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願いの代償  作者: 神谷嶺心
第2章 — 繋がる影
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第25話 – 記憶の代償

「忘れた記憶は、心の奥でまだ泣いている。」




ノゾミは、迷いながらもユノの提案を受け入れる。

何も思い出せない今、ここがどこなのかも分からず、

失うものがどれほど大切だったかさえ分からない。

その葛藤の中で、彼女は頷いた。


ユノは静かに語りかける。


「いつか、失ったものの意味さえ忘れてしまうかもしれない。

でも、あなたの愛した人は、あなたを忘れない。

未来が、記憶を取り戻すかどうかを決める。

覚悟しておきなさい。」


ノゾミの心臓は高鳴り、手のひらには汗が滲む。

彼女は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。


その瞬間、記憶が蘇り、闇が消えていく。

気づけば、夜の駅のホームに立っていた。

人影はまばらで、静寂が支配している。


そこには、もう一人のノゾミがいた。

プラットフォームの近くで、誰かを待っている。

隣にはシンジがいるが、彼の顔は黒い靄に覆われていて、誰なのか判別できない。


シンジはノゾミを優しく抱きしめながら、静かに語りかける。


「ノゾミ、僕たちの結婚式、どんな式にしたいか考えた?」


ノゾミは彼の目を見つめながら答える。


「まだ決められないけど…

あなたと結婚できるだけで、どんな式でも幸せになれると思う。」


シャアアア——

電車が近づいてくる音が響く。

ノゾミは少し後ろに下がり、シンジは通り過ぎる女性を見つめる。

彼女と目が合い、微笑みを交わす。

電車の扉が開き、そして閉じて、走り去っていく。


ユノは遠くを見つめながら、淡々と語る。


「どう感じた?

あなたはこの瞬間を知っていて、

その火を守るために自らを消した。

顔は見えなくても、心は答えを知っている。」


ノゾミは胸に空虚を感じる。

懐かしいはずの記憶なのに、今は何も響かない。

ただ、悲しみだけが胸を締めつける。

目に涙が浮かび、静かに言葉を漏らす。


「…続きを見せて。」


ユノは首を横に振りながらも、ノゾミの願いを受け入れる。


場面が高速で切り替わる。

まるで早送りされた映像のように、景色が流れていく。


そして、雨の夜に辿り着く。

また別のノゾミが現れる。

彼女はコンビニから出てきて、携帯を操作しながら歩いている。


片手に傘、もう片方に携帯。

水たまりを避けながら、まるで踊るように歩いている。

その姿に、今のノゾミは不思議な懐かしさを覚える。

誰と話しているのだろう、と考える。


数ブロック先、ノゾミは濡れた壁にもたれかかる。

濡れることなど気にせず、携帯に素早く文字を打ち込む。


画面には、冒頭がぼやけたメッセージが表示されている。

名前らしきものが隠れていて、こう書かれていた。


「(...)…離婚を申し出た。

このメッセージを見たら連絡して。

私たちのことを話したい。」


ノゾミの胸がざわつく。

喜びと悲しみが入り混じった感情が溢れ出す。

その記憶に、彼女は知らず知らずのうちに微笑んでいた。


霧が立ち込め、景色が消えていく。

再び、闇が戻ってくる。


ユノの声が響く。


「次に現れる記憶が、あなたの心に触れたなら——

あなたは目覚めるかもしれない。

その記憶には、あなたのすぐそばにいた者がいる。

触れられるほど近くにいた。

あなたは彼を見て、思い出すことができるだろうか?」

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