245 見てなくてもイベントは進む
どうぞ。
商人・職人ギルド「タイトルタイルズ」拠点にて――幹部たちは、直近の成果を確認していた。
「はー……リアルやったらお盆過ぎには海水浴なんてせんもんやけど、水着はほんまに、よー売れとってありがたいわぁ。デザイン凝っても布代そんなに変わらんし」
「まだ夏なんですし、暑い時期も続くのに、どうして海水浴をしないんですか?」
ギュンザーの疑問はもっともだった――事実として、避暑のために海水浴をしているのであれば、水辺に入ることは間違っていない。しかし、それは一面的に過ぎる読み方だ。
「彼岸過ぎにはクラゲが増える、それがまず事実として危険だ。そして、死者や亡者が連れて行こうとしているようで、水難事故が異様に増える。これもまた危険だ」
「相関関係あるんですか?」
「おおかた、クラゲに刺されて腫れたとこが手形に見えたとかやろ。川辺でも、夏の間によぉ雨が降って新しいぬるっとしたコケが生えてきとって、足滑らせやすぅなるんちゃうの。環境はつねに変化しとるんやで」
「さすがはギルドマスター、事実のみで説得できるとは」
ええて、と涼花は大男「シキヤマ」に面を上げさせる。
「ま、〈呪術師〉やからオカルトにも触れときたいとこやけど、うちはぜんぜん詳しないからわからへんわ。それよか、それぞれ部門はどうなん」
「はっ、職人部門は狂ったように水着を作り続けていますが、完売。新デザインも飛ぶように売れています。性能を強化したものも」
「うん。ギュンザーはどう、売れ行き予測と実際の売れ行きのギャップは」
「今回はほとんどありませんよ。ただ、フィエルさんが持ってきた「魂魄鍛造」の武具は、高値がつきすぎて売れてません」
ふーん、と首を傾げた涼花は、すこし考え込む。
(イベントはまー美味しいさけ、人が集まるんも分かるけど。最低限必要なコストだけ払っとく無課金勢と、ズンパスだけ買っとる微課金勢……どっちも配布以上の性能を求めてくれたんはええ経過やったね)
浜辺のみならず、ローグライトダンジョンや水中探索でも「水着」カテゴリの装備はすぐれた性能を存分に発揮している。そして、イベントトークンの入手や獲得経験値・アイテムにも補正がかかる……ボーナス期間としては上々だ。
「フィゴ・サ=ヴィオとハイムノアの方はどうなん? 扱えそうな商品は」
「フィゴ・サ=ヴィオについては、料理に関連する職人とアイテムの需要がかなり高まっているので、アルバイトでも稼がせています。ハイムノアは思ったよりも薬草の質がよく、これまでにない性能のアイテムがいくつも」
「あ、マスター。新興ギルドのことなんですけど」
「うん、言うてみ」
夏の間に新規プレイヤーが大量に入り、ある強者の不在によって、それぞれの分野で伸びてきている。四大陣営にも属さない、アマルガム以上に自由や混沌を重んずる……というよりも、アンコントロールなものども。
「それなりには成果を出してるけど、資本力も開発力もウチほどじゃないね。新大陸であれこれスキルを仕入れて、エッセンス凝縮系の製造系スキルをいろいろやってるみたいですよ」
「〈魂魄鍛造〉と、あと〈圧縮錬成〉やったっけ」
「それです。あっちは【愚者】が多いから、手に入るアイテムの数もやたら多くて、そこで押してるつもりなのかな……」
「せやったら、BtoBでやったろか。シキヤマ、エンチャントが簡単になる金床とか、成功率が上がる装備とか……あと、隠しステータスを付けられるハンマーもあったやろ。あれ売り出しぃ」
今までは内側だけで消費していたアイテムだが……需要があるのなら売れる、それが商売だ。恭しくうなずいたシキヤマは、「さっそく」とメールを操作し始めた。
「ビートゥービー……」
「お客さんやのうて、会社に売りつける商売のことやで。職人も道具は買っとるやろ、うちで使っとるやつを売りつけたるんや。出せる金額で品質は変えたったらええ、現実やったらいくらでもやっとることなんやから」
そもそも、独禁法がなかったとしても、独占状態では競争が起きず、市場が成長しない。街の数が増えたからと利益が増えるわけではなく、独占状態で煮詰まっていくプレイヤーたちも次第に適応して、声をあげなくなっていく。内製需要だけで回していたアイテムもまた、成長すべき機会が来たのだ。
「涼花さん、例の方が」
「ん? 今日は来ゃはる予定と違ゃうかったと思うけど。どうしたん」
「それが、フィエルさんと戦う約束をして、装備を整えたいと」
「あー……あれで速攻? まあええわ、通してもろて」
応接間に向かった涼花は「よっ!」と片手を上げた青いボンデージの女を見た。
アカネの不在期間は、古参と戦うだけじゃ顔ぶれが重なってくるので、新参の強者を生やすためです(暴露)。二か月もあれば、どんなネトゲだろうとだいたい一線級近くなれるし。課金回りについては……またいずれ、廃課金でも出てくればやるかも。




