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願いの代償  作者: 神谷嶺心
第2章 — 繋がる影
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第23話 — ユノという名の女

「願いは、優しさから生まれ、孤独へと変わる。」




何かを願うとき、

世界は静かに、同じサイクルを繰り返す。


“古い魔女”の物語も、例外ではなかった。

その名は――ユノ。


数十年前、彼女は美しい女性だった。

そして蓮と同じように、誰かを深く愛していた。

その愛は、やがて呪いへと変わる願いを生んだ。


車がまだ豪華ではなく、携帯電話も存在しなかった時代。

新聞は玄関先に届き、午後の公園には静けさがあった。


ユノは、湖のそばの公園で、毎日アイスを売る男を見かけた。

彼の名は――タケシ。


ある日、ユノは勇気を出して近づき、アイスを注文する。

微笑みが止まらず、視線を逸らしながら彼の手元を見つめる。


客がいなくなった瞬間、彼は声をかける。

「お待たせしました。…僕はタケシです。よろしく。」


ユノは頬を赤らめ、ずっと知りたかった名前に胸が高鳴る。

彼女は毎日、遠くから彼を見守っていた。

そして、彼もそれに気づいていた。


ユノはアイスを受け取り、恥ずかしさのあまり食べられず、

「わ、私…ユ、ユノです。よ、よろしく…」

と答える。


彼女は背を向けてその場を離れようとするが、

タケシはすぐに話しかける。


「今日、近づいてくれて嬉しいです。

ずっと見てくれてたの、気づいてました。

あなたのこと、気になってました。」


ユノは口元に手を当て、言葉を飲み込もうとする。

「ご、ごめんなさい…えっと…あなた、すごく素敵です。」


心の中で自問する。

「なんでこんなこと言っちゃったの?どう思われるんだろう…」


タケシは優しく笑い、ユノはさらに戸惑う。

「変なこと言ってしまって…もう帰ります。」


溶けかけたアイスを手に、ユノが立ち去ろうとすると、

タケシは腕を伸ばして彼女を止める。


「変じゃないですよ。僕もあなたを綺麗だと思ってました。

それに、アイスが溶けてますね。新しいのを作ります。」


彼はアイスを捨て、新しいものを準備しながら言う。

「ユノさん、さっきは失礼しました。

もしよければ、今夜一緒に夕食でもどうですか?」


ユノは驚きながらも、ずっと願っていた瞬間に心が踊る。

「…はい!えっと…もちろん。

もしよければ、片付けまで一緒に待ってもいいですか?」


その日、二人は一緒に過ごした。

ユノは子供たちにアイスを渡すのに苦戦しながらも、幸せだった。


「ユノさん、今日は本当に楽しかったです。

そろそろ片付けましょうか。」


「私も楽しかったです…じゃあ、先に帰って準備してきますね。

…その、デートの。」


「そうですね…ロマンチックなディナーですね。」


ユノは答えられず、急ぎ足でその場を離れる。

夕焼けを見つめながら、心は彼でいっぱいだった。


だが、交差点で運命は崩れる。

タイヤの悲鳴、衝突音。

空中に舞うアイスと、倒れるタケシの姿。


ユノは息を止め、震える足で彼に近づく。

血を流し、目を閉じた彼の顔は、もう笑っていなかった。


膝をつき、彼を抱きしめながら涙を流す。

「タケシ…起きて…お願い…今日はデートの約束だったのに…」


その瞬間、世界は暗闇に包まれる。

音も人も消え、ただユノだけが動ける。


霧の中から、黒衣の存在が現れる。

顔を隠し、静かに問いかける。


「もし願いが叶うなら、何を望む?」


ユノは震えながら答える。

「タケシがまた笑ってくれるなら…私が代わってもいい。」


その存在は言う。

「代わるだけでは足りない。

永遠に触れられず、彼に見られることもなくなる。

それでも、願うか?」


ユノは喉を詰まらせながら、静かに答える。

「それでも…彼の笑顔が見たい。代償がそれなら、払います。」


その瞬間、ユノの身体は黒衣の存在に包まれ、

タケシは息を吹き返す。


ユノは、誰にも見えない存在となった。

蓮と同じように――。

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