213【おセンシティブ!】全員でフィエルさまに挑みます。【魔王降臨】(0)
珍しく、というかたぶん初のゼロ話。
どうぞ。
見ててね、と事前に連絡された通りに、「NameLLL」の面々は「たてわきサフォレちゃんねる あそびばー」の配信開始を待っていた。
「どうして、私の身近な方々は……」
「死んでいく人を見なくていいんだからぁ……少しは、幸いなんじゃないかしら」
慰めようとしているのか、私もつらいのだと言いたいのか。るるいの言葉は、いちごにとっては痛いものだった。
――「フィエル」と「プロミナ」というキャラクターアカウントを所持している意識体は、完全体のフィノミナでした。“手遅れ”ではありません! 向こう側ですから。
――ただし、なのですが……! あの個体は、本体を侵食して成長したものではないようです。本人の意識が完全に残った状態、かつフィノミナ自体も完全体で現実に干渉できている。
――お考えは分かっています! が、もはやできることはありません。絶対に余計なことをしないでください! わかりましたね?
バーチャルタレント事務所「NameLLL」は、ほかの事務所とはまた違った秘密を隠している。芸能界と深いつながりを持ち、その闇を引き継ぐ「劇団えむジェムズ」は一般人にも分かりやすい。担当する楽器の偏りで人の取り合いが絶えない「いずれオーケストラ」もまた、察せられる程度には嵐を隠している。最大手の「O-Level」も、大小さまざまにトラブルを抱えており、これまでの歴史にある波乱が消えたとは言えない。
彼女らの隠している秘密は、そういった現実的なものではない。はっきりと明言したところで、すべてを信じるものも少ないだろう――まさか、事務所創設二十年記念を祝して描かれたプロモーション漫画『キラくるドリーム☆すてらちゃん!』が現実に起きた出来事であり、彼女らが半存在現象的生物「フィノミナ」に立ち向かう戦乙女あるいは魔法少女「フェスト・イヴ」であるなどと、誰が信じようか。
誘納いちごもまた、タレントにして魔法少女であった。フィノミナに浸食されて昂変虹彩を発現し、魔法少女「デビル・スプリンター」として覚醒した。原型となったフィノミナの感染源は、両親だった。
「みんな、誰かを亡くしているの。マネージャーの宵待さんもそうよ。“あれ”が人と同居しているだけでも奇跡なの。あれを攻撃しないという決定は、何も間違ってはいない。納得してちょうだい」
「あんたがいちばん悲惨な目に遭ってるのは知ってるわ。私に言わせれば、だから何って感じだけど」
「言い過ぎよ、ソノンちゃん……」
「いい、いちご? 私たちの仕事はふたつあるの。ローテ組んでパトロールしてればいい魔法少女の仕事と、ほとんど毎日やんなきゃいけないタレント業!」
メタバース「NOVA」での顔は、表情以外はアバターのそれである。逆に言えば、どれだけ美しく作っていても、表情次第では良く見えないということだ――沈み切ったいちごの顔は、タレントが表に出るときのそれではなかった。
「割り切りなさい。今はタレントの仕事をするのよ! 卒業してあっちに専念してる先輩方がいくらでもいるし、威力偵察じゃない、エキシビションをやるの」
最近のフィノミナの発生傾向としては、超小型のものがときたま湧き出ては、人ではなく情報に打撃を与える程度である。ヒーローショーか、ちょっとした悪夢として片付ける程度で済んでいる以上、とくに注意を払う必要はなかった。
「ほらっ、始まるよ! あの子の見せるものを、ボクらも楽しもうじゃないか!」
待機状態にあったウィンドウに、少女の顔が大写しになった。
「えっ、え……? フィエルさま、いったい何をしてらっしゃるのでしょう」
『ベッドからこんばんはー、白バニーさんことフィエルだよ。みんながびっくりしないように、先に言っとくことがあってね?』
いったいどういった理由によるものなのか。髪を下ろして白いシーツに広げ、うっすらと笑みを浮かべて身じろぎする少女は、ひどく艶めかしかった。
