エピソード 86
『つまり、先代の緑の使徒がこの地を訪れなかったのは、決して悪意あってのことではない。今ここにいる神の使い、キトルは・・・前帝王エルガを救い、我を目覚めさせ、我が時を止めたこの国に、ふたたび時を巡らせたのだ。まさしく、この者こそが、新たなる時代の導き手である!!』
ワァ~ッ!と大きな拍手と歓声。
『ドラヴェリオン杯☆目指せ、未来の守護隊!』が終わった会場。あれ?『ドラヴェリオン杯☆目指せ、未来の守護ファイター!』だったっけ?
どっちでもいいや。それが終わった後の会場で、高台の観覧席からそのまま新しい帝王として挨拶を始めたガーデリオン。
ちなみに手にしているのは司会を務めていたオウム族の少年が持ってたのと同じ型の魔道具で、透明の石が先端に付いた杖。
そのスピーカーの核になる小石を沢山会場の壁に取り付けてるから、会場全体にガーデリオンの声が響き渡っている。
自分が千年も不在にした事やそれに伴う内戦などの混乱への謝罪、先代の緑の使徒セレナさんが来れなかった理由の説明などをしていて、ただいま私のイメージがアップ中。
しかし、ドワーフの前々使徒様に一目惚れしたせいで~とは言わないのね。可愛かったから律義に千年もそこに居たくせにぃ。
さっきからかわれたし、後でからかい返してやろ。むふふ。
ガーデリオンが片手を上げると拍手と歓声が収まり、また口を開く。
『そして、我はこの国を救ったこのキトルを、この国の宰相たるエルガのはんr』
ベシッ!!
「こらぁ~っ!!!」
また余計な事を言おうとして!!
ツッコむと同時に手がでて、ガーデリオンの顔に巨大なお花をぶつける。
その名もラフレシア。テレビで見た事あるだけだけど、正解一臭い花って言われてるんだよね。
「ぐわぁ!!く、臭い!臭いぞ!キトル、なんだこれは!」
お、ちゃんと前世で見た通り臭いのが出来たのか。
「言わなくていい事まで言おうとするからでしょ~だっ!また余計な事言ったら、その絞り汁頭からかけるからね」
グッ・・・と文句言おうとした口をつぐむガーデリオン。
まったく、内輪ではしゃぐだけならまだしも、こんな大勢の前で言ったら取り返しがつかないでしょうが。
はっ。
一歩前に出てスキルツッコミしたせいで、観客席から良く見える場所に移動してしまってる。っていうか私の声もマイクに入ってた?
しかもガーデリオンがお口チャックしたせいで、これはもしや私が何か発言する流れに・・・?!
そぉっと後ろに下がろうとすると、すぐ後ろにジイランさんが居て「キトル様、ぜひ何か一言」と小声で告げられる。
えええ・・・。もうさ、こういうのホント止めようよぉ。しかも突然とかさぁ・・・。
ガーデリオンが手にしてるマイクに向かって「ど、どうも・・・」と言うと、わぁ〜!っと歓声が上がる。
えぇ〜・・・とりあえずまたお花の飴でも降らせとけばいい?
チラリとナイトの方を見るけど、ミニヘブンを抱っこしたまま肩をすくめてみせる。
も〜!エセ欧米人め!もぉいいや、とりあえず何か適当に作って・・・
手を上げたその時。会場に初めて聞く声が大きく響き渡った。
『わが祖国、ドラヴェリオンの同志たちよ!悪しき者の甘言に騙されるな!邪なる神の力を借り、王たる竜をもてあそばんとする使徒の言葉に従えば、我らに訪れるのは真の再生ではなく、偽りの安寧、腐敗の未来である!そのため我らは・・・』
うるせっ。何言ってんのさ。んで誰よこれ。なんかずっと喋ってるけど。
会場でもザワザワと観客たちが顔を見合わせ始める。
「この声は・・・」
エルガ君が怯えた顔をしている。知ってる人?
「ドルコスの声ですな・・・。この会場に来ているのか?」
ジイランさんが辺りを見渡し観客席の方にも目を向けるが、もちろん見つけられるわけもなく。
「え、じゃあエルガ君また狙われるんじゃないの?」
「キトル」
「いえ、あやつがエルガ様を狙っていたのは、竜王様がお戻りになる前の話。竜王様がいらっしゃる今となっては、エルガ様を狙ったところで玉座に就けぬことなど承知しているはずです。つまりこれは、神の使いであるキトル様を狙ったと考えるべきでしょうな」
ジイランさんが推理する。この人もナイトと同じ探偵属性か?
