エピソード 85
『優勝は~~~!フェンリル族、ラグノス・フェンリル~~ッ!!』
「あらら・・・ゴツおじ負けちゃった・・・」
決勝戦は手に汗握る攻防戦・・・って言うのかよくわからないけど、完全なトカゲ人間になった元守護隊隊長のゴツおじと、狼男に変身した肉おじが、何というか・・・こう、ガウガウ吠えてドカドカ殴り合って、結局フェンリル族の肉おじが勝った。
え?よくわからないって?私だってよくわかんないよ、おじさん達の殴り合いなんて興味ないし。
「ゴツお、え?キトル様何て言いました?」
「気にしないで。それよりエルガ君大丈夫かなぁ?」
闘技場の上ではオウム族の少年が会場をさらに盛り上げにかかる。
『そしてそして!このあと急きょ決定いたしました、特別試合のお知らせです!竜王様の御側にお仕えする宰相の座をかけた挑戦試合が行われま~す!!』
そう、ガーデリオンが一言「そんなもの認めぬ!」って言えば済む事なのに、面白がっちゃって結局エルガ君があんな筋肉モリモリのおじさんと戦う事に・・・。
「なんで止めなかったの?エルガ君が怪我しちゃったりしたらどうするのよ」
ジロッと横に座るガーデリオンを睨みながら聞く。
「む?何を言うか!この国の掟はただ一つ、強い者に従う、だ。我の近くで使えるのならば強き者でないと困るからな。弱き者が我の傍にいる事など叶わぬ」
それはそうかもしれないけどさぁ・・・。
「最近はエルガ様の方がガーデリオン様より強そうっすけどね」
と反対側に座るナイトが呟く。
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も~。でもキトル様、多分キトル様が考えてる感じにはならないと思いますよ。なぁヘブン」
ナイトの膝に座るヘブンもコクコク頷く。
「そうですねぇ、キトル様はお優しいですから~」
「どういう意味・・・?」
「あ、ほら、始まりますよ」
ナイトが前のめりになると、会場にエルガ君が姿を現した。
『皆さまお待たせしましたぁ~!!この闘技場に今、降臨されたのは・・・リザルド族にして稀代の“先祖返り”!血に眠る竜の力をその身に宿し、今まさに目覚めるその力!前帝王!最強の遺伝子!エルガ・リザルド様~~ッ!!』
オウム族の少年は前世で格闘技の司会でもしてたのか?煽りがプロなんだが。
肉おじのご指名の後さっさと連れて行かれたから服もそのままだし、エルガ君パニックになってないかな~?大丈夫かな~。
中心にある闘技場に上がってきたけど棒立ちのままだし、怖くて動けないんじゃ・・・。
「ねぇ、今からでも中止してあげた方が・・・」
「大丈夫ですって、ほら」
う~怖くて見れないよ~。といいつつ薄目を開けて見てると、肉おじがまた狼人間みたいに変身し始める。
顔が前に伸びて耳は後頭部に移動し、身体はムキムキと膨らんで毛むくじゃらになる。
「ほらぁ!肉おじあんな大きいのに!筋肉モリモリじゃん!危ないって!」
「も~キトル様うるさい」
「うるさいだとぉう?!こっちは心配してるんだ!ほら、エルガ君だってあんなに怯え、て・・・え??」
んんん?エルガ君、うっすら・・・光ってる?
「来た来た来た来たぁ!先祖返りの力見せったって下さいよ~エルガ様ぁ~!」
ひゅ~う!と指笛を鳴らすナイト。観客席のあちこちから歓声が上がる。
「ねぇナイト、あれ何で光ってるの?!」
「え、あ~えっと、後から説明しますっ!」
もうこっちに目もくれずエルガ君を凝視してる。え?そ、そんなに?
闘技場の上ではエルガ君の肌に青緑色の光がうっすらと浮かび、細かなウロコのように輝いている。
怖くて閉じているように見えた瞼がゆっくりと上がると、そこには竜を思わせる鋭い光が宿っていた。
「ウオォ~~~~ン!!」
狼人間の肉おじが遠吠えのような声を出すと、猛スピードでエルガ君に飛び掛かる。
危ないっ!!
と思った瞬間、エルガ君がまるで何でもない事のようにゆっくりと動き肉おじの攻撃をゆるりと躱す。そのまま右腕が軽く動いたと思うと、一撃。
ドンッ!!と会場が揺れるような音と共に、肉おじが闘技場の床に倒れこんだ。
「うおおおおお!」
会場が割れんばかりの歓声に包まれる。
ナイトも両手を上げてガッツポーズ、ヘブンもピョンピョン飛び跳ねながらナイトの足の周りを走り回ってる。
う、噓でしょ・・・?一発じゃん!
