200 猟の解:飛ばぬ鳥に聖威あり、ともに光仰ぐゆえに
二百話という大台にもかかわらず、フルボッコわからせ回。まあ平常運転か……
どうぞー。
言った瞬間に、仲間がみんな消えていた。
「……あれ」
「ピューイ」
まるでこっちをあざ笑うかのように、シカがくるっと首を回す。一人ならいつでも倒せる、とばかりにリセットされたボス部屋にいたシカは、コォン、と足を踏み鳴らした。何体ものゴーレムが立ち上がり、ツルや妖精や騎士がわらわらと現れる。
手近にあった樹に貼り付いて登り、枝を歩いて逆さ吊り状態になった。
「んー、と。じゃあ……〈ウェザースコール〉」
「ピューウイ……?」
中級魔術にある、天気をちょっと変えるだけの特技……属性の効き具合が劇的な相手だと〈ウェザーフレア〉なんかは使い勝手がいいけど、水属性がこんなにめちゃくちゃ効く敵はいない。大雨は植物の成長にも助けになったようで、バカにして笑うようなしぐさをしていた。
「じゃあ変えるねー。〈ウェザーフレア〉と〈トルネード〉!」
「ピョーッ!?」
大雨で溜まった水が一瞬で煮え立ち、超高温の蒸気に包まれた植物たちは悶え苦しむ。こちらを仕留めようと種の弾丸が飛んできたけど、〈アクセルトリガー〉で逆さまから枝の上にくるっと映る。〈リンクボルト〉を撃つと、ちょっと気持ち悪いくらいたくさんいた敵たちは一瞬で消え去った。
「〈ウェザーブリザード〉」
また雨に変わろうとしていた水が、凍り付いて雪になる。いまだ続く大風と合わさったブリザードは、シカの角に絡まったツタがしおれるほどの極寒をもたらした。
「魔法、こんなに効くんだねー。前みたいに、攻略できないダンジョン! とかって噂にならないわけだ」
「ピューウ……!」
「仲間なしの一対一? いいよー」
ドドドッとものすごい足音を立てて、シカは突っ込んできた。立っていた樹の枝がかんたんに吹き飛び、けっこう太かった樹もメキメキと音を立てて折れる――けど。
「あはははっ、〈道化師〉は翻弄が仕事だよ? お客さま一名、ごあんなーい!」
玉乗りを最初に覚えていたのは、私がこのゲームを遊ぶうえで、誰にも負けないアドバンテージになった。いちおう〈面歩〉スキルもあるし、玉乗りができるようになった人もいる。けれど、ボールでトランポリンしたり、空中で不規則に揺れるボールに乗りながら分身たちに武器をパスしたりなんかは、あんまりできる人がいない。トレースAIも、私がさっと考えたことをすぐ実行してくれるから、複数人いないと成立しないコンボをひとりでやれたりもする。
カードをぶつけて、飾剣の飛ぶ斬撃や回転斬撃を嵐のように降らせて、キックで浮き上がったお尻や胴体に念動力でボールをバラバラ叩きつける。時計で再発動するボールたちの衝突、いくつも降らせる氷の雨はツノで砕かれたり、目に入ったりしていた。
「ふふふ。私、ひとりでも弱くないんだよね」
アタッカーは、基本的に攻撃性能ばかりを盛られていて、防御面が弱い。〈魔術師〉もそうだし、〈剣士〉もランクアップするにつれ防御がおろそかになっていくらしい。ところが、ここに防御を極端なくらい削った代わりに、攻撃性能と素早さを併せ持ったジョブがある……多数を相手取れるのになかなか落ちない〈道化師〉は、活かしづらいだけで十二分に強かった。
「ピョーッ!!」
「もー。お道化ワラう双面にこんなに抵抗するなんてー」
仮面の虚ろな両目に、真っ赤な光が宿る。シカが足を踏むと、コォンン……と清浄な音が響き渡り、金銀財宝の樹木がざわざわと現れ出た。ボス部屋を超えて、ダンジョン全体からザザザッと寄り集まった金銀の樹やツルたちが絡まって、四本腕に蛇の体を持つ、ナーガのような巨人に変わっていく。
