207 人形も声を聴いて
どうぞ。
配信を抜けて、私はイニーズの方にやってきた。カメラも着いてきていないから、今は一人だ。いつもの白バニーではなくてビキニで髪も降ろしているからか、周りの目もそんなにない。
海上都市と言うだけあって、大波が来ると足元まで水が来る。そんな場所なのに、地下に通じる階段がいくつかあって、そこに入るとダンジョンや水没した地下構造に入れるようだ。探索はかなり進んでいるけど、あの「時間鏡面」と同じくらいたくさんのモンスターが湧いてきて、しかも難易度は上がった場所があるらしい。
「ここかー……」
箱から変形ロボットになった「イニーズ・プレイパーク」だったけど、海底ケーブルとかの感覚なのか、それともエネルギー補充にモンスターを誘い込んでいたのか、あちこちにつながっているようだった。そのひとつがエーベル付近から行ける「時間鏡面」で、海底に空いた穴や珊瑚の隙間なんかもダンジョン扱いされていた。
水没はしていないけど、魔力かなにか、ほかのもので満ち満ちている。階段を下りるサンダルの音がコンコンと響くたび、ダンジョンらしく空間がねじれていくのが分かった。月みたいなものが浮かんでいるように見えているけど、一定の感覚で配置されているし、途中で道がねじれていたから上下の区別も定かではない。
黒っぽいすべすべした石材で造られた回廊、水族館のようにトンネル状に切り取られた海、海の中に浮かぶ謎の灯り。雰囲気はあるけど、「歳寂中堂」はなんだか寂しい場所だった。強敵もいるらしいけど、入り口はひたすらにがらんとしている。灯りの位置がおかしいからか、陰影も妙に濃かった。
「さてとー、今回はちょろたちにも頑張ってもらうよ」
「キュッキュイ!」「ククルゥ」
私の手元には二匹いる「スニーク・ハイリザード」は、プレイヤーの間でもかなり使用率が高い、らしい。かなりなつきやすくてエサ代も安く済むし、逃げ足が速いから敵にも倒されにくい……NPCはどうやってか捕まえてきて売ってくれるから心置きなく買えて、しかも弱点をマークしたり弱点属性を付与したりできる。ホウイさんもテイムして育てていたらしいと聞いても、ちっとも疑問に思わなかったくらいだ。
ここの敵第一号は誰だろう、と思って歩いていると、巻貝がゆるゆると歩いていた。けっこう大きいな、と思って初手で〈リンクボルト〉を撃ってみると、ビシリと麻痺して動きが止まる。
「巻貝……は、活〆するやつじゃないかー。このまま」
『マスター、味方に攻撃が当たらないようであれば、イヴたちも使ってください』
「ん、それもそっか……」
『ギャウ』
イヴとアズリも表に出して、戦ってもらうことにした。
「ちょろたち、お願い!」
「キュック!」「ルッ」
巻貝に打撃弱点が付与され、アズリが殴ったところが思いっきり砕ける。投げたカードが当たる場所によって、飛び散る火花の大きさがぜんぜん違った。こうしてみると、弱点や効き具合がきちんと可視化されているのがよくわかる。
「むむ……調整が上手くいきませんね。イヴは天才! という前提に立って、全エネルギーを注ぎ込んだ最強の武装を造ったはずが」
「最強って、どう強いの?」
「よくぞ聞いてくださいました、マスター。【狂妄】以外のすべての意志の証を再現し、それぞれに対応した解を再現する〈四海相肢〉です!!」
「えっと……なんで機能してないのか、原因はわかる?」
爆散した巻貝を見やりながら、「はい」といったイヴの回答を聞く。
「リアクターから供給されたエネルギーの変換効率が悪すぎることと、通常スキルで解を再現しようとした試みがよくなかったようです。アプローチを変更します」
「もしかして、今まであんまり攻撃してなかったのって……」
「はい。通常スキルを使う合間に、この四肢を強化して技を放つ準備をしていました」
「コストでごまかすより、技巧を研ぎ澄ました方がいいんじゃないかなー」
現実にはMPなんかないから、「技を放つためのコスト」なんて意識したことはないけど……何かミスがあって止まっているようだから、新しいアプローチを試した方がいいのは分かった。
「じゃあ、まずはギミックに入ってる技使ってみて。再現じゃなくてオリジナルでも、イヴなら強くなると思うし」
「信頼してくださっているのですね。応えなければ!」
ちょっとずつ進んで、イヴはアズリの斬撃や私のカード投げ、ちょろたちのウロコ飛ばしと似たような攻撃をしていた。時を止める「クロノアワビ」にはさすがに面食らっていたけど、普通の魚やエビ相手はぜんぜん苦戦していない。
「うむむう……時間耐性は備わっていなかったのですね」
「さすがに付けられないかなー……」
基本的に、ステータスも耐性もスキルも器臓に依存しているから、時間耐性を付けようと思ったら、そのための宝石を取ってきて器臓にしないといけない。いろいろと宝石や鉱石は持っていたけど、時間に関わるものはなかったから、イヴにもそれ関連のスキルや耐性は付けられなかった。
「さ、大きめの強そうなやついるし、やるよー」
「少しばかりは苦戦しそうですが……イヴはできうる限りの手を尽くします」
大きなロブスターがいたので、そっちはさっさと封印する。問題になりそうなのは、ふわふわと泳いできた海藻のようなモンスターだ。
「あれも食材になるのかな。オヤジさんに渡してみよっか」
「イヴも食事を摂れますよ。自分で食べるものは、やはり自分で!」
気合いじゅうぶんのイヴは、ぎゅっと拳を握った。
次回かその次くらいに、ついに〈座長〉に……就活があるので早め早めに書いていたんですが、どのくらい間に合うかはわかりません。せっかく伸びてきてるのになあ……




