第11話 — 不在の演技
「見えなくても、選択は残る。」
その瞬間の光景に、レンは言葉を失った。
シンジがノゾミに近づき、彼女は明らかに彼を避けようとしていた。
二人の言い争いを目の当たりにし、
レンはノゾミが涙をこらえて背を向けているのを見逃さなかった。
怒りが込み上げる。
壁にもたれたシンジを押そうとするが——
レンの手は彼をすり抜けた。
さらに怒りが増す。
誰にも届かない叫びをあげる。
誰も気づかない。
誰も振り向かない。
シンジは苛立ちながらも、すぐに立ち直ろうとする。
その場でタクシーを呼び、乗り込む。
レンも迷わず乗り込んだ。
シンジが自宅の住所を告げると、
運転手は料金の高さに少し驚いた様子だった。
数分後、街の景色が変わり始める。
高級な建物、商業施設の少ないエリア——
レンには馴染みのない世界だった。
シンジはスマートフォンを取り出し、メッセージを打ち始める。
レンはその画面を盗み見た。
「ノゾミ…僕が変わったことを証明したい。
もう一度チャンスをくれないか?
今夜、夕食に付き合ってくれないか?」
レンは目を見開いた。
——本気で言ってるのか?
現実を見ろよ、シンジ。
もう終わってるんだ。
目的地に到着すると、シンジは料金を払い、
さらに運賃以上のチップを渡した。
レンは後を追う。
魔女の謎が、この瞬間に繋がっている気がした。
考える暇もなく、ただ追いかける。
シンジは受付でスマホを確認する。
ノゾミからの返信はまだない。
彼は落ち着かず、ロビーを歩き回る。
受付の女性は無表情のまま、目だけで彼を追っていた。
シンジは天井を見上げ、突然笑い出す。
理由もなく、意味もなく。
そして、再びメッセージを打ち始める。
「ノゾミ…君がいないと、僕は存在できない。
もし僕がこの世を去ったら——君はどうする?」
その表情と動きから、レンはすぐに異変を察した。
だが、証明する手段も、誰かに伝える方法もない。
ただ、追い続けるしかなかった。
シンジは受付に向かい、こう告げる。
「女性が後で訪ねてくる。通してくれ。」
「かしこまりました。」
彼はエレベーターへ向かう。
レンは考え込んでいて、乗り遅れそうになる。
シンジは不気味な笑みを浮かべながら、足を小刻みに鳴らしていた。
6階に到着。
シンジは部屋へ向かい、扉を閉めずに軽く押しただけ。
その仕草に、レンは違和感を覚える。
シンジはバスルームへ行き、薬の瓶を取り出す。
それをリビングのテーブルにばらまく。
髪を乱し、服を無理やりくしゃくしゃにする。
そして、床に倒れ込む——
まるで気絶したかのように。
レンは怒りに震え、周囲の物を叩こうとするが、
何も触れられず、すべてをすり抜ける。
その怒りが頂点に達した瞬間——
部屋の奥から、魔女が現れた。
「さて、次はどうする?
彼女はもうすぐここに来る。」




