211 わかってわかれキックと肘打ち!!
どうぞ。
地上は過酷なくらい寒いみたいだけど、プレイヤーには影響がない。街も宿もあるから、プレイヤーは地上で過ごせそうだった。何が原因かは分からないけど、地上が寒くなっていてNPCたちが地下に逃げる理由があるらしい……なんて考えつつ、地下への入り口をひたすら探す。
外での稼働は大変なのか、人形やゴーレムたちも屋内に引きこもっている。どこかお店に入ればいいかな、と服飾店っぽい場所に入った。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか」
「ここは……あ、やっぱり服売ってるお店だ」
寒い地方っぽい、分厚いコートやもふもふの帽子があった。何かのコスプレみたいなものも多い……というとよくないかもしれないけど、日本では着る必要がないくらいの、ものすごく寒い土地での服装ばかりだ。横を見ると、ちょっと見覚えのある帽子がある。
「ん、これって」
「それは、多数のゴーレムや人形を指揮する方のための装備です」
マーチングバンドの指揮者がかぶっているような、全体が高くて前面に板がくっついている、羽根つきの帽子だった。武器でもあり防具でもある「ハット」カテゴリ、名前は「指揮者のシャコーハット」と書いてある。
「これって、〈座長〉でも使えますか?」
「もちろんです。かんたんに性能をご説明します」
テキストを読まない人向けのサービスもあるようで、お話を聞くことになった。
「このハットは、多数の配下を従えるジョブに適した装備です。広範囲バフをかける際の消費MPが少なくなり、効果量が上昇します」
「おぉー!」
「また、配下の数が多ければ多いほど、それぞれのステータスやスキルの効果量が増大します。それ以外にも、モンスター同士の関係によって各種バフを発生し、さまざまな性能を強化できます」
「いろいろあるんですね……買います!」
武器としてはふつうのハットみたいで、とくに代わり映えのすることはないみたいだけど、〈座長〉や配下のいるジョブにとって欲しすぎる性能だ。ちょっとメモして、後で情報を広げておくことにした。
「あ、そうだ。地下に入る道って、どこにあるんですか?」
「そのあたりに、どこでも。今は雪に埋もれているようですから、こちらの入り口からどうぞ」
「ありがとうございます!」
「いえ、いえ。お買い上げ、ありがとうございました」
狭い竪穴のはしごを下りていくと、暖かそうなオレンジ色の光が下に見えた。靴がちょっとヒール高めのパンプスだから、はしごを降りるにはちょっと危ない。カコン、カコンと音を立てながら降りていくと、地上と似たような様式の、石を彫ったような街があった。地上部分のあの感じは、どうやら地下のものを模して作ったみたいだ。面積もあるし高さもあるから、地上よりも立派だった。
「おーう、なんだあ? 旅のもんか? そのカッコじゃあ寒かったろう」
「大丈夫です、旅人なので!」
「ああ、なるほどな。仮面をふたつ付けてるなあそういうことかい」
「です」
妙に察しのいい、とんでもなくガタイのいい男性がいた。丸刈りにちょびひげ、かなりいかつい顔をしている。
「そろそろ酒場も仕舞っちまうが、どこで何するんだ。女ひとりが泊まるには、ここはちと荒すぎるぞ」
「セーブポイントって……あ、あった。ちょっと、地下の方の服も見たくて」
「んん……? このあたりを旅するんなら、地上の方が良かったろう。ケツも脚も丸出しで、狼なりに噛み付かれでもしたらどうするってんだ」
「蹴りであご砕けるから、あんまり心配してないですよー。地下の方が、こういう感じのが売ってるんじゃないかなって」
男性として心配してくれているんだろうけど、私は「魅惑」のステータスを持った装備……ぱっと見で視線を惹きつけるような、ちょっとセクシー寄りの服装を着ると、どんどん強くなっていくジョブに就いている。そして、もうひとつ重大な問題があった。これは、この人にもちょっと相談できない話だ。
「バニースーツかあ。商売女が使う店ならあるんじゃねえか? 治安は悪いから、ちゃんと武器は提げてった方がいいぜ」
「どうも。ご心配には及びませんよー」
あっちだ、と指された方向に歩いてくと、数人のチンピラがこっちを見ているのに気付いた。無視してそのまま進もうとしたけど、「おいおいおい!」と肩を掴まれる。
「このあたりで大道芸なりやろうってんなら、俺らにナシ付けてからだろぉ? ここでしかやれねーようなやらかししてんのか?」
「いや、別に。ちょっとお買い物にって思っただけで」
「お前を買いたいヤツなら多そうだぜ、紹介してやろうか?」
「そういう商売はしてませんよー。健全じゃありませんけど」
レーティングもあるからか、言葉選びがけっこうギリギリだけど、決定的なヤバさはできる限り回避している……気がする。すでにアウトな気もするけど、私が18歳以上で登録しているからかもしれない。
「そのムチ、女王様ってやつかぁ? 俺も調教してくれよ、ちょっと手のしつけがなってなくって――」
お尻を触ってきた瞬間に、〈アクセルトリガー〉を使った肘鉄を入れてしまった。ブゴヂャッと音がして歯みたいなものが飛んだな、くらいに思っていたら、照明代わりに置いてあった熱鉱石に思いっきりぶつかったチンピラは、全身がぐにゃぐにゃになって目を開けたまま倒れ込んだ。
「やっば、死んでる! ヒューイ、出てきて!」
「ピューイ……?」
「ひいっ!? なんだこいつ!?」
「騒がないでください、ちゃんと生き返らせますから」
体内に入り込むタイプのギプスみたいなものをめり込ませて、私が降伏……というか調教したシカのヒューイは、チンピラを蘇生させた。
「はっ、は、へ……? え?」
「い、生きてる!? お前大丈夫か、全身ぐにゃぐにゃだったぞ!?」
「いや、そんな。って、うわあ!? なんだこのシカ!」
「あなたを生き返らせたシカです。死んで復活するとこ、もう一回見ますか? 誰にしましょうか」
脚をちょっと後ろに回して蹴りの構えを取ると、「いっいや待て、悪かった!!!」と慌てだす。
「た、ただの商売女だと思ったんだ……もう何もしない!! カネだって出す、だから殺さないでくれ!」
「大丈夫ですよ、ほんとにお買い物に来ただけなので。カツアゲもしませんから、お財布はしまってください」
本当はちょっとお金が欲しかったけど、今やるとこれからもやってしまいそうな気がする。今でも罪科が高すぎるのに、これ以上積み重ねるわけにはいかない。
「それで、お買い物って……いったい何を買うんだ?」
「乙女のヒミツです。聞いたら蹴っちゃいますよー」
ヒューイをケージに入れて、私はお店に向かった。
「ここでしかやれねーようなやらかししてんのか?」(罪科一万超えだと出る分岐会話)
「いや、別に」(罪科12億)
(強ければ匿ってもらえる治安最悪の場所なんて)ないです。あっそろそろNameLLL戦に入らないと尺足りねぇな……しかも〈座長〉になるために集めたモンスターのリストとかも作ってない。いかん、タスクが積み重なりすぎているッ! あの、階差宇宙の周期演算やってからでいいっスか……? 全力でやるんで……




