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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
6章 遺失記録:8/30~8/32

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’11年8月30日■■:■■ -

 墨帖与市は、人生最大の窮地にあった。


「情報収集がずいぶん早いのね。誰の差し金かしら、そこにいるやつ? 中のあいつかしら。それともあの子たちに言われてきた?」

「僕は、僕自身の意思でここにいます。“あなた”は……こんなことを楽しむたちだとは思いませんでしたが」


 二人きりの結界は、ロマンチストにはとても嬉しい場所だろう。会場の形を保ちつつも、いつか見た結界がそのままに投影されている。よく見れば、コメント欄には現状を把握していると思しきものが流れていた。意識があいまいになり、何も分からなくなるはずの時間……そのタイミングですらなぜか動いている人外が、あの場にアクセスしているのだ。


「そもそも、なぜこんなことをしているんです」

「だって、見て? ここにはこんなに灰砂がいるのよ」

「カイサ……あれはカイサというんですか」

「灰の砂。忘れた感情や、失われた情報から生まれる、小さくて冷たい……“命の反対側”。実体がない、命もない、だから欲しがる。あの子たちは、フィノミナとか言ってたわね」


 彼女が使う金魚とは違う、ゲームでよく見るゴブリンやハーピーのようなものが、会場をうろついていた。見つかり次第金魚に喰われているが、数は減らない。どこから湧いているのか、誰に付いてきているのかすら判然としない。


「カイサはなぜ現れるんですか」

「いつでも、どこにでも現れるわ。あなたはすべての記憶を覚えてる? パソコンにはこれまでのすべてのデータが入ってる? 幼稚園のときにもらったプリントは取ってあるかしら? そんなこと、ないわよね」

「しかし、まるで異常事態が起きているような口ぶりだ」

「ええ。だって、プリント一枚からはコバエほどの灰砂しか湧かないから」


 人間大の灰砂が大量におり、減らない――仮にプリント一枚がコバエほどなのだと仮定しても、人間はコバエの何倍の体積があるのか、考えることさえできない。数万倍ではきかないだろう。


「あなたにも付いてるわね。誰がこんなもの仕込んでるのかしら」

「祓っていただけるんですね。ありがとうございます」


 さっと手を払っただけで、少し重かった肩が軽くなった。デスクワークのせいかとも考えていたが、違ったようである。


「心当たりがあったり、は」

「“わたし”と仲がいいやつなんていないわ。だって、ほら……あれに立ち向かうことができる、と一瞬でも思えるかしら?」


 銀河に腰かけている少女が、こちらへ手を振った。


「なっ、あれは!?」

「私の本体。前に名乗ったわよね?」

「ど、どうやってあそこまで大きく……?」

「たくさん食べてたくさん寝たら、大きくなるわ」


 宇宙的単位を誇る大きさは、たった今彼女から説明された理屈と考えても合わない。光年単位でしか表せないような巨体が、ふわっと消えた。


「さて、と。あの子に返してあげなきゃ。時間はてきとうに延ばしてるからいいけど、あの子の思い出は大事にしてあげたいものね」

「それに対応している彼らは、いったい何者なんです……?」

「ああ、“鬼ちゃん”のこと? あれはこっちを認識できる人間とか、そういうモノね」

「とか、ですか」


 祖母は「紫の目の女を娶れ、片目が黄色ならなおよい」と――とんでもない無理難題を言った。あまりにも意味不明なその言葉が、いったいどういった意味を持っていたのか。説明を求めた与市に対して、祖母は言った。



――お前を守れる女をそばに置いておきたかったの。だけれど、亜矢子はもう負けそうになっているわね。よく頑張ったから、私からもお礼を言っておくわ。

――与市、お前の苦難はまだ終わっていないわ。三十路を超えても危ないかもしれない。それに、亜矢子で足りないとは……私も思っていなかったの。

――“あれら”程度では足りない。どこかに降りてきている、紫の目の娘を娶りなさい。見つからなければ、あなた以外も巻き込んで……

――“八月三十二日”。その日が分かれ道になるでしょう。



 昔から、霊感商法のようなことを言う人間ではあった。しかしながら、神矢亜矢子を雇い入れたのは祖母で、ちょうど老人ホームに入る頃の話だった……「お前を守れる女をそばに置いておきたかった」との言とは、矛盾していない。何より、彼女はつねに、カラーコンタクトレンズを入れたような、奇妙な桃色の瞳をしていた。それを咎められることもなく働いているというだけでも、どこか異様だった。


「僕の祖母が、“あなた”を娶れと。あなたは、それが正しいと思いますか」

「ふふふっ、ふふ。ええ、“わたし”はあなたが大好きだから、“わたし”はいいわ。そうね、あの子には思い出をぜんぶあげたいけど。これくらいは我慢しなくていいかしら?」

「っ……」

「これはあの子の体。キスも、デートも、それ以上も……みんなあの子にあげたいけど、ハグだけは私がもらうわね」


 ぎゅっと与市を抱きしめた小さな体は、胸板に預けた口で小さく言う。


「もっともっといいとき、もっと素敵なシチュエーションで言ってあげたら? こんなにつまらないプロポーズ、“わたし”じゃなきゃ許してもらえないわよ」

「そうしましょうか。では、写真を――」

「それはダメ」

「えっ、どうしてです?」


 あっち、と少女は指差した。


「順番よ。並んでね、それがここのルールだもの」

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