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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 97

「えっ!この国にも手記が残ってるんですか?」


吹雪が止んだ雪道を首都に向かって歩く。


エルヴァンさん曰く、この国にも前の使徒、セレナさんの手記が数冊残っているらしい。


「残ってるって言うか、持たされてたと言うか、整理してあげてたと言うか・・・。あの子いつも手ぶらだったから、アタシが荷物持ってあげてたのよ。帝国の内乱が落ち着くまで、っていったん解散したんだけど、たった十年やそこらであの子赤ちゃんまで産んでるんだもの。返し忘れててそのままだったの」


帝国・・・ドラヴェリオンの事か。


「ちゃんと持ちなさいって言ってもすぐバッグをどこかに忘れてきちゃうし、何回言ってもお腹出して寝るし、お風呂も放っておくと入らず寝ちゃうし、ホント困った子だったのよ~」


そう言うエルヴァンさんの顔はとても優しい。セレナさんの手記には『おばちゃんみたい』って書かれてたけど、なんだかお母さんみたいだねぇ。


「エルヴァンさんはいつも使徒様のお布団かけてあげてましたもんねっ!」


ヘブンが跳ねるように付いて来ている。


「それはポッちゃんも一緒でしょ~?いつも寝床から落ちるから何回戻してあげた事か。・・・ポッちゃん、アナタ小さいの可愛いわね・・・」


歩きながらマジマジとヘブンを見つめている。その視線に気付き立ち止まって振り向くと、フン?と首をかしげるヘブン。あ、あざとい・・・!


「ヤダ!ポッちゃんその子犬モード可愛いわねっ!ちょっと抱っこしてもいいかしら?!」


「いいですよ~どうぞっ!」


両手を上げてお迎えポーズ。きゃわいいっ!


「や~ん!何これぇ!元のサイズの時より毛がフワフワじゃない?かわうぃ~!」


声が男の人だからギャル男っぽくなってるぞ。


「実は元の大きさより大きくなる事も出来るようになったんですよ!今度見せてあげますねっ!」


「大きく・・・?ビッグモフモフ・・・?モフモフの中でお昼寝が出来る・・・?!」


キュピーン!みたいな顔したエルヴァンさん。何考えてるのか丸わかりだな。


「はぁっ・・・ちょっとっ・・・!ヘブンを抱っこするんなら、自分の荷物持ってくれませんかねっ?!」


後ろから重そうなカバンを抱えたナイトが追い付いてきた。エルヴァンさんが倒れてた辺りに埋まってた、エルヴァンさんの荷物だ。


「や・だ♡久しぶりのポッちゃんとの再会なんだもん。そのくらい現役の従者さんに持ってもらわないとね~」


「じゃあ俺の魔法カバンに入れてm」


「ダメよっ!すご~く大事なものなんだから、大切に扱ってちょうだい!」


「さっきからそれ言ってますけど、何が入ってるんですか?」


エルヴァンさんの真横に行って見上げて聞く。この人ナイトより背が高いな~。


「各国から取り寄せた、お高い化粧品よ♡」と言うとパチンとウインク。


それを聞いたナイト、かの有名なスナギツネみたいに顔になっちゃってる・・・!い、イケメンが台無しに!


「・・・」


そのまま無言で魔法カバンにエルヴァンさんの荷物をギュウギュウと詰め込むナイト。


「あっ!ちょっとォ!何してんのよ!」


「文句あるならご自分で持ってくださいっ!」


なんかワチャワチャし始めた。う〜ん、間に入るべきか放置するか、どうしよ。


「キトルさま、キトルさま」


「ん?どしたのヘブン」


「わたくし、エルヴァンさんにまた会うことが出来て嬉しいですっ!それに、エルヴァンさんにお二人を紹介出来て、とってもとっても嬉しくて、良かったなぁと思ってます」


真っ黒な尻尾をちぎれそうなほど振って見上げてくる。


そっか、子供の時に拾われて一緒に旅した、ヘブンにとって家族みたいな人なんだよね。


家族に大事な仲間を紹介出来て嬉しいって事かぁ・・・。そんな素直で可愛い事言われると、キトルちゃんキュンキュンしちゃうぞ?


よ~しよ~しと撫でてあげると、尻尾がさらにブンブン。それ取れない?


「キトル様!この人うるさいんすけどっ!」


「キトルちゃんっ!この子生意気よォっ?!」


新旧の従者が訴えてくるけど・・・よし、放っておこう!


