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18 ディール・ウィズ

 どうぞ。

 そんなに遠くもなかった日時計から街に戻り、手に入れたアイテムをざっと見る。海産物はかなりの数があって、インベントリに重量制限があったら、とっくにパンクしているくらいだった。


 渡す瞬間になくなってしまう制約は、ちょっと大きすぎる。【愚者】からでも買い取りをしてくれるお店はいくらでもあると思うけど、何度もやったら確実にマズい……旅人がおかしなからかい方をしてくる、なんて風評が流れたら、全員に迷惑がかかってしまう。誰のところがいいのかな、と思っていたら、肩をこんこんと叩く人がこっちを見ていた。


「あ、仮面……?」


 露店に近寄ってみると、エプロンのお兄さんは胡散臭い笑顔を作った。


「そうです、私も【愚者】。どうしてもお金と縁を結ぶのが苦手な方が多いのですが、商人になる分にはそう問題がないのですよ」

「そうなんですか?」

「ふふふ、お買い物ですと相手方に手に取っていただくでしょう。そのままお値段をお伝えして、あちらからお金を出していただくと、あら不思議! 意志の力は作用しないのです。面白いでしょう?」

「すごい……!」


 ところで、と淡く光る眼がこちらを見つめる。


「ひと通り体験したあとだけれど、誰に売ればいいのか困っている……といった様子ですね。じつは私、これでもかなりのお金持ちでして、どんなアイテムでも買い取れます」

「じゃあ、海の珍味とかも?」

「おや、珍味。ここでは相当な値段になりますが、出していただければ査定はいたしましょう。決して損になることはしませんよ」

「いっぱいあるんですけど、出しますね……」


 まずアワビを出すと目の色が変わり、「ぼろぼろの金貨」を出すと身を乗り出し……挙げていくときりがないくらい、すごくいい反応をしてくれた。


「いやはや、驚きました。ここまで品質のよいものを持ってこられるとは、いったいどうやったのやら。どこかダンジョンでも?」

「はい。これまではなかったんですか?」

「ええ、まあ。こうもキラキラの貝殻は、このあたりでは見たことがありませんね。それにこの金貨、超古代の統一国家のものなのでは……? いやぁ、なんともまた」

「よかった、いいものばかりで……」


 本当にいいものばかりですよ、とお兄さんは笑う。


「申し遅れました、私はグレリー。なかなか、この街に来てからは見ないものばかり仕入れていらっしゃる。ぜひ、今後もごひいきに願いたいものです」

「こちらからも、ぜひ!」


 では商談成立ということで、と……ザジャリッ、とすごい音を立てて金貨の袋が目の前に置かれた。


「えっ、あのこれは」

「じつは、海の食材を仕入れてはくれないかと前々から頼まれておりまして。釣り上げ工作でもないのにお金を出されて、困っていたのです……」


 とんと叩いた指の先に「六十万ディール」と金額が出た。こんなに、と思ったけど、相手は本気らしい。


「い、いいんでしょうか……」

「正当な取引ですよ。砂漠の真ん中で飲み水を売ってくれるのなら、全財産の半分だって出してやろうって気持ちになるでしょう」

「もらっちゃいます」

「どうぞ、どうぞ。取り上げたりはいたしませんので」


 受け取ると、インベントリの下にある「所持金」がいっきに六十万ディール増えた。いろいろお買い物をして、千ディールあるかないかだった所持金が、いっきに百倍以上になった。


「ああ、そうそう。買い取りはともかく、買い物をするときは【愚者】も歓迎されますよ。金遣いが荒いというのは、店ひとつでかなり使うってことですからね」

「よかった……。でも【狂妄】は」

「街に入れません。近付くだけで命が削れていくので、来ないでしょうね」

「そこまでするんですね」


 それはもう、と目を細めて皮肉げに言う。


「たくさんの命が失われる元凶になりますから。旅人の方にもよくご理解いただきたいところです」


 よい品物が見つかりますように、と微笑んだグレリーさんと別れて、露天商ではなくお店を構えている……より品質がちゃんと保証されているところに向かった。いま身に着けているのは、初期装備からダウングレードされてしまった、最弱中の最弱な防具だ。レベルも21まで上がったのに、着ているのは薄いレオタードだけで、部活の練習中みたいだった。


 いま買うとしたら、初期よりもちょっといい防具か、お値段以上に優秀な防具……というか服だろうか。旅人向けのポップアップを出しているお店がけっこうあるので、目についたところに入ってみた。


「いらっしゃい。あら、安いものをお探し? うちは少し高いんだけど」

「あ、お金はあるんですけど……。【愚者】向けの商品ってありますか?」

「ええ、あるわ。ああ、でもそうね……あなた〈道化師〉? それなら、うちの服は売ってあげられないの。ごめんなさいね」

「えっ、どうしてですか!?」


 ジョブスキルがね、と店員のお姉さんはかぶりを振る。


「〈道化師〉のジョブスキルに、「魅惑」のステータスがついた衣服しか着られない、ってものがあるの。たしか、劇がなんとかって名前だったかしら」

「ここの服には、それがないんですね」

「ええ。〈道化師〉が服を買ってくところならあるわ。地図にナビを付けてあげるから、出しなさい」

「ありがとうございます!」


 見るとすぐ近く、この通りにあるようだ。


「ほかの旅人のお友達がいたら、いくらでも紹介してね。それじゃ」

「はい。ありがとうございました」


 手を振って別れ、私は紹介されたお店に向かった。

 【狂妄】が街に入れないのは、身を堕とした分の狂気が周囲に振り撒かれるからです。下手に街に入れたら自然発生インスマスもどきになってしまうのだ……

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