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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
ドラヴェリオン帝国編

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エピソード 87

「が、頑張れぇ・・・!」


逃げる観客の中から小さな子供の声が上がった。


遠くから飛んで来た毒入りの種は、もうすぐ会場の真上に来てしまう。横長に広がった種のうち、左右の端を含む五分の三ほどは、無害な白い種に変わっている。


空に集中していた私の手元に、子供の声に反応した観客の視線が集まるのが分かった。


すると、再びオウム族の司会少年の声が、会場全体に響き渡った。


『あれは……緑の使徒、キトル様です! キトル様が、呪毒の黒種を浄化されています! 繰り返します、キトル様がこちらに向かっている毒を破壊しています!』


足元から、ワァーッと歓声が上がる。けど、それに応える余裕なんてない。


その辺に草生やすのとは比べ物にならないほどの集中力と、全身から力を奪われて行く感覚。それでもあの種が落ちてきたら大変なことになるんだ。


それに・・・。近づいてきて分かった。あれはダメなやつだ。


アルカニアで神官さんが持ってきた、催眠効果のある真っ青な菊と同じ。


本物の種を使い悪意の元に改良されてしまった哀れな植物。


頭じゃなく本能が拒否してる。絶対に許さないよ。


パパパパパパ!


中心の方に向かって種の色を黒から白へと変えていく。くっ・・・数が多い・・・!


『あっ!種の色が白に変化して・・・再び毒が消えましたっ!毒が浄化されていっております!なんと素晴らしいお力・・・キトル様、頑張れ~!!』


オウム族の子の実況で、下から聞こえる抑えきれないどよめきと驚嘆の声。


「が、頑張れ!!」


違う場所からも声が上がった。それを皮切りに、会場の色んな場所から声が飛んでくる。


「頑張れ~っ!」「頑張ってくれ~っ!」


他に言う事ないのかよ~!それしかないだろうけどさっ!


ってか頑張ってるよ!!ほら、あとちょっとだもん!


黒い種は残り五分の一と少し、真ん中ら辺に固まってる。でも、もう会場のすぐ上まで来ている。


このままじゃ落ちてきてしまう。


急がなきゃ・・・!というところで、グラリ、と視界が歪んだ。


ダメだ、眠気が・・・。あとちょっとなのに!!


気合で瞼を上げるが、視界がグラグラしてる。


「キトル様!」


後ろからナイトが肩を支えたのが分かって、立ってるのがやっとだと気が付く。


でも立ってるだけじゃダメなんだよ、あの毒の種をどうにかしないと・・・。


『キ、キトル様がっ・・・今にも倒れてしまいそうですっ!あと少し、呪毒の黒種はあと少しなのに・・・っ!』


「うむ、あの程度の数ならば我にもどうにか出来そうだ」


唐突に横から声が聞こえ、視界の端で影が動いた。


視線を動かすと、手すりを乗り越えて飛び降りる姿。ガーデリオンだ。


えっ?!飛び降りたっ?!と一瞬驚いて目が少し覚めたけど、そうだ、ドラゴンだし平気か。


足元に並ぶ観客席を悠々と飛び越えて、花びらが舞うようにひらりと闘技場の中心に降り立つ。


どうやってあんなトコまで飛んだんだろ・・・と眠気に抗い続ける頭で考えてると、ガーデリオンのサイズがおかしなことに気が付く。というか、光ってる・・・?


『アレは・・・?て、帝王ガーデリオン様ですっ!ガーデリオン様が闘技場に・・・あっ!そのお姿が変化されて・・・本来の姿に戻ろうとされています!り、竜王の降臨ですっ!!』


見る見るうちに輝きは増し、その輪郭は膨らみ続け、数秒も待たずに森の中で見たドラゴンの姿に戻った。


その巨大な姿は会場の一番上に作った私たちがいる高台よりもさらに高い。


近くでその顔を見ると本来のドラゴンの姿の迫力、佇まいだけで威圧されているようだ。


元の姿に戻ったガーデリオンはブルル・・・と顔を左右に振ると咆哮するように上を向き、鋭い牙を見せつけるように口を開くと、落ちて来ていた黒い種をパクッと・・・食べちゃった。


え?食べた?