『このあいだ、ドラゴンに作ってもらったやつ……「群青のバニースーツ」っていうんだけどね? ちょっと見て。ハイレグすぎて、中にはいてるパンツ見えちゃうんだよー』
「……自爆覚悟の、アーカイブを残さない短いものを一人だけで……?」
「だろうね! レーティングを高めに設定していても、これはダメだ……!」
『と、いうわけでー。ゲノ=メニエフの次の街、「ハイムノア」って場所。治安ちょっと悪いんだけど、えっちな服がいっぱい売ってたんだよね!』
ほら、と寄せたカメラが、骨盤を超えて深く切れ込んだハイレグの腰あたりを映す。バニースーツであれ、普通の角度なら隠れているはずの深く穿き込むインナーが、見えてしまっている……否、はっきりと見せるために購入したそれを、自信を持って魅せている。
ほんのりと淡い薄紫色の布地、全体のデザインとしてはいわゆる紐ショーツだろうか。結んだ部分はネットリと濃い高級感のある紫で、部分的に取り付けたレースと、開き始めの花の刺繍があでやかな華を添えていた。見えている面積は横のひも部分だけだが、明らかにその横の部分を見せるために設計された品だ。わざわざ「エッチな服が売っている場所に行った」というだけのことはある。
『見られちゃうのにダサい下着なんてヤだから、しっかり買ってきちゃった。……この配信はアーカイブ残さないでここでいったん切っちゃうから、じっくりは見ないでねー。というわけで、いったんおしまい! 「水銀同盟」のみんなは実況、「NameLLL」の皆さんはライバル! お楽しみに!』
腰の部分を、主に肌とショーツを中心にして映していたカメラが、くるっと身じろぎしたのに連動して、わずかに動いたショーツだけを最後に途切れる。終了画面に移ったそれを見ながら、ほとんど全員が困惑に包まれていた。
「えっ、パンツ見せただけ……? なの?」
「一分少々で終わってしまったね! だけど、それ以外は何も言っていなかったな……」
「全員投げ出した〈座長〉になったって噂もあるけど、……ああ、実況で言うのね」
「なる、ほど?」
もとより配信者としての才能は皆無で、視聴者への配慮もまったくないフィエルだが……これほど視聴者を置いてけぼりにした配信もなかっただろう。あまりに稚拙すぎる体たらくに、いちごは思わず吹き出した……そして、気付く。
「ふ、ふふっ。そうですわね。わたくし、気付きましたわ!」
「ああ! キミが自分で答えを見つけるのを、ボクたちはずっと待っていた!」
彼女たちの知るフィエルは、どこも、何も変わっていない。同居するフィノミナが完全体である以上、あれ以上変化することもない。同じ家に住んでいるというアンナ、あるいは家族が知っているのかもしれない、フィノミナ浸食以前の彼女は……いちごたちの知るところではない。
銀河に腰かける和装バニーの少女は、フィエルの“正体”ではないのだ。
「宵待さんが言うように……喪失を受け入れることも大事よ。けれど、そうではなくって友達になれるならそれが一番だし……あの子は、何も失ってはいないの」
二人そろって結婚指輪を売り払った両親が、サッカーボールを蹴るのをやめてパズルばかりやり始めた友達が、引きこもりをやめてバスケ部になった友人が、いた。フィノミナに感染し、意識情報を食われて乗っ取られた結果である。
フィエルは、そうなってはいない。彼女の意識は、彼女自身のままだ。
「行きましょうか。やっと映せる顔になったわ」
「もう、辛辣なんですから……」
苦笑するいちごは、ギルドの拠点から歩み出した。
今回書いてあった情報のほとんどは、本編には関係ありません(たぶん)。まあ6章にはちょっと関わってきますかね……あと与市くん周り? 名前のあるフィノミナ自体ほとんどいないし、名乗れるほどの知能があるやつもほぼいない、そんでもってあっちが主役じゃないのでそのシーンも描かれないので、覚えておいても意味はないと思います……たぶん。アカネがあんまし理解してないゲーム内情報はゲーム内のことだから出てきますが、フィノミナ関連はマジで関係ないから出さないでおきたい。設定集には追加しておきますが、理解してもなんの助けにもならないので、読む必要はありません。




