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願いの代償  作者: 神谷嶺心
第1章 — 姿を消すことの代償
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第15話 — 記憶の檻

「沈黙を強いる愛は、愛ではない。

それは、優しさを装った支配だ。」





ノゾミは打ちのめされていた。

「レン」という名前が出た瞬間、心に刃が突き刺さったようだった。


シンジがこんなにも暗い一面を持っていたなんて、想像もしていなかった。

何年も一緒にいたのに、彼の隠された性格に気づかなかった。


でも、過去を思い返すと——

その兆候は、いつも目の前にあった。


ノゾミは、自分の些細なミスにばかり気を取られていた。

彼を怒らせる原因だと思い込み、

自分を責め続けていた。


でも、それは本当に些細なことばかりだった。

意味のないことで怒られるたび、

ノゾミは理解できずに苦しんでいた。


そして、記憶が次々と蘇る。


——出会ったばかりの頃。

距離が近づき始めた頃。


シンジは怒りに満ちた顔で近づいてきた。

ノゾミが気づいた時には、もう目の前にいた。


「ノゾミ、あいつ誰だよ?!

なんであんなに笑ってるんだ?」


彼はノゾミの腕を掴み、男の元から引き離した。

男は驚き、何が起きているのか理解できずに立ち尽くしていた。


シンジはノゾミを壁に押し付け、

腕を壁に置いて、

顔を近づけた。


「は?誰だよ?

いつから知ってる?

まさか浮気してるのか?」


ノゾミは優しく、穏やかな性格だった。

そんな表現の仕方が理解できなかった。


それが“普通”だと思い込んでいた。


彼女は圧力に押されながら、静かに答えた。


「彼は幼なじみなの。

小学校から高校まで一緒だった。」


「彼は恋人ができてから距離を置いたけど、

今日、何年ぶりかに再会したの。」


「子供がもうすぐ3歳になるって話してて、

誕生日パーティーに招待してくれたの。」


「あなたに相談してから返事しようと思ってたの。

でも、あなたが近づいてきて…」


シンジは納得せず、さらに怒りを募らせた。


「二度とこんなことするなよ。

お前は俺の女だ。行くぞ。


今夜、母さんと夕食だ。

お前を紹介する。」


それだけで、すべてが終わったように見えた。

彼のわがままに従えば、すべてが解決するかのように。


ノゾミは受け入れた。

自分が間違っていると思ったから。


「私は彼の妻。

他の男と親しくするのはよくない。

たとえ友達でも。」


でも、心の中では混乱していた。

なぜ、レンに惹かれたのか?


シンジと結婚していたのに。

形式的な関係しかなかったのに。


なぜ、レンは違うと感じたのか?


さらに記憶が蘇る。


——結婚式の日。

ノゾミはゲストと話していた。


シンジは離れた場所で、友人たちと笑っていた。


その姿を見て、ノゾミは嬉しくなった。

彼が楽しそうに笑っているのが嬉しかった。


そこへ、ノゾミの職場の同僚が近づいてきた。

結婚を祝福してくれた。


ノゾミは感謝の気持ちを込めて、優しく抱きしめた。


その瞬間、何かを感じた。

振り返ると——シンジがいた。


眉をひそめ、じっとノゾミを見つめていた。

数秒が、永遠のように感じられた。


友人が肩を叩くと、シンジは笑顔に戻った。

また笑い始めた。


式の後、ホテルへ向かった。

幸せな夜になるはずだった。


でも——それは地獄の始まりだった。


ノゾミはベッドに座っていた。

まだウェディングドレスを着たまま。


シンジは部屋の中を歩き回っていた。


「何度言わせるんだよ?!

お前は俺の女だ!」


「なんで他の男とベタベタしてるんだ?

俺のことをどう思われる?


弱い男?不能?

嫁が他の男と仲良くしてるって?」


シンジはノゾミに近づき、

突然、彼女の顎を掴んだ。


強く、痛みを伴う力で。


「浮気してないよな?

してたら…どうなるか、分かってるよな?」


そう言って、シンジは部屋を出て行った。

ドアを思い切り閉めた。


ノゾミは呆然としたまま、涙を流した。

枕に顔を埋め、化粧が滲んだ。


その夜、シンジは戻らなかった。

翌朝、チェックアウトの時間に——


「家で待ってる」とメッセージが届いた。


ノゾミの思考は、また漂い始めた。


——いつから、シンジを好きじゃなくなったんだろう?

いつから、彼を怖がるようになったんだろう?


——なぜ、離婚を決意できたんだろう?


…レン。


レンはいつも話を聞いてくれた。

決して責めなかった。


悲しい時は慰めてくれた。

笑わせてくれた。


いつも正直だった。

自分の気持ちにも、ノゾミにも。


レンと話すと、 自分が“自分”でいられる。


でも——

なぜ、こんなことになってしまったの?


そして、現実が戻ってくる。


シンジがノゾミの顔を優しく叩いていた。

ノゾミは意識を取り戻す。


「何があったの?

なんで顔を叩いてるの?

私…寝てた?」


一瞬で、すべてを思い出す。

今、自分がどこにいるのか。


シンジの部屋。

椅子に座らされ、手首は縛られている。


シンジは胸に手を当て、安堵の息を吐いていた。

ノゾミは首に痛みを感じる。


まるで、指の跡が残っているような。


シンジは安堵、怒り、笑い——

すべてを同時に抱えていた。


片手で目を覆いながら、

ノゾミを見つめて言った。


「目が覚めたなら、もう一度聞くよ。

——レンって誰だ?」

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