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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
ドラヴェリオン帝国編

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エピソード 93

「ひぃぇぇぇぇぇ」


「うぎゃぁぁぁぁ」


「どひぇぇぇぇぇ」


バタッ。


肉おじうるさいなぁ・・・。あ、気絶した。


巨大化したガーデリオンの背中に乗って、赤々と森を喰らう火の光を目指して飛んで行く。


巨大化したガーデリオンの背中の羽の間に座ると、どういう原理なのかしっかり背中にホールドされてて安定してるのに、肉おじには刺激が強かったみたい。


ドラゴンの姿だと広さがあるからかナイトも落ち着いてるのにね〜。


「そら、見えてきたぞ」


ガーデリオンの声で前を見ると、ユラユラと揺れる炎が皆の瞳を照らす。


徐々に近付いて、・・・だんだんと、炎が・・・近付いて・・・いや、近くないっ?!


ほぼ真上じゃん!!


あっついんだけどっ?!


「ガーデリ、オ、ちょっとぉっ?!熱いんだけどっ!!ここからどうするのっ?!」


高さがあるとはいえ、真下で炎が燃え盛ってて熱いし煙たいしあついぃ〜!!


なに?!なんか木の実でも作れっての?!


「こうするのだ!行け、我が弟子ヘブンよ!!」


「はいっ!」


と横から声がして、ヘブンがジャンプした。


え、ジャンプ?!


「ヘブン!!」


「キトル様、危ない!!」


ヘブンを捕まえようとバランスを崩した私の腰をナイトが慌てて捕まえる。


「だって、だってヘブンが!!」


ヘブンが飛び降りちゃった!


下、山火事だよ?!


「ふん、あやつを誰だと思っている!我の弟子で、炎を操るブラックフェンリルだ!燃えたりせぬ」


「で、でもこの高さじゃ・・・!」


「大丈夫だと言っておろう。それ、下を見てみろ」


身を乗り出して下を覗くと、炎がドーナツ型になっている。


ドーナツの中心には、ガーデリオンの半分くらいのサイズのヘブンが・・・ヘブンッ?!で、デカいっ!!


「短時間だけだが、もう大きくなれるようになったのだ!」


すごい!超優秀じゃん!!


「本当ならばそのまま数日過ごせるようになってからお披露目といきたかったのだが、このような事態となれば致し方ないと」


なんかガーデリオンがブツブツ言ってるけど、短時間でも凄いよ!


すると大きいヘブン頭上にフヨフヨと、最初は小さな、だんだんと大きくなった水風船のような塊が生まれて育っていく。


真後ろで「あれ、ヘブンの水魔法っすね。サイズがデカくなると水の量も増えんのか・・・?」と呟くナイト。そろそろ腰離してくれないかな。


バシャ〜ッ!!!


まるで空中に浮かぶ湖のような水風船が割れると、みるみるうちに火が消え黒い部分が広がりモワモワと白い雲が上がってくる。


「む。視界が悪いな。下に降りるぞ」


とゆっくりと様子を探りながら、火が完全に消えた場所へと降りて行く。


「ヘブン!!」


「あ、キトルさまっ!」


地面に降り立つと、ヘブンに向かって一直線に突っ込む。


ボフン!!


大きくなってもヘブンのモフモフは健在だ〜っ!


「凄いね、ヘブン!もう大きくなれるようになったんだね!」


「えへへへっ。キトル様ビックリしましたっ?!」


「うん!いきなり飛び降りたから驚い」


ガキィン!!


突然、真後ろで大きな金属音。


なっ、何事っ?!


ヘブンが前足で私を自分の胸元に引き寄せると、頭上で低い唸り声を上げる。


「ナイト殿っ!」


「エルガ様、ジイランさんも来ちゃダメっすよ。コイツは俺が相手します」


ナイトの声が背後の方から聞こえる。相手?誰かいるの?


「緑の使徒っ・・・!貴様が居なければ、我らの望みは叶うのだっ!」


ヘブンのモフモフの中でもがきながら後ろを振り向くと、ナイトが誰かと剣を合わせてる。


誰?見た事あるような無いような。


「キトル様に用があるなら、まずは俺を通してもらわねぇとな!」


ナイトがニヤリと余裕の笑み。ヒュ〜ッ!かっくい〜!


