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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
6章 遺失記録:8/30~8/32

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6-12「メトロノームはひび割れて・4」-2

 どうぞ。

 ごうごうと荒れる吹雪の中で、少女の形が崩れていく。最悪の事態、かつて世界の終焉を招いた事件の再来。


「ああ。これだけはと――これだけはと、何度言えばいいのでしょう」


 フェスト・イヴは、端的に言えば、敵の力に適合し我が物としたものたちのことである……という言い方には、大きな語弊がある。体内に侵入したフィノミナが思考領域にまで食らいつき、しかしそこで浸食を止め、寄生した人間と共存している状態が「フェスト・イヴ」と呼称されているからである。


 フィノミナの浸食がなぜ止まったかの原因には大きな個人差があり、体内でどのような状態になっているかも、個々人によって大きく違う。尋常の病気に則っていうのであれば、「いつ悪化してもおかしくない安定状態」とでも述べられようか。ゆえに、きっかけがあればそれ以上に悪化することも、フィノミナ自体が消失して能力や記憶を失うこともある。目の前の光景は、少女たちに「前夜祭(フェスト・イヴ)」という名が付いた事件の再現そのものだった。


「……〈賜祭礼伎(ツェレブルム)〉」


 昔から、バーチャルタレントの「卒業」=引退には、それなりのトラブルがつきものだった。それもそのはず、人気商売の中心がごっそり抜けてしまうのだから、穴埋めに奔走し、権利関係も整理せねばならなくなる。事務処理も顧客の奪い合いも、すさまじい量があるはずだった――が。


 フィノミナの完全体〈ツェレブルム〉は、寄生した人間の情報総てを食い尽くした状態である。本人の記憶や肉体情報、オンラインに残されたデータベースや動画、配信アーカイブ、そこに付随する他者の感情や記憶もすべて、何もかも消える。「タレント卒業時にいっさい荒れない交渉力」などなく、「さすがにマズいから架空のキャラを悪役にしている」わけでもない。


 人が消え、その痕跡も消え、仲間たちだけに深い傷跡が残る。それゆえに、みな仲良くしようと「安眠会」をしたり、同じマンションにほとんど固まって住んだりと、フィノミナが急成長する主因となる、爆発的な負の感情を防ぐのだ。


 通信の向こうから、奥歯を砕きかねないほど噛みしめている音が聞こえる。


『……ツェレブルム検知、A+ランク。都市級です、注意して対処にあたってください』

「了解」


 肩にシカの頭のトロフィーを取り付けた、ツルのように長い首の針金人形。奇妙なほど長い尻尾は、アラクネのような白磁の人形とつながっていた。そこにはもはや、アルゴスフィアのもとになった少女の体構造も記憶も、何もない。埋葬できる物体は何もなく、引受人が申し出てくることもない以上、有志が葬儀を執り行うほかにない。


「行こう。救いになるかどうかは、彼女が決めることだ」

「ええ」


 飛んでくる球体は、ここにいる全員が驚くほどすんなりと見切っている。アルジェンティーネは、状況にもかかわらず、苦笑を漏らした。


(“あの子”が訓練相手になっちゃうなんてね。宣伝に参加しておいて良かったわ)


 先日の、VRゲームにおける戦い……「メルクリウス」という集団の中で、魔王の道化として振る舞う少女は、恐ろしい数の球体を操る力を持っていた。意図を持ったものと自動操作を組み合わせていたあれと比べると、すべて制御しようとして抜けが出ているこれは、まだ分かりやすい。


 捨てを作りながら全員をまんべんなく狙う、黒い球体。網で捕まえて撥ね返し、球体同士をぶつけて相殺しながら、アルジェンティーネは敵の未来を視界に捉える。


(動きは遅い。遠距離タイプではなく、「二面性」タイプ。単純な能力ふたつの組み合わせが、何より厄介――だったのでしょうけど)


 その未来は、閉ざされている。


「口ね。その奥にあるわ」

「やってやるわ!」


 糸を伸ばし、粘着性のそれを巻き取ることで高速移動する能力。そして、球体を作り出して飛ばす能力。組み合わせれば、超高速でどこへでも移動し、破壊の暴風雨を降り注がせることができるのだろう。


