’11年8月30日15:47 東京都江東区有明3丁目11-1 東京ビッグサイト構内
コスプレブースに着くと――
「わ、スペクトラBBだ……!」
「菓子パンの袋にプリントされていた気がしますね」
「そうだよー、大人気の二世ヒーロー。初代の息子さんなんだよね!」
「あっ、あのポーズ。ベータープラズムですね、たしか」
国民的に有名なヒーローだから、必殺技もみんな知っている。赤い体に穴の開いたトサカ、胸のライフ・ランプ。子供が見てもみんな「スペクトラだ!」と言うに違いない、ものすごく分かりやすい姿をしている。父が元祖スペクトラだからか、息子のスペクトラBBも、最近の流れを汲んだデザインになりつつ、かなり元祖っぽいデザインだ。
「スーツめっちゃくちゃ暑いって聞いてるけど、だいじょうぶなのかな……?」
「おたく、ご存じない? あそこはユニットで四人入れ替わり制だから心配ないよ」
「ありがとうございます。じゃあ大丈夫なんですね」
「いや過酷だけどね。本っ当に根性で耐えてるから」
じゃ、とさっと去っていったメガネの男性にお礼を言いつつ、列に並んで待つ。ちゃんと見ると、ちょっと大きめのバンを用意して、そこで着替えたり交代したりしているようだった。ちょっとずつ近付いてくると、横にいるお姉さんがマイクを操作して、録音したっぽい音声を出している。動作に合わせて、本編から取ってきた音声を流しているようだった。ちょっと権利的にあぶない気もするけど、あんまし気にしないことにした。
『オォオオオ……ショワァアアッッ!!』
「あ、映画のコアショットのときの声だ」
「分かるんですね……」
「本気度が違うもん。いつもスマートにささっと決めちゃうから、本気出すときの声がすっごく決まるんだよね」
時代を超えて、のちのちのシリーズにも助っ人として登場した初代「スペクトラB」だけど、いつでも現役であり続けたせいか「息子が出てくる」と言われたときのハードルがちょっと高すぎた、らしい。兄曰く「デザイン的にも原点すぎて難しいし、並んで強くても弱くてもダメだから出さないと思ってた」と――ファンはそういうふうに思っていたらしい。
いざ出てくると、父に似たインテリっぽく振る舞おうとしつつアツくなるのは早くて、ぜんぜん合理的じゃなかったりむしろ肉体派だったりする……かなり青年らしいキャラになっていた。
「っていう、ほぼお兄ちゃんの受け売りだけどねー。でも私もカッコいいと思ってるよ、もう三十年くらい活躍してるし、弟子も増えてるし」
「ヒーローにも師弟関係があるんですね。流派もあるのでしょうか」
「ん、私は詳しくないけど……お兄ちゃんは知ってるのかな」
「はい、お次の方ー。すごくお詳しいみたいですね、ポーズからアングルから、なんでもいけますよ!」
まずはベータープラズムⅡのポーズ、登場するときのガッツポーズ、監督もやっていたいつもの構えといろいろ撮影してから、はっと思い立つ。
「お姉さんの持ってるの、モルゴンですよね。モルゴンよしよししてるところ、ぜひ!」
「いいですよー。はい、どうぞっ」
マスコット枠のちっちゃい怪獣……のぬいぐるみを手のひらに乗せて、コスプレイヤーさんはそれをよしよしと撫でる。こういう穏やかな時間がいちばんいい、と言っていた劇中の本人そのままに、手つきがすごく優しい。
「ありがとうございました!」
「同じ作品を推すファンとして、仲良くしましょうねー!」
待っている時間の方が長かったけど、いい時間だった。私の番が終わり次第スペクトラは引っ込んでいって、ちょっと待ち時間になった。どうやら、タイミング的にギリギリだったようだ。
「皆さん、やはり大変なのですね。アカネさんはどうでしたか?」
「まー、けっこう肌に貼り付くし、動くから暑かったよー……。生足だったらもうちょっとマシだったかもしれないけど、さすがにそこまではね」
「それはそれで、別の問題が起こりそうですし」
「だよね。レーネがいてくれるからだいじょうぶだけど」
今やっているアニメのキャラとか、昔からあるゲームのキャラとか、ネットでやたら流行ったあれこれとか……いろいろなコスプレイヤーさんを見たあと、屋内に入って水分を摂る。
「はー。日焼け止め塗ったのに日焼けしてそう」
「日差しは弱めで風もありましたが……コンクリートの反射もありますからね」
武道家だからとがさつだったりもせず、レーネはちゃんと日焼け対策をしているようだった。お互いのバッグはそんなにいっぱいでもなく、まだ何か買えそうだしお財布にも余裕はある、けど。
「この辺にしとかない? 東京観光……するには、ちょっと時間ないけど」
「もう陽も傾いてきていますからね。控室に戻って、指示を仰いでみましょう」
「だね。まだ早いから、待機か回っててになるかもだけど」
「今からの方が、バーチャルタレントさんが活発になるようですが……。わたくしたち二人とも、あまり縁がありませんし」
縁はあるけど、あんまり興味はない。自分もどちらかといえばその仲間に近いけど、きちんと調べたり追ったりはしていなかった。
「じゃー、戻ろっか」
「そうしましょう」
少し早めに、私たちの予定はだいたい終わった。