「解ね。見たいんだー、見せてあげるね?」
腰にあったブーツと聖堂とペンギンの仮面「潜靴堂裏」を、とんと叩いてこめかみのものと入れ替える。「猟の解:飛ばぬ鳥に聖威あり、ともに光仰ぐゆえに」を使うと、地味なレモン色の光がぽうっと灯った。杯を取り出して、美酒を全身に浴びる。二重にすべての性能を拡張して、私は時計を手に持った。
「〈セット・スタンダード〉」
ゴォーン、と音がして時が止まる。ダンジョンのあちこちに液体金属で足場を生やし、分身の全員に手持ちのボールをぜんぶ出させる。いつものように、全員で〈ヴォルカナイト〉を使おうとしたそのとき、金銀のナーガはまったく時間の影響を受けずに動き出した。
「あははははっ! ブラフはね? 相手に勝てるときに使わないとカッコ悪いんだよー」
剣で払いのけようとしたナーガは、たしかにたくさんのボールを切り捨てた。剣がボロボロになっても、本体への直撃を半分以上減らせた――なんて、思っているかどうかは知らないけど。
「〈カウント・オーバー〉」
発動を待っている特技のカウントがゼロになる……〈ホット・アラーム〉が起動する。すでに完全破損した仮想のボールが、特技を再現するために飾剣によって生み出された。ドゴゴゴガガガンッッ!!! と百に迫る数が殺到して、あちらこちらへと跳ね回ったナーガの体がちぎれ飛び圧潰し寸断され、時間が動き出した。
「ピュ……ッ」
「どう? 私の言うこと、聞く気になったー?」
ばらばらとナーガの死骸が降り注ぐなかで、シカは震えながら頭を下げてきた。
「よしよしー。悪いことしなかったら怒らないから、ね?」
「ピューウ……」
[拘束したモンスター「恵光の巨鹿」の降伏が完了しました]
[封印解除・テイム用ケージに移動します]
毛並みはいいけどかなり怖がっているから、撫でるのはよしておくことにした。
「恵光の巨鹿」
ベルター近くにあるダンジョン「授命根郷」の分岐ボスの一体。範囲魔法のおやつであり、別に苦戦するような相手ではない。……はずなのだが、「どのタイミングで出会ったモンスターがボスになるか」で強さは大きく変わるため、「ボス部屋に入ったら知らんやつがリンゴ食い始めた」パターンでは最弱、「最初に出会ったモンスターが最後まで逃げ切った」パターンでは最強となる。これはどの分岐でも共通なので、シカそのものの強弱とはさして関係ない。
禁断の果実により、生命を次の段階に昇華させる力を手に入れている。ゴーレムや妖精、低確率でイデアイドラも呼び出すため、PT内に【愚者】が二人以上いる場合や幸運が高すぎる場合は要注意。もともと強いオオカミがツル製の群れを作り出す、異様に強いクマが巨大化して内部破壊する羽目になる、といったパターンに比べれば格段にラクで、シカはまだまだマシな方。
元ネタは『崩壊:スターレイル』の仙舟羅浮編の中ボス「豊穣の玄鹿」。どうやらアナログなバイオテクノロジー(??)によって作り出された改造生物のようで、星神→建木→玄鹿といった流れでの権能(不死・長生をもたらす力)の中継点であるようだ。豊穣の星神「薬師」の力は「肉体が存在し続けること」だけをひたすら重視しており、其の力を享けると、時間経過とともに全身がポリマーやらなんやらに入れ替わったり魂が消滅しても死ねなかったりとさんざん。「長生きしたい(※その先のことはまったく想像できていない)」という祈りに応えて誕生したようなので、ある意味当然ではあるが……。本能だけで暴れるうえ寿命が存在せず、再生力や肉体強度もずば抜けたかれらの末路は「豊穣の忌み物」と呼ばれ、作中最大の武闘派「仙舟同盟」の目の敵にされている。