 が、アラクネは口から糸を出すことができなくなっていた。


『……!?』

「単純明快なものほど、出力は高いのよ」

「あの子の欠点も引き継ぐなんて……ね」

『モァガ、ガァアア!!』


 アルジェンティーネの網は、当たったものをやってきた方向へ撥ね返す以外の力を持たない。どこへでも一瞬で出したり消したりすることができるが、移動することはできない。たった二つをただ出して消すことしかできないが、攻防一体の恐るべき能力だ――糸に粘着力があろうが関係なく、吐き出した口へそのまま戻り、その口をふさぐことができる程度には。


「あの子なら、迷ったり諦めたりなんてしなかったわ。お前は、あの子じゃない」


 強い使命感と仲間意識は、彼女の支えになっていた。だからこそ魔道に堕ちたとしても、フィノミナには彼女が理解できていなかった……霧散した彼女の思考をトレースなどせず、能力の礎とするにとどまった。


 剣で切り裂かれ、メイスでひしゃげる手足は、もうほとんど移動能力を持っていない。触手から抜け出そうと暴れる人形はついに引きちぎられ、ぶるりと大きく震えたアラクネもまた、血の大槍で貫かれて沈黙する。ざらりと砂のように溶けた死骸は、夜層を構成する物質として、文字通り土に還っていった。


「……あら? アルジェンティーネさん、あちらは?」

「結界が、解除されていない……?」


 ドーム状に東京臨海部を覆う結界は、健在であった。


「宵待さん、あれ何なのよ。あの子が仕掛けたんじゃないの?」

『おかしいですね、反応が変わっている……あれは、アルゴスフィアさんの展開したものではありません』

「乗っ取られたということですか!?」

『便乗した、という方が近いようですが。出入りを禁止していない、効果も薄すぎて解析不能……? 自然発生ではないが、何かおかしい……』


 何が起きているというわけでもなく、ガラスのドームのような光の反射が見える程度で、練習としても稚拙に過ぎる。


「突入命令があるまで、交代で見張るわ。いいかしら」

『ちょうどマンションから見える位置です、おのおの自宅に戻ってください。この季節ですから、夜でも待つには厳しすぎます』

「了解いたしましたわ。あっ、あの……」

『私用でにごフェスに行く件は、事前の通告通り、戦闘準備を万全にしておいていただければ問題ありません。変更はありません』


 通信の向こうへ頭を下げるD.S.を見て、アルジェンティーネは静かに微笑んだ。


(損得も過去も考えずに、友達になれる。純粋で、いい子だわ)


 遠からぬ未来に、自分の代わりに中心に立つであろう少女を見た占い師は、みなの未来に向けた一歩を……ひとまずは寝るために、進み出した。

看撮璃(みどり)くも」


 バーチャルタレント事務所「NameLLL(ねむる)」所属のタレントとされる人物。’07年活動開始、’11年八月末ごろ卒業、アーカイブなし。チャンネル登録者36万人、配信の平均同時接続数は6000~人程度。雪のような水色のミニドレスに蜘蛛の巣のようなアクセが目立つデザインで、主な活動内容は「雑に作れる料理」などの動画シリーズ、少々愛社精神が強すぎる変わった価値観による人生相談への応対。鼻歌や口笛は好きだとしつつも、音程を捉えるのが下手で歌は上手くない。


 ……と、これだけの情報があるものの、上記の動画や配信アーカイブ、事務所が買い取ったマンションに住んでいた記録などの実在を裏付ける証拠は、とくにない。プロモーション漫画『キラくるドリーム☆すてらちゃん!』に登場する、闇堕ちするフェスト・イヴ「アルゴスフィア」のためにデザインされ、いわゆる「存在しない記憶」として記録されているものと思われる。


『キラ☆すて』の当該部分後の小さいイラストには、明らかに実在する風景(東京付近のとある海辺)で花を手向けている「アルジェンティーネ」のイラストがある。実際にその場に献花されている事実は「NameLLL(ねむる)」ファンの間では有名だが、実際にはほかの交通事故・海難事故のものと思われ、関係者の中にいた遺族が間接的にでも弔うため、私情で挿入したものとされている。なぜ許されているのかは不明。

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