エピソード 82
前の二ヶ国と同じく、小さくなった石の周りにトゲトゲのツタを絡めて周囲を草木で覆う。
しっかり隠しておかなきゃね。
でもこの場所だけ緑モリモリじゃ逆に目立つから、目に見える範囲に竹をまばらに生やしてみる。竹って
あんまり力を使わないで済むというか、作りやすいんだよね。中が空洞だから?
その作業中も並んだ美青年と美少年をずっと褒め続け・・・いや、褒め讃え崇め奉り続けるジイランさんを横目で眺めてるとナイトが心配そうに顔を覗き込んだ。
「キトル様、大丈夫ですか?」
「え?鼻血は出してないと思うけど・・・」
「なんで鼻血出すんすか。違いますよ。眠いとか気を失うとか、そっちの心配です」
あ~そっちね。今世紀最高のイケメン二人を眺めながら言うからさぁ。
「ん~まだ大丈夫だよ。でもこの前もしばらく起きてていられたし、そんなに心配しなくても大丈夫じゃない?」
「でも今回は時間の止まってる森を元に戻した訳じゃないっすか。なんか違うんじゃないのかなと思って・・・。もし体調に変化があればすぐ言ってくださいね?」
ナイトは過保護だねぇ。んふふ。心配されるのは嫌じゃないぞ。
「なぁに、我がおるのだ!もし倒れても使徒殿は心配いらぬぞ!」
いつの間にか近くに来ていたドラゴンさんが大きな口を開けて、堂々と笑う。
完成された彫刻のような端麗な造形美の顔から豪快な笑い方・・・前世ならそのギャップだけで全ての雑誌の表紙を飾れそう。意識をしっかり保たねば・・・あ、そういえば。
「使徒じゃなくてキトルでいいですよ、呼び方。ドラゴンさんは名前なんて言うんですか?」
「名前・・・?おお、あるぞ!可憐なドワーフの使徒が、名前が無いと言ったら付けてくれたのだ!千年余り、ついぞ呼ばれる事はなかったが何と言ったか・・・」
へぇ、吉野さくらさんが名付け親なのか。
「確か神の国では誰もが知る、万能で青く丸い精霊獣の名前だと言っておったな。ドラゴンと馴染みの良い響きで・・・ドラ、ドラ・・・ええと・・・」
ん・・・?なんだか嫌な予感が。
「ドラ・・・ん~・・・ドラいもん?違うな、ドラ・・・ドラえ」
「わ~っ!わ~っ!」
両手をバタバタと動かして空中に浮かんだ声をかき消す。
やっぱり!!さくらさんっ!何て名前をっ!
「なんだ?ダメなのか?」
「そ、その名前は、多分大きい時のドラゴンさんを見て付けたんじゃないかなぁっ?!」
「む?そういえばあの者に人型の姿を見せた事はなかったな」
「でしょうね!!」
こんなイケメンにニャンコ型ロボットの名前は付けないと思うしね!
いや、ドラゴンに付けるのもどうかと思うけど!
「・・・人型の時は、違う名前の方がいいと思いますよ?多分・・・」
「そういうものか。うむ・・・では、お主が付けてくれぬか?」
「え、私?」
「うむ。我が認めた神の使いであれば名付け親として不足はない。ぜひとも響き高く、威光ある、かつ格好の良い名を頼むぞ?我が気に入るようなやつをな!」
む~?なんかハードル上がったな・・・。まぁでも未来の世界のネコ型精霊獣より似合いそうな名前なら考えられそうな気はするぞ。
は~気が抜けたら身体が重くなってきた・・・。
あ、あの忍者達だけは運べるようにしとかなきゃ。ふわぁ・・・。
欠伸しながらいつもの倍くらい重たく感じる腕を上げ、スヤスヤと寝入っている忍者さん達をツタごと地面の上に放り出す。
「ふわ~あ、ナイト、ヘブン、あとはよろしく・・・」
後ろに倒れこもうとした背中にナイトの手が当たった所で、意識が途切れた。
小鳥の鳴き声が耳をくすぐる。
ん~・・・もうちょっと・・・ゴロンと寝返りを打つ。
閉じようとする瞼を気合で開くと、目に映るのは鮮やかな黄色とオレンジの間の色をした・・・何これ。
起き上がって目を擦りながらよくよく見てみると、お皿に乗ったフルーツみたい。ブロックのように四角くカットされてる。
何の躊躇もなく口に一つ放り込む。あ、これマンゴーだ!!
