第16話 — 鍵の音
「鍵は回った。
でも、牢獄はまだ彼女の中にある。」
ノゾミは何をすればいいのか、考えることすらできなかった。
シンジがこんな行動を取るなんて、想像したこともなかった。
いや——
この状況に陥るまで、彼との悲しい記憶を思い出すまでは。
彼女はまだ認めたくなかった。
シンジが本当に自分を監禁しているという事実を。
シンジはノゾミをじっと見つめ続けていた。
ノゾミが視線を逸らそうとすると、彼は素早く顎を掴み、顔を自分の方へ向けさせた。
「レンって誰か、ただ教えてくれればいい。
君に危害を加えるつもりはないよ。
実は、君のことはまだ決めかねてる。
でも、あいつには——確実に何かする。」
ノゾミの心臓はさらに激しく鼓動し、
パニック寸前だった。
自分がここにいることよりも、
レンに何かされるかもしれないという恐怖の方が、ずっと大きかった。
ノゾミは震える声で答えようとした。
でも、どうしても言葉が詰まる。
「えっ…レ、レンは…とも、友達…」
それ以上、何も言えなかった。
頭の中は混乱し、痛みと恐怖が渦巻いていた。
ただ、それだけを言って、
彼が納得してくれることを願った。
でも——
この状況では、どんな真実もシンジを落ち着かせることはできなかった。
彼はノゾミの顎を離し、立ち上がった。
部屋の中を歩き回り始める。
顎に手を当て、うつむきながら、
何かを考えているようだった。
腕を振りながら、ぶつぶつと呟き、
ノゾミの周りをぐるぐると歩き続ける。
その間、彼は一度もノゾミを見なかった。
ノゾミは、腫れ上がった手首に力を込めた。
皮膚が焼けるような痛みを感じながらも、諦めなかった。
肩が動かないように注意しながら、
指先だけでベルトの留め具に手を伸ばす。
痛みに顔を歪めながらも、
なんとかピンを押し込み、少しだけ緩めることができた。
その瞬間——
シンジが突然動きを止めた。
腕を下ろし、壁の一点を見つめる。
口を少し開け、目を見開いて、まるで幽霊でも見たかのような表情。
指を鳴らし、何かを思いついたように笑い出す。
ソファへ向かい、何かを探し始める。
クッションをひっくり返すが、何も見つからない。
「俺のスマホ、どこに置いたっけ?」
ソファの下も探すが、そこにもない。
ノゾミの心臓はさらに高鳴る。
今動くべきか、それとも待つべきか。
シンジは戻ってきて、椅子を回転させ、
ノゾミの前に座った。
腕を背もたれに乗せ、彼女を見下ろす。
「君とその友達たちね。
俺にも女友達はいるんだよ。」
「付き合い始めた頃から、
他の女とも関係があった。」
「でも、君だけは特別だった。
何人と遊んでも、最後は君の元に戻ってきた。」
「なのに、君は俺に気持ちがあるふりすらしてくれなかった。」
シンジは椅子から立ち上がり、背を向ける。
ノゾミは驚きと衝撃で言葉を失った。
彼女はいつも誠実で、優しかった。
愛がなくても、嘘はつかなかった。
でも今——
何年も騙されていたという事実が、胸を締め付ける。
彼女は顔を伏せ、髪が目を覆う。
涙がこぼれ始める。
恐怖ではなく——
自分を責め続けてきた年月への悲しみ。
シンジは天井を見上げ、
突然、大声で叫んだ。
部屋の中なのに、構わずに。
そしてノゾミを見つめ、
顔を下げたまま——
拳を振り上げ、
彼女の顔に殴りかかった。
椅子ごとノゾミは倒れ、
数センチ滑って止まった。
シンジはそのまま寝室へ向かった。
まるで何事もなかったかのように。
ノゾミはショック状態だった。
でも、怒りが沸き上がっていた。
彼の足音が遠ざかるのを聞きながら、
残された力を振り絞って手首を引っ張った。
唇を噛み、声を漏らさないように。
血が一滴、口元から落ちる。
片方の手首が外れた。
続いて、もう片方も。
痛みで涙が止まらない。
でも、彼女は立ち上がった。
冷静に。
計算された動きで。
目を向けたのは——
玄関のドア。
鍵はまだ差し込まれていた。
ゆっくりと歩き出す。
体は弱っていて、壁に手をついていないと立てない。
あと一歩。
ドアの前に立つ。
その時——
寝室のドアが開く音が聞こえた。
呼吸が、熱から冷へと変わる。
鍵を回す。
「カチッ」と音が鳴る。
体が凍りつく。
最後の一息で——
ドアを開けた。




