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いつでも真面目ちゃん! ~VRMMOでハジケようとしたけど、結局マジメに強くなり過ぎました~  作者: 亜空間会話(以下略)
5章 今は一人で歩こうローズ:行き雪疾くほどき

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189 自分以外のことならよく見える(見てない)

 どうぞ。

 準備運動と柔軟から始めたけど、案の定体は動かなかった。一年のブランクがあるから、体型が大きく変わっていないだけまだマシなくらいだ。


「くあー、固い……!」

「まーまー、ケガから復帰したりシニアで復帰したりする人もいるから、こんなものよ。むしろ、太ってないのはよくやったぞー、アカネ」

「……それだけは絶対、自分的にNGですから」

「理想がある子は強いね。行こう、ステージ」


 遠くても、いま立ち止まっていても。いつかたどり着く日のために、せめて後退しないでいられるようにと思っていた。じりじりと後退はしていたかもしれないけど、思っていたよりも踏みとどまっていられた。それが、少しだけ嬉しかった。


「それに、動きが頭の中にあるし、きちんと体にもなじんでるみたい。ふつう、頭でっかちか先走りになるんだけど、追い付いてないのは体だけね」

「よかった、のかなー……? 悪くはないんですよね?」

「うん、まあ。心技体とかいうけどあれウソよ、まず筋力と持久力、心技体体体だから。体重軽くしすぎると着地でふらつくし、関節の強度も大事」

「それは、はい」


 以前にも聞いたし、耳にタコができるくらい聞いた。体が資本というけれど、新体操はスポーツの中でもとくに危険度が高いことばかりしているから、準備や対策にはほかの競技の倍以上の時間やコストをかけている。


「かんたんに身体計測したけど……「問題ない」くらい。走り込みとかそのほかのトレーニングとかもしっかりやって、イベントにピーク持ってこられたらオッケー、ってところね。メニューちょっと考えてくるから、アレーナ先生と外で走り込みしてきて」

「わかりました!」


 二人で玄関を出て、外に出ていたらしい青梅コーチとすれ違った。


「あ、ちょっと復帰するって言ってたんだっけ。おかえり、アカネちゃん」

「ただいま、青梅先生!」


 私が通い始めてからしばらくして入ってきた人で、古参だけど、あのときはド新人だったコーチだ。お互い慣れていなかったから、いっしょに成長していった思い出もある。


「海野先生、やっぱインテリ脳筋だなぁー。アレーナ先生、お願いしますね」

「任せてください」


 下駄箱を出て、二人で並んで走る。ペースはかなり抑えめで、二人とも会話する余裕があった。というよりも、こっち目当てだったのかもしれない。


「海野センセイ、優しいね。競技に本気じゃなくても、いさせてくれる」

「バランス、……なんでしょうね、たぶん」


 新しい生徒が入ってくるきっかけや、出資者や関連会社が首を縦に振ってくれるかも、クラブの成績が強く関わっている……らしいけど、経営がどうしても厳しいような話は聞いたことがない。零細だろうと弱小だろうと部活動がなくならないのと同じような事情なのか、烏野曖音選手ひとりだけでもそういう事情を跳ね返せる力になっているのか。生徒の目からだと、はっきりした答えは出せなかった。


 暗渠の上を通り、商店街と平行に走って河川敷に出る。そのまま川の飛び石を渡りテニスコートをなぞるように土手に登って、途中にある階段でちょっとだけ休憩をとる。


「あんまり息上がってないね。ちゃんと走り込みしてた?」

「ちょくちょく、ですけど。大学も遠めなので」


 少なくとも大学デビュー特有の、脚に急激に色気が……分厚い脂肪がつく、運動部だととくに目立つアレは避けられた。避けきれてはいないけど、まだ動ける域にとどまっていられていると思いたい。


「アカネは、みんなに愛されてるね。よくわかった」


 アレーナ先生は、ほんのりと微笑みを浮かべた。


「え、なんですか急に」

「海野先生はみんなに優しい。アイネは“シュンゲン”……エベレストみたいって。コーチも人だから、生徒に好き嫌いあるの。問題児、よそに渡すと、辞めていく」

「俳句ですか」

「今のが? 違うけど」


 三人、とちょっとだけ真剣な顔になった。


「アタシと青梅先生、海野先生と。あとふたり。あんまりタイプ似てない。どのコーチがどの子と合うか考えて、その子のスケジュール作るの」

「考えてみたら、そうですよね……」


 ひとり産休でしばらくいなかったコーチもいたし、そうでなくても休みはある。牧塩高校新体操部はほぼ毎日来るけど、それ以外の生徒はちゃんと日程を組んでいる。コーチと合うように生徒の日程を組むのは、言うまでもないことだ。


「だいたい別の三人と、みんな仲いいから……大丈夫そう。安心した」

「なんだかんだ、あそこにはずっといましたから」

「ううん、それだけじゃない。いろんな人をキョヒしないの、大事だからね。アタシに「ハロー?」とか言わなかったし。アタシも英語わからない」

「や、それは分かった方がいいんじゃ……?」


 だって日本育ちだし、とからから笑う。


「ふるさとっていうか、生まれた場所、英語圏じゃないの。母がちょこちょこ漏らしてたから、母国語はちょっと分かるけど、英語わからない」

「そ、そうなんだ……」


 わざわざ具体的な名前を避けているから、訊くのはやめた。すると、ちょっとだけのぞき込んできた先生と目が合う。


「そういうところ。知らないでいてくれるところ、みんな嬉しいんじゃない? 自分のことをよく知ってる人より、よく知らない人の方が安心すること、あるから」

「あるんですね。あんまり意識してなくて」


 じゃあ、と立ち上がったアレーナ先生に続いて、私も立ち上がる。


「戻ろっか。少し、風吹いてきた」

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