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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
ドラヴェリオン帝国編

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エピソード 89

「呪毒の黒種を発射した形跡は首都ガーデリオンより南部に位置する場所で確認出来ましたが、その周辺でドルコスらしき人物の目撃情報はありません。何かしらの魔道具を使っていたか、モルティヴァ信者の協力者がいたという見方が我らの中では強いかと」


フェンリルの肉おじ、人変わってない?一丁前に刑事みたいな事言ってるわ。


「ふむ・・・では国外に逃げた可能性も視野に入れておかねばな。機動力とその足の速さでフェンリル族に勝る者はいない。引き続き捜索を頼めるか?」


「ははっ!ありがたきお言葉・・・」


「念のため周辺のモルティヴァ信者に聞き取りを行うよう手配しておこう。ジイラン!モルティヴァ信者の集まる建物が南部にあったはずだ。資料を探しておいてくれ」


「かしこまりました」


ふわぁ~・・・エルガ君、子供なのに立派にお仕事してるのねぇ。


「お?エルガの事を見直したか?」


ガーデリオンがニヤニヤしながら聞いてきたから、


「どちらかというと親戚の子の成長を見守ってる気分ですね」


と返す。


こらこら、あからさまにガッカリしてみせるんじゃない。


すると、私とガーデリオンに気付いたのか、肉おじがパアア!と嬉しそうな顔をした。


「緑の使徒様!いらっしゃったのですねっ!」


使徒・・・様?ゾワァと鳥肌が・・・。


嫌そうな顔を隠さなかったら、肉おじが恥ずかしそうに頭をかいた。


「いやあ・・・以前は失礼しました。あの時エリクサーを浴びてから頭がスッキリしまして・・・キトル様の賢明で勇敢な行動のおかげで我らフェンリル族も命を落とさずに済みました!これまでの行動を猛省し、誠心誠意、竜王様とエルガ様にお仕えする所存です!」


・・・あの薬、ヤバいやつなんじゃないの?こっそり小声で聞いてみる。


「ナイト、あれ本当に悪影響なかったの?」


「の、ハズですけど・・・ちょっと自信なくなってきました」


「この国の恩人である緑の使徒様の旅路に危険があっては守護隊の名折れ。崇高なる道のりの安全を確保させていただきますので、しばしお待ちください!」


・・・つまり、大丈夫って確認が取れてから次の国には行ってね、って事か。まぁあんな凶悪な種飛ばしてくるくらいだしね。モル教の人が居なくなってから出発する方がいいか。


「あっ!ブラックフェンリル様っ!御身のご無事をこの目で確かめられた幸運に感謝しますっ!もしよろしければ我らフェンリル族の集落にも足をお運びくださいっ!」


「も、もし気が向く事がこの先あるとしたら行けたら行きますぅ・・・」


ミニヘブンがナイトの足に隠れながら答える。


人が変わったようになったとはいえ、ヘブンに対しての熱量はそのままなのね。


すると、その様子を見ていたガーデリオンが口を開いた。


「ふむ・・・お主はやはりブラックフェンリルか」


「・・・?ワタクシですか?この人達が言うにはそうらしいですね」


キョトンとした顔で上目遣いのヘブン君、とても愛らしくてよろしい。


「らしい、という事は親を知らぬのか」


「記憶にないですねぇ。前の使徒様にお野菜をいただいたのは覚えてるんですけど」


「そうか。ふぅむ・・・」


ガーデリオン、アゴに指を当てながらヘブンを見下ろすポーズがまるで雑誌の表紙みたい。何してても絵になるなぁ・・・今度変な形の野菜作って持たせてみようかな。二本に分かれた大根とか、二本に分かれた人参とか。


二本足の大根が頭の中を走り回り始めた時、


パンッ!


とガーデリオンが両手を叩いた。


なに?ビックリしたぁ~。


「よし、ブラックフェンリルよ、お主を鍛えてやろう!」


「「「えぇっ?!」」」


ヘブンと一緒に私とナイトの声も出た。


「き、鍛えるって?ヘブンを?ガーデリオンが直接鍛えるって事?!」


「うむ!キトル達はまた次の国に行くのであろう?ならばこの、ヘブンと言ったか?こやつが強くあった方が良いはずだ!」


腕を組んでがはは、と豪快に笑う。


「え、で、でも、ヘブンは乗せて走ってくれたりするからそれで充分助かってるし・・・」


「しかし、今回も我じゃなくヘブンが大きくなれていれば、あのような種など燃やして終わりだったのだぞ」


・・・んんん?大きく?どゆこと?


「元々のヘブンの大きさよりも大きく、という事ですか?」


ナイトが口を挟む。


「うむ!ブラックフェンリルであれば我と同じように大きくもなれるはずだ!こんな子犬のようになったのを見たのは初めてだが、小さくなれるのならば大きくもなれるだろう」


え、そうなの?!


