199 禁忌近々に均し謹に勤むるべし
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では、どうぞ。
ボス部屋に近付こうとするたびに、何かしらのモンスターが湧いて出てきて邪魔をされてしまっていた。そこまで探索が難しいつくりでもないし、たくさん宝箱が隠してあるわけでもない。進むのはかんたんなはずなのに、ひたすら邪魔が多かった。
「間に合わないようですね。間に合わせたかったのですが」
「ギャギャウ」
ザンッ、と切り捨てたアズリもちょっと飽きてきているような声だ。ようやくボス部屋らしい空間が見えてきたところで、サルが言っていた「神木」らしきものすごく大きな木が直接見えた。
「ピョーッ……」
干支の伝説じゃないけど、リスや猿やクマ、植物にも種やつる草なんかが無数にいた。その中で、こんな笛みたいな声の生き物がいたのかと思って、ボス部屋に入る。
「禁断の果実って、リンゴなんだ……? 『カメン・フルーツロード』で見たやつと似てる」
「多くの伝説で「黄金のリンゴ」と語られていますね」
思いっきり光り輝くリンゴがあった。キリキリしなる枝に生ったリンゴを、最初に逃げていったシカがかじる。ひとくちでツノに引っかかったような形で仮面が生まれ、ふたくちで体が大きくなり、その大きくなった口でがぶりがぶりと平らげると――
茶色かった体毛が緑がかった青黒い毛皮に変わり、丸っこく削ったようだったツノが大樹のように無数の枝を広げていくつものツルを抱え、脚が黒檀のような光沢を帯びていく。見ていて分かる通りの、食べただけで何段階も進化するようなアイテムが「禁断の果実」のようだった。大きな口を開けて笑う仮面が、口と目を貫かれてツノに引っかかっている。
「ピューイッ!」
「アズリ、フィーネ!」
「ギャウグ!」「嫌なものを思い出しますね……」
「イヴも、備えてね」
非戦闘員とは言いつつ、イヴの器臓には、攻撃系スキルを付与できるものがたくさん入れてあった。本人の意思次第でいろいろ変化するようだから、今どうなっているかは分からないけど、ステータスもスキルも一級品に仕上がっているはずだ。
コゥン、と地面を踏んだシカの周りに、ざああっとツタや木が生えていく。そしてぐるぐると絡まり、フルムよりは異形寄りの配下が生まれた。舗装していない土そのものだった地面も、瞬く間に草原になり花畑になったかと思うと、みっしりと噛み合わさった植え込みのステージに変わる。どんどんと盛り上がっていく地面は、すでに地上から何メートルも上にあった。
「こんな改変力を持つなんて……」
「ギャッゴゴ……」
フィーネは手を光の剣に変えて、植物たちを焼き切っている。見習うように、アズリも剣を真っ赤に発光させて配下たちを瞬殺していた。けれど、シカは次々に配下を作り出して、それらをどんどんと合成していく。まるでキノコの王みたいなやり方だった。
「マスター、広範囲を殲滅できる魔法は使えますか?」
「前はあったんだけど、使っちゃった……」
「では、速やかに封印することをおすすめします」
「できるの?」
カードが届けば、とイヴは苦々しげな顔をする。
「まずはこじ開けましょう。敵を引き付けるので、カードが届くところまで近付いてください。あれらも、それほど警戒はしないはず」
「どうだろ。めっちゃ聞いてるよ」
耳がぴょこぴょこ動いていて、こっちをしっかり見ている。いっきに進化して知能も上がったのか、シカはどんどんと植物を呼び出しては進化させ、合成して自分よりも大きな化け物をたくさん作り出していった。
「……たしかに、手に負えなさそうだね」
「あなたは封印だけに集中してください。なんとかします」
「お願い、フィーネ」
「もとより、無茶をする人だと分かっていますから」
