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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 95

「もしもフロストリアで何かあれば、我が相手になると伝えておけ。お主は我が国とその帝王の命を救った恩人だからな。ドラゴンを敵に回したくなければ、失礼な行いをするなよ、と」


半日前のガーデリオンの言葉が頭の中でリフレインする。いきなりそんなケンカ腰で行きゃしないっての。相手がケンカ売ってくりゃ買うかもだけど。


ガーデリオンに国境で別れを告げてから仮眠を取り、出発してから二時間ほど。


今私達はフロストリア王国に入り、道沿いに張ってある誘導ロープを頼りに歩いてるんだけど・・・。


ゴォォォォォォォォォ


「ナイト~っ!これ~!どこかで一旦休んだらぁ~!マシになったりしないの~っ?!」


ブォォォォォォォォォ


「え~っ?!何て言いました~っ?!」


ま・さ・にっ!これぞ猛吹雪っ!


横殴りの雨は前世で台風の日に経験した事あるけど、横殴りの雪は初めてだわ!いや、正面から吹いてるし前殴りっ?!


常春バングルのおかげで寒さはほとんど感じないのが救いだけど、流石に暴風までは防げない。


風が強いからか見た目ほど積もってはないけど靴は雪に埋まってるから歩きにくいし、何より滑らないように気を付けて歩いてるから疲労も半端ない。風に飛ばされないようにずっと前のめりだし。


修学旅行でスキーに行った時、視界が真っ白~!とか思った事もあるけど、そんな比じゃねぇ。そもそも雪が目に突っ込んでくるから目が開けられない。ずぅ~っと薄目だから顔も疲れてきたし。


「コレもう無理じゃない~っ?!ぶほっ」


雪が口に入っちゃった。


「聞こえません~っ!」


「無理だっつってんの!!」


すぐ目の前に居るのに声が聞こえてないって、もうヤバいでしょ。


問答無用で両手を前に出す。


積もった雪の下の地面に、深く深く根を張り、猛吹雪に飛ばされないくらいの頑丈さをイメージする。


そして、そこから放射状に芽が水平に雪の中に伸びていき・・・


パクン!!


私とナイト、そしてナイトに抱かれているミニヘブンをまとめて花の中に閉じ込めて、大きな丸っこいつぼみになった。

ワンルームの部屋くらい広さはある。


つぼみの内側は温かい繊毛で断熱されてて、ほんのりいい香り。


花びらはうっすらとしたピンク色で半透明だから、周囲の様子もわかるようにしてみた。吹雪がマシになったタイミングで出ないとだしね。


「プハァ~ッ!大変でしたね~っ!」


とナイトの服の下からヘブンが顔を出す。


「おい・・・大変なのは俺だろ?」


とナイトが頭に付いた雪をバサバサと払う。


「こんな吹雪、初めてなんだけど!雪が積もってるのは予想してたけど、こんな雪は想定外だわ~。この国、いつもこうなのかな?」


と身体に付いた雪を払う。前面にだけ雪が付いてて、背中側には何もついてないのすごいな~。


「どうなんすかね?俺もフロストリアについてはあまり・・・ぶっ!ぶはははは!!キトル様!前髪!すごい事になってますよ!わはははは!」


とナイトが私の顔を指さして笑い出した。


何さ。オデコ丸出しにでもなってんの?カバンに手を突っ込んで手鏡を探す。


風が強かったんだし仕方ないじゃん・・・と鏡を見ると、ピタ~ッと見事な七三分け。黒縁眼鏡かけたら真面目な委員長キャラみたい!


「あはははははは!何これ!奇跡じゃん!ウケる~!あははは!」


不思議そうな顔で私とナイトを見比べるヘブンをよそに、ひとしきりナイトと大笑いして、一呼吸。


「は~っ・・・笑いすぎて無駄な体力使っちゃったた・・・」


「・・・ホントっすね・・・んぐっ・・・ぶくくく・・・」


とまだ前髪をチラチラ見ながら笑うナイト。いつまで笑ってんのよ、全く。


「しかし、このままじゃ移動もままならないから完全に足止めだね。いつ止むのかなぁ~」


前髪を手で散らしながら鏡を見る。やっといつもの私だわ。


「どうですかね~こんなに強い状態はそれほど長くは・・・」


ナイトの言葉が途中で途切れる。


ん?どうしたの?


鏡から目を離しナイトを見ると、外の一点を見つめている。


「キトル様、ヘブン・・・あれ、何だろ・・・?」


外を見ると、吹き荒れる雪の向こう、数十メートルほど離れたところに・・・枝?


「なんであんなところに木の枝が・・・」


よ~く目を凝らして見る。なんだか変な形してる。雪の中から出てるし、まるで人の・・・腕だ!手の指が見える!


