12 おうちをつくろう(2)
どうぞ。
『おっかえりー。どうだった?』
「なんとなく、感覚でやっちゃった。ステータス見る限りだいじょうぶっぽいけど」
帰ってくると、絨毯が敷かれていた。すでに家具を買っていたのかもしれない。
「お待ちしておりましたぞー、視聴者諸兄も首をのびのびしています」
「そんなに?」
「シェリーは恥ずかしがり屋さんですので、質問コーナーはなしなのですがー。どうですかフィエル、視聴者の質問に答えるのは」
「いいよ、人前に出るの、嫌いじゃないしね」
とっこの配信枠をウィンドウに引っ張りだして、コメント欄を見る。
『おつつ』『けっこう早かったな』『じつは事前情報見てたん?』『すんごい恰好の人ばっかりやね』『このゲームが12+でよかったわw』『とっこは分かったんだけど、フィエルさんはなんでこのカッコなん?』
「私の服装ですか? ハジケようと思って【愚者】選んだら、初期の衣装がこれだったので……」
いわゆるピエロみたいな服もあったけど、あんまり可愛くないなと思ってやめた。こっちはこっちで、かわいいとは思うけど、露出がすっごい。
『やりすぎだろwww』『さすがに草』『それでいいのか(困惑)』『真面目か!w』『恥ずかしかったりしないんですか?』
「恥ずかしくはないですよー。だって、中高で新体操やってたし」
『ファッ!?』『玉乗りしてたバランス感覚はそれやったんか』『あー、レオタードね』『やめたん?』『サフォレと同級生ならもしかして烏野選手と同期とかか』
「曖音ちゃんはおんなじスポーツクラブ……でしたよー。ちょっとその、やめちゃったんだけど」
『まさかのあいねちゃん呼び』『敬語苦しそうだしやめてもええで』『はえー』『平均台とか絶対上手いやろ』『バウンドするボールの上で玉乗り続けられるのヤバすぎんか?』
意外なところを褒められてるな、と思いつつ「じゃあ敬語取っちゃうね」と宣言する。
「平均台はそんなにかな。床運動のボール、あれいちばん得意でさー。県大会にギリギリ選ばれたときもやったんだ。トランポリンもけっこうできるよ」
『縁ある武器やったんか……』『玉乗りにはいっさい言及しない恐怖』『素でやってたってこと??』『スキルやろ』『スキルあってもクッソムズいぞ』『あれどういう仕組みなん?』
「玉乗りはさすがに練習したよ? ボールのスキルに、円陣保って跳ね続ける技とボールが大きくなる技があって、使える! って思ったから〈軽業〉スキルも取って……。二時間くらい、ティニーさんのとこで練習したんだ」
『二 時 間 の 練 習(大迫真)』『えぇ……』『才能やろ(適当)』『もう新体操関係なくね?w』『運営はこれ想定してたんやろか』
がんばった成果が真っ当に褒められていて、すごく嬉しい。
「めっちゃ強いから、みんなもやってみてね。ほかは質問ない?」
『どの武器がいちばん強いか知りたい』『ビルドまとめたりしてくれませんか?』『たてわきサフォレと同居してるってマジ?』『えっなにそれしらん』
アンナ=「たてわきサフォレ」と私が同居している、というのは事実だ。否定するまでもないから、ちゃんと答える。
「あの子、いろいろ事情あって私の家に住んでるんだー。同居っていうか、家族。配信のリアフラとかしてたのも、たぶん私だと思うよ?」
『あっそういう……』『つながったね』『なるほど、誰よりも仲いい人ってそういうことね』『言われてみればリア友にもV活動なんて教えるわけないわな』『友達って言うわりに毎日起こしてくれるとかお風呂入れてくれるとかって言ってたのはそれか』
けっこう赤裸々に言ってるな、と思ってアンナの方を見ると、そっぽを向いていた。