「じゃ、じゃあさっ!ヘブンが人型にもなれるかもしれないって事?!」


ピタ、と動きが止まってゆっくり首をかしげるガーデリオン。


「ふうむ・・・それはわからぬな。大きさだけ変えるのと、姿かたちを変えるのとでは勝手が違うからな」


え~!ヘブンが人型になったら絶対可愛い少年になるのにぃ!!


「まぁそう気を落とすな。大きいブラックフェンリルも凛々しいであろう。それに我の相手になるような生き物など早なかなかおらぬからな。大きくなれば我の相手も出来るだろう!」


・・・ガーデリオンの相手?大きくなったヘブンが?あの巨大なドラゴンと?


頭の中にガォーと鳴くドラゴンと、ブォーと火を吹く黒い犬の絵面が浮かぶ。


「ダメじゃん!巨大怪獣決戦だよ!せっかく緑が戻ったのにまた破壊されちゃうよ!」


「む?ダメか?ならば広い場所で・・・」


「ダメっ!」


こら、口を尖らせるんじゃない。ギャップにやられるでしょうが。私が。


「はっ!え?!ワタクシが大きくっ?!」


ぽかんと口を開けたまま固まってたヘブンが意識を取り戻した。


「そうだ。良いだろう?我のこの比類なき巨躯には敵わぬだろうが、それなりに大きい身体にはなれると思うぞ」


あ、また固まった。でもこの感じは大きくなった自分の姿を想像してるな。


数秒間待つと、ヘブンの顔が輝きだした。


「やりますっ!ワタクシも、大きくなりたいですっ!」


「うむ、我の修業は厳しいぞ。心してついてくるのだ」


「はいっ!」


まさかドラゴンがフェンリルの師匠になるとは。


まぁヘブンがやりたいならこの国にいる間はガーデリオンに鍛えてもらうかぁ。


と、横に居たナイトがすうぅぅ・・・と片手を上げた。


「ガーデリオン様、ちなみに、その訓練に俺も参加する事は出来ますか?」


えっ?!ナイトも?!


ドラゴン師匠って流行ってんの?!


「む?お主もか?」


「・・・はい。キトル様はお強いのでお守りする必要はないのかもしれませんが、従者として足を引っ張るような真似だけは二度としたくないんです。あんな屈辱はもうまっぴらっす」


ナイトの手が自身の首に触れる。


脳裏に浮かんだのはあの忍者もどきに捕らえられ、首に怪我をした姿。


・・・そっかぁ、ナイトも悔しかったんだね。そりゃそうよね、腕に覚えのある傭兵だったんだもん。あんな影の薔薇騎士にやられたままじゃいられないよね。


「うむ、その心意気や良し。いいだろう、この竜王ガーデリオンが直々に稽古をつけてやろう。といっても人間の剣とやらは使えぬから、ただ戦いの相手をするだけになるとは思うが」


「それで充分っす!格上と戦うだけでも身に付くものは多いんで」


へぇ~ナイトも色々考えてるんだねぇ。というか・・・


「ねえ、ガーデリオンってどんな力が使えるの?剣も炎も使えないんでしょ?大きくて飛べるだけ?」


「んなっ!何を言うか!そんなわけがないだろう!」


「そうなの?だって知らないからさぁ」


「ふんっ!これだから使徒というやつは・・・我の偉大さは大きさだけではない!その真価は、雷鳴なる咆哮と大地との共鳴だ!」


「らいめ・・・なんて?」


「雷鳴だ、ら・い・め・い!その昔、どんな人々も我の咆哮を聞くと天の神がお怒りなった、と恐れおののいたものよ・・・」


なんか遠い目をしてる。


「へ~え?」


「あっ!なんだその目はっ!信じてないなっ?!」


「いや信じる信じる。とりあえず吼えるのね」


「吼えるだけではないっ!心身を清める効果や、相手の覇気を削いだり闘志を打ち砕けるのだ!」


「へ~便利だね」


「ふふん、そうだろうっ?!そして、大地との共鳴で天地を震わせ、地の焔が吹き上がるのだ!」


ん?


・・・つまり、地震を起こしてマグマを吹き出させることが出来るって事?


え〜!怖ぁ~!ドラゴンとんでもないな。


私の表情を見て考えてる事がわかったのか、満足げな顔をする。


「それほどの存在であるドラゴンに教えを乞うのだ。生半可な気持ちで挑むでないぞ」


「はい!いいですかっ?!」


今度はピーンと片手を挙げるナイト。


「うむ、なんだ?」


「頑張れば、俺も巨大化出来ますかっ?!」


不意を突かれたガーデリオン、ポカン顔。


「いや、人間はどうだろうか・・・や、やってみるが良いぞ・・・」


「はいっ!」


キラキラした目で超いいお返事。


ナイトさんよ、流石に人間は大きくならないんじゃないの?

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