「えぇぇぇぇぇ?!たっ、食べちゃった!!」


ビックリし過ぎて目を見開く。


「り、り、竜王様っ?!それは毒ですよっ?!」


エルガ君が手すりを掴んで叫ぶ。


ジイランさんやナイトに至っては口を開けたまま固まってる。ヘブンは見えないのか「何ですかっ?!どうなったんですかっ?!」って足元でピョンピョン。


『り、竜王様が、い、今、残っていた呪毒の黒種を・・・の、飲み込まれましたっ!僕も目の前の光景が信じられませんが・・・ま、間違いなく飲み込まれましたっ!!』


観客も、固唾をのんで見守っている。


毒をまき散らす恐ろしい種を飲み込んだドラゴンは、そのまま空へ向かって一つ小さなゲップをし、口を開いた。


「うむ、あのままだと民に害が及ぶであろう。ならば助けるのは王たる我の務め。毒も、我ならば、もしかすれば、効かぬか、もしれ・・・ぬ、と、思ったんだが・・・」


最後まで言い切る事なく、口から黒い泡が溢れ出てくる。


「ガーデリオン!!」


「竜王様っ!!」


会場のあちこちから悲鳴が上がる。泣き叫ぶ人々の声。


『ああっ・・・!りゅ、竜王様が黒い泡を吐かれて・・・い、一体どうすれば・・・?!』


ダメダメダメダメッ!!絶対にダメだよ!!


私の目の前で、死なせたりなんてしないんだから!!


何のためにガーデリオンなんて名前つけたと思ってんの?!『これからも』この国を守るんだよっ!


グッと足に力を込めて、膝に力を入れ、背筋を伸ばす。重たくなった両腕を持ち上げ、手を開く。相変わらず瞼は閉じようとしてくるけど、負けるもんか!


カッと目を見開く。眠気なんてなんぼのもんよ!こちとら仕事で三徹した事もあんのよ!


子供の身体だろうか知った事か!中身は私のままなんだ!


このくらいの眠さなんて、どうって事ないんじゃい!


「ふんぬぅ~っ!!」


おへそに力を入れ、ガーデリオンの頭の上に向かって手を伸ばす。


もう限界超えてるかもしんないけど!限界は越えるためにって言うしね!


すると・・・お腹の底から振り絞った力が大きく膨らむ感覚。グググッと上がってくる、初めての力。なんだコレ・・・


そう思った瞬間、上がってきた力が手の平から飛び出した。


ブオォォォォ・・・。強風が手から飛び出し続けているような感覚。その勢いが凄まじく、後ろに押される。あ、危ない!


足の踏ん張りがきかなくて身体が傾いたが、倒れない。背中に温かなものが当たっている。


「キトル殿っ!頼むっ!」「キトル様っ!寝てもちゃんと食べさせとくんで、後は任せてくださいっ!」


背中からエルガ君とナイトの声が聞こえる。


二人が支えてくれてるなら、倒れても大丈夫だね!


もっと、もっと、もっと!大きな、大きな力を!!


手から溢れ出す力が、温かなものに変わった気がする。あの石の中を流れる水のような・・・。


ガーデリオンの頭上では、何もなかった空間に小さな薄緑のつぼみが生まれ、瞬く間に膨らむと会場を覆うような巨大な木の実が出来あがる。


『あっ!あれはっ?!キトル様ですっ!キトル様が立ち上がっている!両手を上げ・・・空に、実のような物が出現しました!半透明の巨大な果実、中には液体が見えます!あれは・・・?』


オウム族の少年の声は聞こえてくるけど、まだ観客は残ってるんだろうか。


「空を隠すほどの・・・なんと壮大な」


後ろからエルガ君の声が耳に入ったけど、これ維持するだけで結構しんどいっ!


「ガーデリオンッ!口開けてっ!」


半目で泡を吹いていたガーデリオンが、ゆっくりと力なく上を向いた。自然と口は開いている。


よし、今だ!


開いた両手をグッと握り締める。


まるで水風船のような実が弾け、薄い緑の皮に包まれていた液体がガーデリオンに降り注いだ。





・・・私が覚えてるのはそこまで。


その光景はまるで洪水か滝のようでした、というのは後日のナイト談。


言われてみればその通り、あんなに大きくする必要はなかったんだよね。でも元の姿に戻ったガーデリオンは大きいからどの程度の量がいるのか、わからなかったんだもん。


会場をスッポリ覆い隠すように作った巨大な木の実の形は、しずく型。


つまり、何度もお世話になったおなじみの毒消し薬。


ただね。


ガーデリオンを助けなきゃって無我夢中で作ったから、もしかしたら毒消しの他に効能があったりしても・・・いいんじゃないの?

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