第41話 — 桜の下で響く歌
レンはノゾミと出会ってからの瞬間を思い返し、そこへ至るまでの選択を振り返っていた。
避けられぬ運命に縛られていると思っていた。
あり得ない出来事が愛する人を傷つけ、必要な時に手を差し伸べることもできず、ただ見守るしかなかった。
「どうして、ここがこんなにも懐かしく感じるのだろう。
ほんの少し前に“家”となった場所なのに、すべてが遠い。」
気づけば、魔女の姿はもう消えていた。
また新たな謎を残して。
だが今回は、不思議と理解できる気がして、苛立ちは覚えなかった。
涙が手のひらに落ちる。
その時、柔らかな風が桜の枝を揺らし、花びらが舞い上がる。
視線を追うと、偶然ノゾミが窓辺に立ち、頬杖をついて外を見ていた。
レンは慌てて涙を拭い、軽く歌い始める。
届かないと知りながら、せめて心だけでも彼女に届くように。
それは、願いが叶う前に彼女へ書いた歌。
未来を想い、共に歩む日を夢見て紡いだ旋律だった。
“影の中で呼んでいる
届かぬ声は夜に溶けて
君の瞳に僕はいない
それでも見つめている “
最初の一節を歌った瞬間、胸が強く締め付けられる。
思わず手を胸に当て、痛みに耐える。
その時、ノゾミが涙を流し、空を見上げながら何かを呟いているのに気づいた。
レンも同じ空を仰ぐ。
声には出さず、新たな願いを心に刻みながら。
桜の花びらが舞う中、歌は続く。
“同じ空の下
すれ違うふたり
見えなくても 消えなくても
愛はまだここにある
闇に咲く花のように
儚くても 美しい “
二番を歌い終え、再び窓を見上げると、ノゾミの姿はもうなかった。
レンは深く考える。
「今すぐ会いに行くべきなのか。
彼女の傍に留まるべきなのか。」
空の窓を見つめながら、時の流れを忘れる。
ただ彼女のことだけを思い、次の選択を迷う。
突然、車のクラクションが響き、軽い雨が降り始めた。
レンは我に返り、周囲を見渡す。
そこには、赤信号を無視して横断するノゾミの姿があった。
「彼女は…何をしようとしているんだ?」




