219【おセンシティブ!】全員でフィエルさまに挑みます。【魔王降臨】(6)
どうぞ。
(ウソをつくコツは、信頼を積み上げること。悲しいな、お互いに騙し合っていると気付かないまま、信じて戦っているとは)
フィエルの切り札は〈エボルスライム〉――では、ない。
誘納いちごのメインジョブは〈戦士〉――でも、ない。
「リーダー、すんごい顔してるねー」
「そりゃーそうだろ、フィエルさんが頼ってたのが、よりにもよってあの“ソドム”だぜ? 誰だってイヤな顔するってもんよ」
玉鋼陣営「すらラブ!」は、正教会に目を付けられ全滅したうえ、所属メンバーの大半がゲームから一週間以上のBANを受けた経歴を持つ、ゲーム内屈指の問題児ギルドである。表向きは「スライム系のモンスタージョブを研究する専門ギルド」とされてはいるが……実態はといえば、「淫果に因り滅ぶ」という名の通り、成人済みでなければできない行為を愉しむ、享楽の追及に余念のない爛れきった集まりだった。パッチノートにほぼ名指しで書かれるだけのことはある、やらかしの大きすぎる化け物どもである。
ただし、かれらはスライム系のモンスタージョブに関する知見でいえば、ほかに類を見ない量のノウハウを蓄積している。そのことを知ったフィエルがかれらに接触し、次に変身するカードを決めた事実は、かれら自身の連絡によって判明している。
「強くなるためなら、リアルの努力もしているようだが。……まあ、女子大生が性知識ゼロだなどと、幻想を抱くのもおかしな話だ」
「ショック受けてるのそっち!?」
「急にキモいこと言うなよリーダー、どうしたよ」
「……すまない」
とはいえ、公衆の面前でやるほど「すらラブ!」も狂ってはいない。ディリード自らが制裁に来るやもと一瞬でも考えたなら、丁重にもてなしたことだろう。その後ディリードたちの元に現れたこともまた、推測に根拠ならぬ証拠を添えている。何もおかしなことはされていない……そもそもできないだろうと、ディリードは今さら“ソドム”を味方に引き入れたことを後悔した。
「今回、見るべきところあんの? だいたい想定できるでしょ」
「お前たちを付き合わせたのは悪いと思っている。俺はこの戦いのオチが見たいだけだ。〈執行代理人〉が放送事故を起こすところを、な」
「んー、まあ……確かにそかもねぇ」
「だいぶ面白くなるな? いいじゃねえの、たまにはダラダラしようぜ」
初期装備の発展形である白いバニースーツ、ジョブも〈道化師〉に切り替えて戦っているフィエルは、とても楽しそうに笑っている。テイムモンスターを扱う〈座長〉は、あらゆる面で〈道化師〉を上回っているかといえば、そういうわけでもない。その点、彼女にもっとも適しているのは下級職だった。
『固いなー。めちゃくちゃ強くなったんだね、いちごちゃん!』
『うふふ、わたくしも実力者ですのよ? 実績もありますわ!』
バーチャルタレントの活動内容は、今も昔もさして変わらない。ゲーム配信は主要なもののひとつであり、プレイスキルも個々人によってずいぶんと上下する。誘納いちごは、VRゲームに好適性のあるプレイヤーであり、かなりの腕前を誇っている。彼女の語る文言に、噓偽りはなにひとつない……戦う二人のファンは、どちらも「強い美少女」を推しており、共感するところもあるだろうと思われるほどだ。
(撮れ高を意識しているからには、次の変身はさせるだろう。何より、隠し玉をはっきり出して命中させないのはダサすぎる。ライバーとしては致命的だ)
黒バニーへと姿を変えたフィエルの哄笑を聞きながら、ディリードは思考を続ける。
「いつ使うと思う」
「そりゃあ、相手が最強の一撃を放つとき……だろ? それが見せ場なんだからよ」
「やはり、それ以外はあり得ないか」
