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4 道化、時間を制する

 どうぞ。

 飛びかかってきた敵をギリギリまで引き付け、そしてコールする。


「〈セット・スタンダード〉」


 巨大化したボールが、空中で止まる。突撃してきた敵が、ボールにぶつかった動きのまま停止した。知能があるモンスター相手だと、コールする技名を分けておくと有利になる、とティニーさんが言っていた。ボールを巨大化させた〈ギガントスケール〉は、完全に相手の意識外だったようだ。


 面食らったゴブリンたちは、どうしていいか分からずに相談をしようとしているけど、それもボールの使用者側の私にしか見えていない。回廊にぎっちぎちに詰まったボールは、もはや陣形も何もない壁と化していた。


「〈アイシクル〉」


 さっき使った〈は図み軽魔ジック〉は、ボールが自動で跳ねる以外にも、魔法陣を描く効果もある。まっすぐ並んだ三つのボールは〈ブースター・ゲート〉、魔法を通すことで威力をどんどん上げられる、道のような陣形を描いている――当たった瞬間に、召喚したゴブリンと小さい恐竜は凍り付いた。ついでのように、ゴブリンは砕け散る。


 残ったのは、双頭の蛇だけだ。


「シュルル……」


 鎌首をもたげる蛇は、時間結界を警戒して近付いてこない。いくつもカードを投げておいて、結界が解けた瞬間にカードが殺到するように仕掛けた。近づけず、遠距離攻撃も意味がなく、逃げることもない……膠着した状況の中で、私はカードを投げ尽くした。


「シィイイ……?」

「なくなると思う? だめだよー」


 ぱん、と手を叩く。さっき倒した敵のドロップアイテムが、【ひどい手癖】でカードに変わる――武器なのに消費アイテム、単位は「デッキ」なので、枚数を補充するときだけではなく、ストックをひとつ増やすこともできるのだ。ズァララッとカードをシャッフルして、必要な枚数を取り出した。


「シュウ、ォオオ!」


 蛇の吐きかける毒液は、ぴたっと空中で止まった。


「だーめ。結界は解けてないよー?」

「ルルィオゥウ……!!」


 思い切り尻尾を振り上げた蛇は、そして地面に叩きつける。予想外のところから地震攻撃なんてやってきたから、ちょっとだけ動揺したけど……さっと出したボールに乗って、もう一回〈は図み軽魔ジック〉をかけ直す。


 効果が目に見えているせいか、〈セット・スタンダード〉の時間結界が途切れた瞬間に、蛇は弾みを付けてこちらに突進した。五十枚を超えるカードが殺到するが、まともに刺さったのは半数以下だ。そんなものは効かん、とばかりに蛇は進撃を続ける。ボールに乗っているこっちに狙いを定めて、敵は思い切り飛び上がった。


「シャアアッ!」

「おやおやー……」


 回廊を塞ぐほどに膨れ上がったボールが、敵を大きく吹き飛ばした。そして瞬時に人間大にまで縮んだボールを、〈ヴォルカナイト〉で思いっきり蹴り飛ばす。陣形を描く効果のおかげで、ひとつを蹴飛ばしただけで残りの五つも追随し、六連撃がクリーンヒットする。ドゴガガンッ!! とボールとは思えない轟音が響き渡り、敵の体が上下左右にもてあそばれた。カードが刺さったまま凍結から解けた恐竜も、ついでのように砕け散る。


 まだ態勢を立て直そうとする双頭の蛇の周りに、六つのボールを配置する。たん、たんと跳ねる六つが形を描いたところで、〈リンクボルト〉を撃った――六角形のリンク、そして中心点にある蛇が最短距離ですべてをつなぐ。紫電が弾け、敵の体がぎゅっと伸びてゆっくりと崩れ落ちた。


「よし! 最初の敵、よゆーで倒せた!」


 まだ、ハットと飾剣を使っていない。飾剣はそんなに強くないけど、ハットはかなり切り札みたいな立ち位置だから、ボス戦なら使うかもしれない。カード飛ばしはカッコいいからメインにしたかったけど、もうちょっと不意打ちみたいに使った方がよさそうだ。


 戦いの音が遠くまで響きすぎたのか、敵が様子を見に来ている。


「もっともっと、試さないとね」


 ボールを跳ねさせながら、私は殺到する敵に向かっていった。




「ふぅ……敵もけっこう召喚するんだなぁ」


 デメリット付きのようではあるけど、敵も数人の力を合わせてすごいものを呼び出していた。さっきの蛇もすごかったけど、もっと大きなワニや巨大ザリガニもいて、思ったよりも戦力が充実している。ゴブリンも何種類もいて、弓や投石を使うやつはけっこう面倒だった。


 でも、ハットを使うことなく済ませられたのはよかった。いちばん奥まで来た扉の向こうは、きっとボス戦だろう。けっこうなコストを支払うから、強敵相手に温存しておきたかった技……使う機会がないならないでいいけど、試してみたさもある。


「扉の向こうは、っと」


 ノックすることもなく、触れた瞬間に扉は向こう側に沈むように開いていった。


「グガガガ……」

「おぉー、サイクロプス……!」


 棍棒を持った一つ目の巨人が、数えていたお宝の山から顔を離して、こちらを見た。


「手下ドモ、オ前カ。宝物、使ウ……」

「宝物?」


 腰巻きに宝石を取り付けたサイクロプスは、膨れ上がった筋肉で壊れた腕輪の代わりを身に着けて、野球選手みたいに腕をぐるぐると回す。


「オ前、倒ス。生カシテオケナイ」

「勝たなきゃなのは、私もだよ」


 どんなゲームでも、最後に負けたら結局負けだ。ダンジョンからちゃんと出るには、生きて相手を倒さなくてはならない。


「出番だよ、“サー”」


 手に取ったシルクハットに、優しく語りかけた。

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