「ナイトっ!あれ人だよっ!助けに行かなきゃ!」


「はいっ!ヘブン・・・はこのままここでキトル様と待っててくれ!」


「わかりましたっ!」


小さいから飛ばされそうなヘブンと私は待機。ナイトだけが救助に向かう。


・・・いや、向かわない。


「え?!行かないのっ?!」


「いや、この花びら開けてもらわないと行けないっす」


あ、そりゃそうか。


「そうだ、ちょっと待って」


つぼみの中心にグルグルと頑丈なツタを出す。端っこはつぼみの中心の空中に固定して、反対側をナイトに。


「これ腰に巻き付けて!あの人捕まえたら、私が引っ張るから!」


「あ、なるほど、わかりました!」


と言うとすぐに自分の腰に巻き付けてしっかり縛る。私が片手を上げると、幾重にも重なった花びらの外側の数枚がゆっくりと開き隙間から風が入って来た。


その隙間からナイトが身体を滑らせ外に出ると一歩、二歩、と確実に足を踏みしめながら近づいて行く。もう少し、あとちょっと・・・


「捕まえたっ!」


ナイトがしっかりと人をホールドしたのを確認してツタに力を込める。


グ、グ、グググググッ


強風の影響か大人二人分の重さかわかんないけど重いっ・・・!けどパワーアップしたキトルちゃんはこんなもんじゃないぜ!


「おりゃあ~っ!」


マグロの一本釣りかのごとく、ナイトごと宙に浮かせると、


スポンッ!


とそのままつぼみのテッペンから二人を飲み込んだ。


「ビッ・・・クリしたぁ・・・普通に引っ張ってくださいよ・・・」


胸に手を当てて瞳孔が開いてるナイトは放置して、雪に埋もれてた人の救命措置に取り掛かる。


この世界でも一緒なのかは知らないけど、とりあえず首元と手首の脈拍を確認してみる。


ドクン、ドクン・・・うん、生きてるね。


口元に耳を近づけてみる。ス~ス~ッと小さな息遣い。呼吸も大丈夫そう。


顔色は・・・真っ白。そりゃ雪に埋もれてたから・・・でもこれは元から?


改めて見てみると、雪の色が移ったような純白の肌、月の光を浴びた氷のような銀色のロングヘアー、そして尖った耳・・・これは・・・


エルフだ!


「ふわぁ・・・エルフだぁ・・・本物だぁ・・・」


すご~い!めっちゃファンタジー!Yeah!め〜っちゃ、ファンタジー!ウキウキな・・・いやそれどころじゃねぇわ。


「この肌の白さはアイスエルフですね。と言うかこの国にいるんで間違いないでしょうけど」


落ち着いたらしいナイトがエルフさんの顔を覗き込む。


「エルフさ~ん、大丈夫ですか~」


脈も呼吸も大丈夫そうだし、次は意識の確認、だったよね?呼びかけながらペチペチと頬を叩いてみる。


すると、「ううん・・・」と小さな声が口から漏れた。あ、気が付きそう?


パチッと目が開くと、長いまつげの下から透き通ったコバルトブルーの瞳が現れる。


うわぁ~・・・すごいビジュアル・・・。


思わず見惚れそうになったその時。


「・・・エルヴァン?この匂いはエルヴァンじゃないですかっ?」


と問いかけたのは、ミニヘブン。


目を開いたエルフさん、その声に反応するようにゆっくりとヘブンの方を見ると数秒間固まり、口を開いた。


「・・・え?ポチ?」


「そうですっ!やぱりエルヴァンですよねっ!」


POCHI?!ポチ?!ぽぽぽぽぽち?!


・・・あっ!エルヴァンって、もしかして、前の使徒様の従者のエルヴァンさんっ?!


えっ?!まだ生きてたのっ?!んでこの人ビジュアルが良すg


「やだ~!ポッちゃんじゃないのっ!超久しぶりじゃないっ?!ぇ~こんなとこで会うなんて奇遇~っ!って言うか運命?!」


・・・え?まさかの?


エルヴァンさん、この美しいビジュアルでオネエさん?いや、だからこそなのか?


「あらっ?ポッちゃん小さくなってるじゃないのっ!ちゃんと出来るようになったのね~偉いわぁ~!」


ヘブンの頭をワッシワッシと撫でくり回す。


小指立ってるってば、小指。


ナイトも全く喋らずめっちゃ小指見てる。


「エルヴァンさんも相変わらず元気そうd」


「あらやだっ!このカワイ子ちゃんだぁれっ?!ポッちゃんからアタシへの貢ぎ物っ?!」


「違いますよっ!キトル様ですっ!今の緑の使徒様ですっ!」


「・・・緑の、使徒・・・ですってぇぇぇぇ?!」


あぁ〜っ!怖いよぉ〜!


一番キャラが濃い人、来ちゃったんじゃないのぉ〜っ?!

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