第2話 — 選んだ痛み
「代償は払った。
でも、その先に何があるのか——誰も教えてくれない。」
レンは、どれほどの時間そこに立ち尽くしていたのか分からなかった。
数分だったのか、数時間だったのか——
ただ、雨は細く静かに降り続けていた。
まるで世界が彼の痛みに寄り添うように、泣いているかのようだった。
ようやく動き出した彼の足取りは、重く、目的もなく。
三つの通りを越えた先にある小さな広場へと辿り着いた。
そこに咲く一本の桜の木の下、濡れたベンチに腰を下ろすと、
レンは顔を両手で覆い、静かに崩れ落ちた。
指の隙間から涙がこぼれ落ち、
桜の葉から滴る雨粒と混ざり合って、彼の頬を濡らした。
彼はぽつりと、誰もいない空間に向かって語り始めた。
まるで、空虚だけが彼の唯一の聞き手であるかのように。
「どうして、こんなにも苦しまなきゃいけないんだ?
愛するって、捧げることじゃないのか?
僕は愛した。捧げた。
それだけじゃない…近くにいたいと願った。」
彼は体を後ろに倒し、ベンチにもたれかかった。
見上げた空から、桜の雫が顔に落ちてくる。
それはまるで、小さな罰のようだった。
彼は泣き続けた。
抑えることもせず、ただ、ありのままの痛みを流した。
そのとき、雨音に紛れて、静かな足音が近づいてきた。
だがレンは気づかず、独り言を続けていた。
「愛に苦しむ…苦しみの中の愛…
どうして、心を持つことに代償が必要なんだ?」
かすれた女の声が、雨音に紛れて響いた。
それは、闇の中から届いたような、静かな残響だった。
「——あなたが選んだから。
拒むこともできた。
でも、あなたは自分のために選んだ。」
レンは顔を上げた。
赤く腫れた目で、フードを被ったその姿を見つめる。
「苦しみの愛…あなたは愛した。
彼女は、いつだって手の届く場所にいた。
でも今、あなたが苦しんでいるのは——その選択の代償だ。
彼女はすぐそばにいる。
それなのに…その代償は、何を奪った?」
雨に濡れたレンは、怒りに満ちて叫んだ。
「お前のせいだ!
お前が現れなければ、僕は普通に生きていた!
でも…」
怒りは、疲れに変わった。
彼はうつむき、かすれた声で呟いた。
「でも…今さらどうすればいいんだ?
この呪いを…どうすれば…」
魔女は静かに答えた。
「——時間を巻き戻すことはできない。
でも、未来を変えることはできる。」
レンは困惑した表情で彼女を見つめた。
「それが…僕が彼女に見えなくなったことと、どう関係あるんだ?」
彼女は背を向け、ゆっくりと歩き出した。
「答えは、思っているより近くにある。」
レンは慌てて立ち上がり、叫んだ。
「どうすればいいんだ?
それが…君が僕に伝えたかったことなのか?」
彼女は立ち止まり、肩越しに顔を向けて言った。
「——あなたは、まだ準備ができていない。」
そう言い残して、角を曲がり、姿を消した。
レンはすぐに追いかけた。
だが、もう彼女の姿はなかった。
彼は地面に転がっていた空き缶を蹴り飛ばし、
その場に立ち尽くしたまま、ぽつりと呟いた。
「…これから、どうすればいいんだ?」
誰も教えてくれない。
だから、立ち止まるしかなかった。
それでも、雨は止まらなかった。




