの?」


自分に言い聞かせるように、言葉を探す。


「…そうだ、きっと彼は家族に会いに行ってるだけ。」


その考えにしがみつく。

暗闇の中で、一本の糸を握るように。


朝食をとる。スマホを見る。——何もない。

歯を磨く。——何もない。

服を着る。

そして、崩れそうになる。


泣きたかった。

でも、目元のメイクが崩れないように、なんとか堪えた。

もう一度スマホを確認する。——何もない。


胸に、針がゆっくり刺さるような痛みを感じる。


涙を少し流した後、鏡を見つめて、自分に語りかける。


「ノゾミ、強くなって。

レンはあなたのことが好き。それは分かってる。」


「彼には理由があるはず。

いつもすぐに返事をくれる人だから。」


鏡に向かって頷く。

自分自身に同意するように。


笑顔を作ろうとする。

でも、身体が拒んだ。


靴を履いて、仕事へ向かうために家を出る。


階段を下り、建物を出た瞬間——

散歩中の犬につまずきそうになる。

完全に心ここにあらずだった。


飼い主に謝り、犬にしゃがんで触れる。

その瞬間だけ、少しだけ、心が落ち着いた。


その後、歩き始める。

左右を見渡しながら、何かを探していた。

何か——誰か。

昨夜の感覚を、もう一度。


同じ角を通る。

——何もない。


混乱したまま、遠回りすることにした。

長い道を選ぶ。


角を曲がった瞬間、あの懐かしい感覚が胸を満たす。

理由もなく、心臓が高鳴る。


周囲を見渡す。

その感覚の正体を探す。


近くにあるのは、毎週マーガレットを買っている花屋。

ダイニングテーブルに飾るための花。


ふと、考える。


「どうして、こんなに胸が高鳴るの…?」

「誰かを思い出す…もしかして…レン?」


「…違う。彼は遠くに住んでる。」


空を見上げる。

雲は少しずつ晴れていく。

でも、あの感覚は消えない。


立ち止まっていると、人々が彼女にぶつかる。

彼女は反射的に謝るだけ。

心は、別の場所にあった。


再び歩き出す。

ゆっくりとした足取り。


そして、なぜか——

心が温かくなった。


まるで、誰かのそばにいるような感覚。

誰か——

大切な人。


まるで、誰かに出会おうとしているような——

でも、すでにその人が隣にいることに気づいていないだけのような。

見えない距離に、心だけが届いていた。

それは、誰にも気づかれない祈りのように——静かに、確かに、そこにあった。

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