エルガ君、あんなに強いのぉ?!
「な、なんで・・・?いつもあんなに怖がってたし、隠れたりヘブンにしがみついてたのに・・・?」
「おや、キトル様はご存じありませんでしたか?」
これ異常ないほど鼻の下を伸ばしたドヤ顔のジイランさんがいつの間にかすぐ後ろにいる。
「エルガ様は正面から闘えば、ドラヴェリオンで並ぶものの居ない最強の戦士なのですよ。先祖返りの力とは、あのように圧倒的で他を寄せ付けぬものなのです。もちろん、それでも竜王様にはとても敵いませんが・・・」
えぇ・・・先祖返りヤバァ・・・。んでドラゴンもっとヤバァ。
「しかしながらエルガ様は突然の事態に大変弱く・・・背後から襲えば、わたくしでも倒せてしまうのです。その弱点を補うべく獣化を防ぐ首輪をつけて鍛錬を重ねていたのですが、そのご様子ではまだまだ鍛錬の継続が必要そうですな」
あ~・・・確かに、ビビってたのって突然音や声がした時だったね。
そうか、エルガ君ちゃんと強かったのか~。
は~しかし、怪我とかしなくてホントに良かったぁ。肉おじは怪我したっぽいけど、まぁあれは自業自得という事で。
「なんだ、キトルはエルガをそんなに心配しておったのか?我が眷属の先祖返りなのだ、弱いはずが無かろう!」
ガーデリオンがドヤ顔と呆れた顔の絶妙に混じった顔で言い放つ。
「だってそんなの知らなかったしさぁ。ガーデリオンもエルガ君の事ちゃんと信頼してたんじゃん~。先に教えといてよぉ」
「がっはっは!まぁエルガはもう我の弟のようなものだからな!弱い訳がなかろう!どうだ?キトルが望むならば、エルガの嫁に来ても良いのだぞ?」
「え?」
「「「ダメですっ!!」」」
後ろと、下と、横から一斉に声が上がる。
「よ、よ、よ、よ、嫁などっ!!とんっでもないですっ!!エルガ様にはまだまだまだまだ十年、いや、二・・・三十年は早うございますっ!」
と後ろから全身全霊で断ってるのはジイランさん。
「そうですよっ!キトル様はまだまだワタクシと旅を続けるんですからっ!」
と下から拒否するのはヘブン。
「ダメっすよ!キトル様には神の使徒としての役割があって、これからまだ世界を巡る旅をしなくちゃいけなくて、沢山の人を救うし、キトル様が戻って来るのを待ってるお兄さんもいるし、あと、あと・・・俺が認める相手じゃないとダメっす!!」
と横から謎の親父感を出すのはナイト。
「がはは!何も今すぐというわけではない、旅を終えて年頃になった時に考えればよいだろう!のう、キトルよ」
「う~ん、どうでしょうねぇ。エルガ君はちょっと綺麗すぎるから、横に並ぶと私の存在感が無くなるしな~」
あまりに美形すぎると引き立て役にもなれないしねぇ。
「そうっすよ!キトル様がエルガ様の横に立ったら、ペガサスとロバっすよ!・・・あ、すんません、嘘っす、嘘!言葉のあやです!ごめんなさいっ!」
おい、誰がロバだ。
ナイトをトゲトゲのバラのツルでグルグル巻きにする。
と、そこに戦いを終えたエルガ君が戻ってきた。
「戻りました〜・・・これは、一体何が?」
皆を見渡して不思議そうな顔をする。
「ん~?このバラの花綺麗だよねって話!」と適当に誤魔化してみる。
「はぁ・・・まぁ確かにキトル殿にはとても似合うとは思うが」
と、サラリとキザなセリフを言ってのける美少年。
お、おう、多分私よりよっぽど君の方がお似合いだけどね。
ガーデリオンが顔を近付けて耳打ちする。
「ほれ、エルガはお主を好ましく思っていそうだぞ」
・・・なんだそのニヤニヤ顔。異常にカッコいいからそんな顔もイケてるのかよ。くそぅ、なんて整った顔してるんだ。んで近いな。
「あっ?!キトル様何顔赤くしてんすか!お父さんは許しませんよ!」
とナイトが言えば、
「エルガ様は差し上げませんからねっ!」
とジイランさんが言い、
「ワタクシもっ!ワタクシもっ!」
とよくわかってないままヘブンが飛び跳ねる。
んも〜っ!
皆、悪ノリし過ぎなんじゃないのっ?!