「キトルよ」
「えぇっ?!私を狙ってんのっ?!」
「・・・おい!キトル!」
もう何よっ!忙しいのに!・・・あ。
ガーデリオンが鼻を摘まんだままラフレシアを指差してる。
ごめんごめん、忘れてたわ。手を振ってお花を消してあげると、大きく息を吐いた。
「は~っ・・・とんでもない悪臭だったぞ・・・。で?さっきの声は前にエルガを狙ったやつで、今はキトルを狙っているのだな?」
「おそらくそうでしょう。あやつは、破壊と再生の神モルティヴァを信奉する者。枯れゆく世界を救おうとするキトル様を狙うのも、道理と言えましょう」
え~・・・良かれと思って草生やしてるのにぃ。
会場ではまだドンタコ・・・ドルタコ・・・え~っと、悪いおじさんの自己陶酔演説が続いている。
「・・・この声、ちょっと遠いっすね。あと、雑音みたいなのも入ってます」
大人しく演説を聞いてたナイトが口を開く。遠い?
「・・・つまり、どういう事だってばよ」
「だってばよ?何言ってんすかきとr」
「いいからいいから。どういう意味?」
怪訝な顔してるけど、ちょっと小ネタを挟んだだけよ。
「さっきあの司会の男の子が喋ってた時と、声の聞こえ方が違います。あと、ちょっと変な音が入ってるの、わかります?」
ナイトに言われて耳を澄ませてみると、確かに言葉と言葉の間にノイズっぽい音が聞こえる気がする。
「と、いう事はドルコスはここには居ないという事になりますな」
そうだそうだ、ドルコスだ。悪いおじさんのドルコスね。悪コス。
「あの魔道具ってどのくらい離れてても届くの?」
「国一つほど離れても届きます。この大会も、ドラヴェリオン帝国全土に声を届ける手はずになっておりますので・・・」
え、じゃあどこにいるのかなんてわからなくない?
ん?でも逆に考えたら・・・
「ってことは、ただブーブー文句言うだけの為にマイクジャックしたの?」
ぶはっとエルガ君が吹き出す。
「くくくっ・・・。キトル殿は動じぬなぁ。余があれほど怖がっていたのが馬鹿馬鹿しくなるぞ」
「え~?だってねぇ。何かしてきたら反撃するけど何も出来ないんでしょ?」
といったのが聞こえたのか、悪コスがひときわ大きな声で叫んだ。
『ゆえに!!我々は苦渋の決断を下す!!我が祖国を本当の意味で救うために!!』
ドォォォォォン・・・
と言葉が途切れると同時に、遠くで大きな爆発音。
と同時に、音がした方の空に、黒い雲のようなものが現れ、段々と膨らみながら上へ飛んでいく。
『ぐふふふふ・・・これは呪毒の黒種。祖国の同胞よ、悪しき使徒により朽ち、苦しみ、死に至るその理不尽を、神に届くほどに恨むがよい!』
う~わぁ。笑い方キモッ。ベロベロに自分に酔ってるなぁ。
と、会場の所々から悲鳴が上がり、一部の逃げようとする人々が出口へと走り始める。
クロタネって何よ・・・と思ってナイトを見ると、初めて見るほど顔色が真っ白。いや、真っ青っていうのか?
「どうしたのナイト」
「・・・あれは一発で魔獣の巣を殲滅できるよう、聖神国で開発された魔道具っす。片手くらいの大きさの黒い種を発射して相手がそれを攻撃すると、毒の霧をまき散らして数時間は毒が消えません。それが、あんな数・・・」
うげっ。何その物騒なの。
「え、ど、どうしよう、爺!!」
エルガ君がやっぱりパニックになってジイランさんの腕を掴む。が、ジイランさんも言葉が出ないようで揺らされるがまま。
「ワタクシが燃やしましょうか?」
とヘブンが言うけど「数発ならイケたかもだけど、あの数は無理だろ」とナイトに諭される。
「ふふん、ならばここは我の出番だな。我にかかればあんな種、全て叩き落してみせ」
「だから衝撃を与えると毒をまき散らすようになってるんですって」とこんな時でもツッコミを忘れないナイト。
う~ん、黒種ねぇ・・・黒い種・・・ん?種?
空をもう一度見ると、さっきよりも空の高い位置に黒い雲が大きくなってきている。高く飛ばして、上空から落とす感じなのか。
おもむろにその端っこに向けて手を上げ、よ~く見つめて・・・
パパパパパパパッ
黒い雲の一部分が白っぽく変わる。
「キトル様っ?!」
唯一私の行動を見ていたナイトが声を上げ、皆の目が私の手と、それから空へと移動する。
やっぱり!種って言ってたからまさかと思ったけど、あれ本物の種使ってやがる。中身は毒爆弾のくせに。
しかしこれ結構疲れるな・・・
集中、集中・・・
パパパパパパッ!
反対側の種が白く変わる。これで残りは五分の三くらい?
オセロみたいに挟まれて真ん中も白に!とかならない?ならないよね〜。
くそぅ、近付いてきてるな。
これ、結構ピンチなんじゃないのぉっ?!




