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願いの代償  作者: 神谷嶺心
第2章 — 繋がる影
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第29話 ー 触れられない愛、選ばれる運命

「守りたいだけなのに、近づくほど壊れていく。」



ノゾミの事故を目撃したレンは、彼女が搬送された病院へと向かう。

病室に入ると、彼女のそばに静かに座り、手を重ねる。

触れることはできない。

それでも、彼は一瞬たりともその場を離れようとしなかった。


看護師たちは出入りを繰り返し、点滴や血液バッグを交換する。

医師たちは彼女の容態について話し合っていた。


「この女性は…意識が戻らない可能性があります。

事故による脳震盪の影響で、永続的な昏睡状態になるかもしれません。」


機器の数値を確認した医師たちは、静かに部屋を後にする。


レンは感情を表に出せず、ただ呆然とノゾミを見つめていた。

周囲の出来事は彼の心に重くのしかかり、すべてが自分のせいだと感じていた。


彼はベッドから少し離れた椅子に座り、ノゾミの夢の中を知りたくてたまらなかった。


夜が訪れ、病室の扉にあの“老いた魔女”が現れる。

まるで、最初からここに来ることが決まっていたかのように。


レンは彼女をちらりと見るが、言葉を交わす気力もなかった。


魔女はゆっくりと歩き、彼の隣に腰を下ろす。

ノゾミを見つめながら、静かに語りかける。


「悲しい光景ね。」


レンは首を横に振る。


「全部…僕のせいだ。

僕が彼女に近づかなければ、こんなことにはならなかった。

彼女はもっと幸せだったはずだ。」


魔女は立ち上がり、うつむくレンの顔を両手で持ち上げ、目を見つめる。


「確かに、あなたは間違った選択をした。

でも、まだ何も学んでいないようね。


“触れてはいけないもの”を理解しない限り、

あなたは同じ過ちを繰り返す。


過去は変えられない。

未来を決めるのは、今この瞬間よ。」


レンの目から涙が溢れ出す。

彼は立ち上がり、ノゾミに近づいて、そっと抱きしめる。

彼女にはその姿が見えない。

それでも、彼は彼女を包み込む。


「僕が彼女から離れたら…

すべて元に戻るのかな?

もう、彼女が僕のせいで苦しむのを見るのは耐えられない。」


魔女はノゾミのベッドに近づき、彼女の顔にかかる髪を優しく払う。


「彼女も、あなたと同じように選択を迫られる。

その選択が何になるかは、誰にも分からない。


でも、あなたが離れれば——

彼女に迫る破滅は、もっと早く訪れるわ。


その重荷を背負う覚悟はあるの?」


レンは病室を飛び出し、扉の横の壁に背を預けて座り込む。

膝を抱え、涙をこぼし続ける。

胸が裂けるように痛む。

世界で一番大切な人に、何もしてあげられない無力さが彼を押し潰していた。


魔女は扉の前に立ち、彼を振り返ることなく言葉を残す。


「あなたたちは、すべてを超えて繋がっている。

それを無駄にしないで。

変えられないものを受け入れ、

再び出会うための鍵を探しなさい。


それは、あなたのすぐそばにある。

でも、まだ気づいていない。」


魔女は静かに廊下を歩き去る。

夜の病院に響くのは、彼女の足音だけだった。


レンは時間の感覚を失い、ただ座り続ける。

やがて、廊下に人の気配が戻り始める。

看護師、患者の家族——

そして、あの男。


黒沢シンジ。

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