呆れ気味の声を置き去りにして、〈は図み軽魔ジック〉と〈アクセルトリガー〉でめちゃくちゃに跳ねる。分身してランダムな軌道でカードを投げ、分身から魔法を放ち、ハットでの拘束をいくつも飛ばした。どれが本体なのか分からないように、九人すべてが不規則に攻撃をして、カードも飛ばす。カードだけは徹底的に避けようとしているけど、ボールでトランポリンしたり敵の腕に〈面歩〉で貼り付いたりした私が状況をかき回しすぎて、だんだんとシカの判断力が落ちてきているのが分かった。
アズリもフィーネも、木製のゴーレムと死闘を繰り広げていた。さっきのクマと一対一でもやれそうなのに、ツルや木を束ねたゴーレムは二人を微妙に上回っているようだ。
「んー、と……?」「〈アイシクル〉!」「〈トリガーアクション〉」「〈クイックドロー〉っ!」「〈ハッ・カーズ〉」「わっ、うるさ……」「〈ルビーフレア〉」「〈レゾナンス・フリージング〉!」
分身をしゃべらせられたら、もっとごまかしやすくなるなと思ったけど……さすがに、ここまでうるさくなるとは思っていなかった。基本的にトレースAIでの自動操作だから、技名以上の意味がある言葉はしゃべらない。けれど、推定される効き具合とか位置取りで表情も変わっていて、いよいよどれが分身か分からなくなっているようだ。
シカに魔法が当たり、焦ったゴーレムが分身を殴ろうとするけど、加速キックで腕をねじ切られて横転する。分身のうち一体が、シカにカードを投げつけた――ぐるりと回って後蹴りで分身を蹴飛ばし、消滅させる。ツノでもう一人を貫いたそのとき、シカの周囲をボールが取り囲んで、七人の私がカードを持っていた。
「ピョーッ!!」
ゴウッッ!! と巻き起こった大風も、特技ではないのですぐに消える。ドーン、ドーンと迫っていくボールが、コゥンと突き立ったツルと木に押しのけられた、けれど。
「だめ、だめー。私の器用さ、時も超えちゃうんだからね?」
弱点を狙う〈シュート・アキュート〉を、〈ホット・アラーム〉で再発動させた。命中率はもちろん器用に依存する……すでに千近い、いくつものジョブで上がりまくった器用に。あやまたず仮面に突き刺さった黒い封印カードは、シカを封じ込めた。
「おぉっ、おお……? 成功しましたね」
「これ成功なのかな? なんか、あからさまにダメそうっていうか……」
いつもの「絵柄がモンスターに変わったカード」ではなくて、カードを斜めに切り裂くように、こちらをにらむ目のような模様がある。中にある絵柄も風景だけで、シカは映っていない。この目がシカなのかもしれない。
[ヘルプに 「拘束カード」 の項目が追加されました]
[ヘルプに 「降伏クエスト」 の項目が追加されました]
「こうふく……クエスト?」
「ゴウブクではないでしょうか」
イヴは「要するに“わからせ”です」とわずかに物騒なことを言った。
「手早く済ませましょう」
「うん、そうしよう!」
降伏/調伏 (ごうぶく/ちょうぶく)
魔物や妖怪を法力で以て鎮め、人の則に従わせ人々の役立つものとなるよう教えさとすこと。”こうふく”の方をさせる、という意味ではない。正確に字義に則ると前半の意味しかないのだが、説話集を読むとだいたい後半とワンセットになっているため、筆者は「人の役に立つよう教えさとす」までと解釈している。超ざっくり言うと「妖怪をボコってわからせ、土地のみんなを頼んだぜ! と契約を結ぶこと」。『呪術廻戦』の魔虚羅の調伏がとても有名だが、どちらかといえば『妖怪ウォッチ』のメダルをもらう流れに近い。
魔物・妖怪との対峙における用語として、「退治」との違いは、相手の命を奪うか否か・居どころを奪うか否かにある。逆に「わからせ完了したから、仲間にしたってくれや」が通じる日本っておおらかだな……と思わざるを得ない。禪院直哉があれほど海外で嫌われ、日本では(ドブカス的な意味で)好かれるのも、こういった寛容さの差なのだろうか。




