208 〈フィエル座長〉
どうぞ。
海藻のモンスター「おさめおさめウィード」は、たぶんフォルスアンサー系のやつだった。真ん中にぐるぐると丸まった海藻が伸びるたび、お好み焼きに乗せるやつみたいなエビや小魚がどんどこ出てくる。
「多くない……!? 多いよ!」
「問題はありません。個別の戦力はとても低いようです」
本体に攻撃しても、海藻が切れてアイテムになるだけで、あんまり削れているようには見えない。植物にありがちな感じで、いくらでも伸びてきて、ぜんぜん削れているようには思えなかった。かなり攻撃しているけど、まだまだ元気だ。
「ギャウグ」
「ごめんね、頑張ってくれてるのに」
とんでもない再生力を誇る海藻は、徐々に大きめのモンスターも召喚してきている。最初はグリルで焼ける魚くらいのサイズだったのに、だんだんフライパンを超えたり一抱え以上のサイズになったりで、今はちゃんとしたモンスターの大きさになっていた。
だんだんと海藻の数が減ってきて、中心にある籠っぽいものの姿も見え始めている。これならもうすぐ、と思ったのに、にゅるるっと海藻が内側から出てきた。
「もー、〈ウェザーフレア〉まで使ってるのに……!」
気温操作の魔法は、居場所の温度が強く影響するモンスターや精霊にかなり効く。海の生物は、水温が上がると大ダメージを受け続けて、すぐに逃げ出すかぐったりしてしまう。そういう変化には強いのか、海藻とかごの組み合わせらしい敵は、ぜんぜん弱っていないかった。
「推測ですが、「何かが出てくる箱」という認識に「中身が見えている」という事実を加えることで、さらなる不透明性を加えているのではないでしょうか」
「上げ底みたいな感じ?」
「おそらくは。さらに、上げ底の内側に何かが仕込まれている、ということです」
「凝ったことするなー……」
ぴしりと割れた海藻は、中の籠ごと割れていた――倒したかと思ったけど、ぎゅるんと反転して開き切り、ゲートのように変わった。
「あれ……おっきいけど、ああいうのもアリなのかな?」
「照合不能。非実在のモンスターです」
「えっ、いいんだ!?」
「マスターも、絵空事を実現できる力をお持ちのはずですが」
人ひとりが飛び込めそうなゲートから、機械のサメみたいなものが出てくる。長いツノとシャープな形、あちこちに無理やり増設したようなミサイルやビーム砲みたいなパーツ。絶対危ないな、と思ってカードを投げてみると。
「あっ、よかった……」
「マスター、資源としては非常に良いものだったかと思われるのですが……」
あっさり封印できた。街中でミサイルやビームを撃って暴れ回り、崩れゆくビル群をかき分ける絵柄が写っている。
「でもほら、これもジョブに登録されてるみたいだよ?」
「大舞台で使用されるのですね」
機械のサメ「メガゾード・ブレイドシャーク」は、なぜかモンスタージョブとして登録されていた。アンナの情報によると、次に【おもてさかさま情転図】を使うと何かあるらしいから、使うカードは確保しておきたかった。
「それに、ほら! ちょろたちも尻尾振ってるし!」
「おやおや。とてもご機嫌ですね」
「クキュック!」「ルゥーイ、コルックルル」
両手でなんとか持てていたサイズのちょろたち=「スニーク・ハイリザード」二体は、とうとう進化のときを迎えていた。見ていると、変化が始まる。
木の上にも登れる、ちょっと狼なんかに近い立体的なシルエットが、もっと大きくなっていく。人間を乗せられるくらいの大きさになったかと思うと、関節のあちこちに鋭いものが突き出して、シャープな体型がもっと鋭くなっていった。小さなツノも生えて、ちょっとカッコいいけどかわいらしさも残した、「ハヤテノミズチ」が誕生する。
[スニーク・ハイリザード が ハヤテノミズチ(風)に進化しました]
[スニーク・ハイリザード が ハヤテノミズチ(雷)に進化しました]
「おー……! これまでセットで呼んじゃってたけど……やっぱり、違いあるよね」
もともとはホウイさんに対抗するためだけにカードで買ったモンスターだから、そこまで思い入れもないし、性能もきっちり確かめてはいなかった。
「じゃあ、「フウカ」と「ライガ」。これからも、よろしくね」
「キューウ!」「コクック!」
どちらも白っぽい色だけど、フウカは翠のエフェクトやそよ風をまとっていて、ライガは蒼のスパークや金のたてがみが特徴的だ。いろいろ確かめたいことはあったけど、もうひとつ重要なことがあった。
「これで……やっとだよ!」
「データ照合。平均的なレベルアップやジョブの成長速度と照らし合わせても、非常に長い時間だったようですね。お疲れ様でした」
ものすごく簡単な「座長を目指せ」というクエストに、クリアアイコンがついた。ちょろたち改めフウカとライガが「ミズチ」、竜の子供になってドラゴンをテイムした扱いになったことで、全種類をコンプリートできたのだ。
「っと、どっちかを差し出してジョブが進化する、んだよね……」
[〈調教師〉を〈座長〉へと進化させます]
[進化に使用したジョブは消滅します。よろしいですか?]
「よし!」
ボタンを押すと、ステータスウィンドウの中のジョブがしゅわっと消滅し、文字が追加されて……私は〈フィエル座長〉になった。
「やっっっ……たーーっっ!!」
さっそくジョブを切り替えた私は、ずんずん進んでいった。
〈座長〉
道化師/調教師/支援魔術師系統
ジョブスキル:〈手ひとつ劇場〉〈座長公演〉〈広々ふところ、マントにおサメ?〉
武器適性:
ステッキB/槍B/棒B/ムチA/指揮棒A/カードA
基礎耐性:
火C/水C/雷C/土C/風C/氷C/光C/闇C/吸収C
毒D/麻痺B/睡眠S/疾病B/振盪A/精神A/幻惑S/封印B/時間A
ジョブとしての〈道化師〉の行き先のひとつで、転職条件がもっとも困難であり、ほとんどいないと言われる幻のジョブ。もっとも簡単な〈血濡れ道化師〉や、困難ではあるが不可能かと言われるとそうでもない〈夢現霧歩〉に比べても別格。武器適性がやや狭まり、状態異常の基礎耐性は一部かなり強化される。ジョブスキルはやりたい放題の公式チートそのものであるため、どれほど困難な道のりでも、目指す意義はあると言えよう。
自身の武器攻撃とバフ、テイムについて非常に有利に働き、大勢のモンスターを従えながら自分でも戦える、すさまじく強力なジョブ。ステータス自体は〈道化師〉とさほど変わらず、テイムモンスターたちのステータスをある程度加算できる特性がなければ、かなり貧弱な方と言える。また、進化に使ったジョブと同じものは習得できないため、有利な特性が消えることもある。
〈手ひとつ劇場〉
武器をひとつ装備するごとに「魅惑」が20+最終値10%増加し、すべての攻撃時「魅惑」の数値100%の付加ダメージを与える。装備状態にある適性B以上のすべての武器を適性SSと見なし、特技・バフの効果量を15%増加させる。
〈座長公演〉
フィールドにいるすべてのテイムモンスターをケージに戻し、さらに本体のステータスへテイムモンスターの全ステータスの10%を加算する。このスキルが発動した次に召喚した一体目のテイムモンスターに「次代のスター!」状態を付与し、本体が獲得したバフと同じバフをすべて与える。
〈広々ふところ、マントにおサメ?〉
テイム枠のポイントが現在値+600、一体ごとの消費ポイントが10%変換される。この変換されたポイントは1以下にならない。




