’11年8月30日13:11 東京都江東区有明3丁目11-1 東京ビッグサイト構内
「あった……!」
「えっ、……」
接客をしているコスプレイヤーさんの奥にいたひげ面の男性が、なんだか怪訝そうな顔でこちらを見る。そして、表に出てきた。
「あのぅ……ここけっこうドギツい本置いてるとこなんで、その。地図お持ちですか」
「え、はい」
「地図だと、ここ。あそこの、騎士風のレイヤーさんがいるところですね。あの人はきれいな絵描く人なんで、あそこの本を買うといいと思います」
「あ、ありがとうございます……?」
名前を聞くと「原付88です」と名乗った。
「彼氏さんの好みの調査ですか」
「えっと、だいたい、そうです」
「うらやましいもんですね。あっちの「てんも毒波」先生はですね、タッチがいい。あと、フェチがどこを見てるかが初めて見た人にもよく分かる。調査にはちょうどいいですよ」
「アドバイス、助かります! こっちのグッズ、買っていきますね」
高校時代着ていた競泳水着っぽいのを着た、けっこう現実的な青い髪の毛の女の子のラバスト(?)を買った。原付さんはいろいろ語っているけど、微妙によく分からないので聞き流す。とりあえずこの人がデザインした、ということは分かった。
そんなわけで、まるでとっこみたいな、白いレオタードに胸と肩の鎧をつけたコスプレイヤーさんのところに着いた。レーネはなんだか不思議そうな顔をしているけど、原付さん曰く「ハイレグ好きは一度は通る道で、誰もがあれを思いつく」のだそうだ。
ピンクから水色・緑になるグラデーションのかつらに、たぶん本物のレオタード、ちゃんとレザーを使っているらしい白いベルトや、金属っぽく塗装したハイブーツ。ものすごく本格的で、かなりお金もかかっている衣装らしかった。おとなしそうな印象の顔と、もちっと気味から絞ったらしい、ほんわり可愛らしい体型。かなり胸があるけど、さすがにアンナほどではなかった。
「この本ください!」
「あっ、私と同じ趣味の女子が。嬉しいです……」
「あっちの原付さんから紹介してもらいまして。タッチがよくて、フェチがどこを見てるか知るにはちょうどいいんだって」
「げ、原付先生が! ありがたや……!!」
手を合わせて拝んでいる。業界で何かつながりがあるようで、原付さんの方も「いえいえ」と言いたげに手をわたわたして恐縮していた。
「そのレオタード、本物ですねー。「P-Cast」のやつですか?」
「メーカーまでご存知!? きょ、競技経験者の方でしょうか」
「いちおうです。個人的には「LUCY」がおすすめですね」
「ほわっ!? め、メモを取らせてくださいっ」
洗濯がしやすいし光沢感もある、デザインもかなり幅がある――何より、「P-Cast」はもともとバレエ向けのトップシェアだから、布っぽい質感が強い。体型の幅はかなり広めに取ってあるはずだけど、コスプレ衣装としてはちょっと違う。「MaTiny」は最初からコスプレ目的で作られているけど、ちょっとだけ動きの邪魔になる……打ち合わせで一度だけ着てみたけど、あんまりよくなかった。
「えっちさが足りなくなると思うんです」
「そこまでご理解をいただけているなんて……!」
「だって、見せたい魅力と見えてる魅力って別ですから。でも、あなたが見せたいものをもっとよく見せるなら、きっと先に進められます」
「現実的に割り切られているのですね……素晴らしいですっ」
そんな目で見るな、という競技者も当然いるし、けっこう多いとは思うけど……特撮の見過ぎで、男にすらへんな目を向ける雑食すぎる兄を見ていて、男ってどんな服装でも興奮するんだな、と分かった。
あんなに色気のないジャージだろうと、ほぼほぼシルエットが出ていないシスター服にさえ「エッ!」と嬉しそうにサムズアップしている人たちには、何を言っても無駄だ。というより、利用した方がいい。……さすがに、「血まみれの男の喘ぎ声は特撮のノルマだろ」とまで言い出すのは、ちょっと気持ち悪かったけど。
「でも、ほんときれいですね……義妹が喜びそうです、このすべっとむにっと脚」
「こ、光栄ですっ。鍛えつつも脂肪を残すプラン……最近は普通のトレーニーだけではなく、こういった需要にも応えているジムがありまして。そちらの脚もなかなか」
「ふふふー、ありがとうございます」
「……わたくしには理解できない会話ですね……」
剣道では脚が大事じゃない、という意味ではなくて、女子同士が足を褒め合っているのが、レーネの価値観の中にはないようだった。
「同人活動とコスプレと、いろいろ……NOVAでも活動しておりますので、フォローよろしくお願いしますっ!」
「またNOVAに入ったら、探しに行きますねー。てんも毒波さん、ですね」
「あなたは? ここには馴染んでない気がしますが……」
「私は……あ、アカネです。あっちで出会ったら、ちゃんと名乗りますね」
つん、と背中を突っつかれて、ちゃんと名乗ってはいけないのに気付いた。本名はいいけど「フィエル」と名乗るのは危険だ、と事前に言われている。
イラスト集を買ってから袋に入れて、しずしずと歩くレーネと並ぶ。
「じゃ、外だね」
「そうですね。屋内にもありますが、どちらから回りましょうか」
「んー、……外からにしようかな。先にきつい方終わらせたいし」
「間違いありませんね」