「ねぇヘブン、前にもこの国に来た事あるんでしょ?美味しい食べ物とかあった?」


「そうですねぇ~私が好きだったのは・・・」


ヘブンと並んで歩き出す。


「あ、ちょっと待ってよポッちゃんにキトルちゃん~!」


「先に行っちゃダメっすよ!迷子になりますって!」


従者ズが慌てて追いかけてくるのが面白くて、ヘブンと笑いながら走り出した。






「今日はあの村で休憩しましょ」


日が傾いてきた頃、エルヴァンさんが小さく見える集落を指差した。


近付くと見えてきたのは、まるで北欧の絵本に出てくるような家が並んだ村。


「うわぁ・・・可愛い・・・」


ログハウスのような造りの家の屋根には分厚い雪が積もり、その壁は真っ赤に塗られ、家の玄関の上には小さな灯りがいくつも光っている。ん?こういう風景、見た事あるぞ・・・?


何だっけ、あの、アレ、冬場のイベントで、前世でホットワイン飲んだんだよね、美味しかった・・・あのクリスマス時期に・・・


「そうだ!クリスマスマーケットだ!」


思い出せてスッキリ!そうだそうだ、クリスマスっぽさが満載なんだ。


「何か言いました?キトル様」


先を歩くナイトが振り向く。


「ううん、何でもないよ」


顔の前で両手を振っていると、横にエルヴァンさんが並んでにっこり笑った。ふわぁ・・・妖艶だなぁ・・・。


「それ、あの子も言ってたわ。使徒様が居た世界のお祭りに似てるんでしょ?とっても素敵で楽しくてウキウキするんだよ~!なんて言ってたっけ。ふふふ、懐かしいわ」


やっぱりセレナさんも同じ感想を抱いたのか。まぁこの見た目は完全一致だよね。


「あの子ってば、やるしかないでしょ!ってわざわざお酒を温めて飲んでたのよ?変な飲み方するな~って思ってたらそれを見た商人がお店で出し始めて、今じゃ国中どこに行っても温かい葡萄酒が飲めるようになっちゃったんだから。もしかして商才もあったのかしらね」


ななななんと!ホットワインが存在するですと?!


「そ、それってこの村にもありますかね・・・?」


「え?あぁ、あると思うわよ?氷と雪の国だし、温かいお酒の方が理にかなってるのよね」


よっしゃ~っ!ホットワイン!赤かなっ?白かなっ?両方あるならどっちも飲んじゃうっていうのも手だよねっ!


「早く行きましょ!ほら!エルヴァンさん!早く早k」


エルヴァンさんの腕を取って走り出そうとしたその時。


「陛下ぁっ!!」


私達が向かう方向、村の奥から大声が聞こえた。


先を歩いて村の入り口に差し掛かろうとしていたナイトとヘブンも思わず立ち止まる。


「おひとりで行動しないでくださいと何度言ったらわかるんですか!!」


村の奥からドスドスと足を踏み鳴らしながら歩いてきたのは、エルヴァンさんより明らかに年上のエルフ男性。


銀色と言うよりは白髪に近い長髪はオールバックにして後ろに束ねられ、少しシワのある顔には怒りの表情。そして頭には紐のようなものが巻かれてる。なんだろ?細いハチマキ?


「え~もう来ちゃったのォ~?残ね~ん」


「何が残念ですか何がっ!この村の視察に行くというから許可を出したのに、何を勝手に出歩いとるんですかあなたは!」


「だってぇ、ちゃんと行くよって言ったらダメって言うでしょ~?」


「当たり前です!一国の王が護衛も付けずに国境に近付くなんぞ、許可出来るわけないでしょうが!」


・・・いっこくのおう?


「・・・エルヴァンさんの本名って、いっこくのおうさんって言うんですか?」


「やぁだ、キトルちゃんってば!そんなわけないじゃないの~」


白髪のエルフさんがスッと前に進み出る。


「この方は我が国の国王陛下だ。それで、君はもしかs」


「そうなのォ~!こう見えて、アタシってば王様なのよ!オ・ウ・サ・マ!え?女王様の方が似合うって?そうね、アタシもいつもそう思ってr」


「アンタは黙っててください!話が進まん!」


年配のエルフさんが怒鳴るけど、エルヴァンさんは気にせずクネクネしてる。


そ、そういえばさっき「陛下!」って呼んでたね・・・。


エルヴァンさんがフロストリア王国の国王陛下・・・?前使徒様の従者が王様・・・オネエ陛下・・・。


隣に戻ってきたナイトがボソッと「この国大丈夫っすかね」とつぶやいた。


そうね、その意見には完全同意するしかないんじゃないの・・・?

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