「あま~い!!美味し~っ!え、すっごいジューシーでフルーティ~!ちょっとこちらお高いんじゃないのぉ?」
「・・・なんで寝起きでそんなテンション高いんすか・・・。ってか、何かわかんないのにすぐ口に入れちゃダメっすよ」
あ、ナイト。おはよ。
部屋の端っこに置いてあるラタンのソファから立ち上がると、部屋のドア付近に立ってるメイドさんっぽい人に「起きたと知らせてください」と伝えて近くに来る。
「だってお腹空いてるんだもん。ちゃんと寝てる時に食べさせてくれてた?」
「食べさせましたよ、その果物も三つは食ってましたし。ヘブンは縮んでるのに五個は食ってましたけど」
布団の上を見ると小さくなったヘブンがお腹丸出しでピスピスと寝息を立ててる。
周りを見渡してみると、寝てるベッドの骨組みもラタンで編まれてて、部屋の内装や家具の感じも全体的に南国リゾートっぽい。
「ここはお城?今は何時?」
「お城でまだ昼前っす。キトル様が寝た後、ドラゴン様が言いだして、皆運んでもらったんすよ」
ナイトが珍しくうんざりした表情。
「・・・運んで?皆?」
どうやって??
「いや、また大きくなるのかと思ったらそのままの意味で・・・。背中に元のサイズのデカい羽生やして、全員乗せて飛んだんすよ。マジで怖かったっす・・・」
え、ちょっと想像つかないんだけど。
私の顔で察したのか、ナイトがまた説明を始める。
「いやだから、人型に巨大な羽が生えて、背中に全員乗せて飛んだんすよ!あ、あの縛った四人組は吊るして飛びましたけど。ヘブンは小さくなってたし、キトル様は寝てるしで落とさないように俺必死で二人を抱えてしがみついてて・・・」
身振り手振りで手を振り回しながら教えてくれるけど・・・。
「ちょっとわかんないから今度もっかいやってみてくれる?」
「絶対イヤっす!!」
首と手をブンブン横に振る。
え~頑張って起きとけばよかったな~。
「そういえば今回はどのくらい寝てた?半日くらい?」
「三日っす」
目の前に指三本。
「え?!三日?!バラグルンでは一日だったのに!」
「だから言ったじゃないっすか。いつもと違う事したんだから身体が休息を求めてたんすよ」
えぇ~・・・すぐ起きたと思ったのにぃ。
「そういえば大丈夫だったの?あの何だっけ・・・ヨーグルトみたいな名前の教育係の人」
「ヨーグルト・・・?ドルコスってやつの事っすか?そいつは城に着いた時にはもう居なくなってました。国で保管してた希少な魔道具や書類なんかも無くなってるらしく、足取りを追ってるみたいっすけどもう国外に出た可能性もあるとかで・・・。戻ってきてすぐは父親の宰相が責任を取って自殺しようとしたり辞めると騒いだり、ドラゴン様が戻ってきたんで帝王をどうするかとか、色々揉めてたんすけd」
バァ~ン!!!
分厚い木の扉が勢いよく開き、扉に付いてた樹皮とツタの飾りがバサバサと床に落ちる。
「起きたかっ!我の名前は考えたかっ?!」
人型ドラゴンさん、アロハな雰囲気のあるシャツを着てるけど胸元が大きく開いてて、起きてすぐ見るにはちょっと美の濃度が濃すぎるなぁ・・・。
寝起きに見るならナイトくらいの目に優しいイケメンがいいね。
ナイトがじろりとこちらを見る。
「・・・何か失礼な事思ってますね?」
むっ。鋭いけど、褒めてるんだぞ?
「まだ考えてませんよ、今起きたとこなのに」
「そうなのか・・・それならば、お主が起きるまで待っていた大会を先に開催するぞ!」
「たいかい・・・?」
助けを求めるようにネイトを見る。が、ナイトも困ったような顔をしてる。
「えっとですね、最初から説明しますと・・・」
「そんなもの移動しながらで良いだろう!さぁ行くぞ!!」
ドカドカと早足でベッドに近付いたかと思うと、私の身体をガバッと抱き上げ、そのまま大股で部屋を出て行く。
ちょ、ちょ、ちょっと!!こ、これお姫様抱っこ?!
ぎゃあ!顔面国宝が目の前に!!うわっ!!シャ、シャツ!前閉じて!!
声にならない悲鳴を上げてると、後ろから慌ててナイトと寝起きのヘブンが追いかけてくる。
せ、せめて、身支度くらいさせてくれてもいいんじゃないの~っ?!