「今日ずっと分かりきったことばっか言うね、リーダー」
だから休んでいるんだ、とディリードは笑った。小規模アップデートと不具合修正があったせいか、BPB全体がピリついている。すこし頭を使いすぎて、休憩が欲しいのは事実だった。
『っと! 時間も遅くなっちゃったし……決着付けられるように!』
『待っていましたわ!! 真正面から打倒できる機会を!』
カメラに見せつけたカードには、見覚えがない。機械のサメのようなものがビル街で暴れ回る、どこにも存在しないモンスターのものだ。
「……「メガゾード」か?」
「っぽいねえ。見せ場にはちょうどいいんじゃない?」
『【おもてさかさま情転図っ、六道一巡】!!』
宣言をした瞬間に、地面に金属的な輝きを帯びた水面が広がった。ざばぁっと飛び上がってきた機械のサメが、爆発するようにパーツごとに分かれ、さらさらとフィエルの体に合体していく。紺色の競泳水着、ニーハイソックスに手套とインナーが完成したところで、機械の籠手やブーツがどんどんとくっつき、超小型のミサイルポッドやビーム砲が取り付けられていく。
『〈メガ、ゾード〉!』
腰に取り付けられた兵装を抜き放ち、ジャギン、と伸ばして直刀に変える。
『〈ブレイド〉ぉ……っ!』
フォウン、ヴォンッと回転させ、両手をクロスさせて十字に構えた。
『シャァアアークっっ!!!』
『ええ、ええ……! それでこそフィエルさまですわ。これで心置きなく、この力を振るえますわね!』
この「ハーダルヴィード」という世界には、一大宗教が存在する――プレイヤーの誰もが知ることである。宗教関係のジョブはすべて正教会に由来し、関連ジョブに就くものは、浅いか深いかによらず、正教会に貢献することが求められる。僧兵系上級職〈執行代理人〉の担う貢献は、それほど難しいことではない……文字通り、正教会の人間に変わって執行することが仕事である。
執行、とりおこなうこと……何をかは、言うまでもない。
『あなたのための力です。この、罪人を斬るための力は!!』
「すらラブ!」(玉鋼陣営)
BPB配下・ディリード圧下の趣味ギルド。ざっくり言うと「男の娘orTS含む女性キャラ限定・ぬるぬるプレイ専門SM倶楽部」。『ストーミング・アイズ』というゲーム自体はデバイスと紐づいた設定次第でR-18に類する行為が可能であるが、当人の責任を超えた範囲での勧誘がみられたためBANされたり、教会騎士たちに発見されて全滅させられたりと、かなりの問題児。運営としては「完全禁止行為でない限り、正教会(実質的な治安維持組織)の処刑人にやられたらやめ……やめないの? じゃあ隠れてやろうね……」くらいのスタンスなので、運営に一回でも直接BANされる時点でアウトすぎるくらいアウト。
体の一部が粘液化したモンスタージョブの能力を隅々まで研究し、それがどんなプレイに使えるかを調べ尽くすことに余念がない。体の使い方・動かし方にも習熟しているため、戦闘では意外なほど強い。HPが減って体積が縮むことにも喜びを覚える変態も多いのが問題か。情報を集積するため、ディリードが直接出向いて「進化と能力のリストを作れ」と命令し出資して抑え込んだ。ディリードも騒動は把握しているものの、「ミルコメレオ」を凌駕する勢いで情報が集まるため、逐一潰す方法を確保しながら泳がせている。
ちなみに、直近で行われたバグ修正に記載された「・審判系特技が削減する「罪科」の数値を修正いたしました。」という一文は、審判系特技を受けると「罪科」が現在値の10%削減されるところが、なぜか100%消滅してしまう「一撃免罪バグ」の多発によるもの。どうして多発したのか、それが運営にも届いたのかといえば、むろんこの「すらラブ!」メンバーが処刑されまくったからである。