「ではでは、これ以上はプライバシーの領域になりそうですので。アンナさんと仲良し、フィエルさんのご紹介でしたぞー!」
「じゃあねー!」
手を振って、配信のコメント欄ウィンドウを閉じた。横で見守っていたアンナが、すすっと近寄ってくる。
『あんなに情報言っちゃってよかったの? ……私のことは、いいけどさぁ』
「別に、隠すようなことじゃないよー。武器の情報も、まとめとかないと」
『あ、やるんだね。こっちでやってもよかったけど、どう? 雑感伝えてくれるだけとかでもいいよ?』
「じゃあえっと、生原稿? 出すから、チェックして!」
ソウコウね、とアンナはふんにゃり笑った。
「えっと、ホーム作るためにお金って話はどうなったんだっけ?」
『いろんなスペースとか家具、お金で買わなきゃいけないんだよねぇ。好きな部屋作ったり訓練場置いたり、稼いできた人が好きにしていいよぅ』
「おぉー……! もしかして競争?」
『してもいいし、協力してもいいよ。予定合わせあるときは連絡するし?』
おっけー、とお互い納得して、まずはお花を買いに行くことにした。
「アンナとはいっしょに行けないんだよね……。やってくるね!」
『楽しみにしてるからねー』
拠点を出て、マップを開く。近くにある街に目的地をセットして、視界に矢印が映るように調整した。道なりに進んで、見えてきた城壁にそのまま入った。すると、突然全身がぼわんっと煙に包まれて――
「へっ、なになに!?」
[レベルが規定値に到達したため、初期装備が差し替えられました]
無機質なアナウンスが聞こえて、煙が消える。感覚が変わったな、と思ったら燕尾服が消えて、レオタードもエナメルの固いやつから薄い布に変わってしまっていた。
「こんなことあるんだ……。まーいいや、もともと当たったら負けみたいな感じだし」
ジョブの〈道化師〉もそうだけど、武器で使える技にも、防御できそうなスキルや特技はぜんぜんない。着ているものがちょっと安っぽくなったところで、あんまり変わりはないだろう。ほかにも何か知らないことがありそうだな、と思いつつも、私はナビゲートされた先を目指して歩いた。
街に入りさえしなければ初期装備を着続けられます(バグではない)。特に利益はない。
鼠径部強調は12+よりもっと上っぽいのに気付いた。いや、どうなんだろう……微妙にわからん(無能)。あ、フィエルのステータス置いとくね……
フィエル【愚者】Lv.11
HP61/61
MP122/122
筋力26
防御25
敏捷54
器用52
賢識37
幸運41
意志アビリティ:【ひどい手癖】【愚かな賭け】【愚者は経験に学ぶ】【柵なく友あり】【おもてさかさま情転図】
ジョブ:〈道化師〉
スキル:〈軽業〉〈初級魔法〉〈仮面の向こう〉
武器:
[贋作]『メルクリオード』第一弾ボックス〈歯車は廻りだす〉
[贋作]『メルクリオード』第三弾ボックス〈巣立つイノチを見つめて〉
[贋作]『リーズ・ブライド』第九段~第十二弾構築済みデッキ〈夕焼けも月も朝日もキミと〉
「しぶいステッキ」
「夢がはじまるシルクハット」
「止まりかけた懐中時計」
「ダンサブル・ソード(練習用)」
「子供用ボール(中サイズ)」
「懐古の白球」
「遊興異郷交響離狂」
特技:〈スクリーンフェイス〉〈シールバインド〉〈バインド・リベレイト〉〈ランダマイズ・スロー〉
〈アイシクル〉〈リンクボルト〉
〈大きく開けて?〉〈サー・プライズ〉〈ゲー・ティア〉〈サイ・プレス〉
〈ターミナル・ベル〉〈ホット・アラーム〉〈アクセルハート〉〈セット・スタンダード〉
〈朧演刃賜〉〈熔充送戯〉
〈は図み軽魔ジック〉〈片割り悲嘆歌〉〈ギガントスケール〉〈ヴォルカナイト〉
玉華苑:起動中「残響」「光芒」「波濤」「火花」「砕焔」「飴玉」「凝結」