すると、剣を合わせていた相手の容姿が緩やかに変化していく。鼻が伸び、耳は後ろに下がり、その皮膚は体毛で見えなくなり・・・そうだ、前に見たフェンリル族だ。肉おじの後ろに居た人。


「たかが人間の分際で、獣人に勝てると思うなよ!」


そう言い放つと、手にしていた剣をナイトの方に押しやり、両腕を振りかぶる。その指先には鋭く光る爪。


あ、危ない!と思わず目を瞑りそうになった瞬間、押しやられた剣をパシッと左手で掴むと、ナイトがクルリと軽いステップで一回転し、フェンリルの背後に回る。


あまりに自然で、攻撃を避けてるんじゃなくその辺を散歩しているような足取り。


フェンリルはそのまま勢い余って前につんのめるが、すぐに踏み留まり振り向いて再度腕を振りかぶる。ただ今度は口も大きく開けて、上下の牙もナイトを狙っている。


ヤバい!と思ったけど、しっかり目を見開いた。私はナイトの主だもの!ちゃんと従者の戦いを見届けなきゃ!


飛びかかってきたフェンリルの両手の爪先を、ナイトの右手に持った剣が一閃。指先の爪だけが切り落とされ地面に落ちる。


フェンリルも一瞬ひるんだように見えたが、そのままナイトの首筋目掛けて噛みつこうと大きく口を開けて・・・ナイトがトン、と軽く一歩後ろに下がる。


何もない空間に噛みついたフェンリルの両アゴは、勢いよく噛み締めた反動で少し上下の牙が離れた。


と、その瞬間にナイトの左手が素早く動き、その隙間に剣を差し込むと剣を持ったままの右手の拳が左手に添えられる。


驚いて後ろに下がろうとするフェンリルと、一歩二歩と素早く前に詰めるナイト。


爪を切り落とされ、口に自分の剣を差し込まれ、片膝をついたフェンリルに向かって「まだやるか?」とナイトが問うと、フェンリルがゆっくりと両手を上げた。


よし!勝負あり!!


「す、すごい!ナイト殿っ!強い!強すぎるぞ!」


「えぇ、とても驚きました!こんなにお強かったのですね!」


と宰相とその保護者も大絶賛。


「へへへっ。ドワーフの剣と、ガーデリオン様との訓練のおかげっす!人型でも強すぎて強すぎて・・・」


パチパチパチパチ!!


「本当に強かった!すごいねナイト!見直した!」


両手を叩いてスタンディングオベーション。元々立ってるけど。


「見直したって何すか〜?俺は強いってばあちゃんも言ってたっしょ」


「強いとこ見た事なかったから!」


「・・・まぁ俺が出る前に自分で何とかしちゃいますしね」


いやいやほんと凄かった!まるでアクション映画見てるみたいだった。


「リ、リルッ!お前、何でこんな・・・」


目が覚めたのかガーデリオンの背中から降りてきた肉おじが、ジイランさんに縛られているフェンリルに駆け寄ってきた。


ってか結局コイツの名前リルなの?仮でも何でも無いじゃん。悪ふざけか?


「ラグノスさんにはわかんねぇよ・・・フェンリルの嫁さん貰って幸せに暮らしてるからな」


「お、お、お前、何の話をしてるんだ・・・?」


「・・・俺の彼女、キツネ族なんだ。ただ、どれだけ好きでも、俺らは一緒になれない。どこの国でも、獣人同士の婚姻は禁忌とされてるからな。でも、ドルコス様はモルティヴァ神様と約束されたんだ。一度世界が滅べば、この国をドルコス様の元で全てを自由な国にして良いと!」


目が、目が怖い。なんて言うか、こっちの言う事が何も響かない目。狂信者って言うの?


こういう人には何言っても耳に入るだけで心には響かないんだよ。


「何故禁忌なのだ?」


空から声が降って来た。


神様・・・じゃなく、ガーデリオンだ。


「は・・・?」


「我がこの国を治めていた時にそのような決まりなど無かったぞ?」


「え、そうなのですか?しかし竜王様、昔の資料では異なる種族の獣人同士では子に異常が産まれてしまうと・・・」


あ〜、近親婚が禁止されてるみたいな感じか。


エルガ君が真上を向きながら聞き返してる。首痛そ〜。


「そんな訳なかろう。子沢山の民など沢山おったぞ?子はどちらかの種族の特徴を継ぐだけだ。どこからそんな話が出たのだ?」


「・・・これは一度資料をひっくり返す必要がありますな」


ジイランさんがまた探偵ポーズ。


つまり犬の彼女がキツネで、結婚する為に悪コスの言う事聞いて気を切って回った挙句放火したけど、実は別に結婚しても良さそうだった、って事は・・・


「じゃあ解決?」


「裏付けを取ってからにはなりますが、根拠のない禁忌など無意味極まりないですし・・・おそらく廃止になるかと」


「な・・・なら、俺は・・・一体何のために・・・」


後ろに縛られた両手を肉おじに掴まれたまま、フェンリルが呟く。


可哀想ではあるけど・・・ドルコスに良いように使われただけなんじゃないの?


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