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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
ドラヴェリオン帝国編

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エピソード 81

石の気配がする盛り上がった土に近付くと、ドラゴンさんが聞いてきた。


「目隠しは作らなくて良いのか?」


「あ〜・・・う〜ん・・・」


さっきは目隠ししようと思ったけど・・・


既にフェンリル族の肉おじ達から見えないように高い竹の囲いを作ってるから、今近くにいるのは信用出来る人達だけ。


この状態で更に目隠しを作ると、なんだか皆を信用してないみたいなんだよね。


あ、ちなみに肉おじ達の声は竹の向こうからずっと「フェンリル様ぁ〜」「ここにいらっしゃるのですよねぇ〜」「入れて下さい〜」って聞こえてるけど、相手すると大変だから無視継続中。


「あ」


忘れてた。忍者四人組は信用出来ないからダメだ。


手を忍者達の方へ向けると、四人の周りにポンッポンッと黒い花が咲いていく。


その花はチューリップハットのような丸い形で、すぼまった蕾がふわりと開いた瞬間、ほんのり甘い香りがあたりに広がった。


「・・・あれ? なんか、いい匂・・・」


忍者達の瞼が重たく落ちていく。


「ここにいる皆は内緒にしてくれるでしょ?」


クルリと皆の方を向くと、従者の二人は言わずもがな、エルガ君は取れそうなほどブンブンと頭を上下に振り、ジイランさんは「わたくしはエルガ様に従います」と目を閉じる。


「ふむ。良い出会いに恵まれたようだな」


ドラゴンが短い手を伸ばしてアゴを触ってる。それ以上は届かなさそうだけど、顔が痒い時はどうするんだろう?


さて・・・。


まずは手を前に出してみる。と、盛り上がった土に生えている透明な草が緑色に染まり、ワサワサと前後左右に揺れ始める。


だんだんその揺れが大きくなり、左右にパタッと根っこごと倒れると、その下に石肌が覗いている。


引き寄せられるように自然と手が近付き、石に触れ、目を閉じた。


・・・あれ?これまでの石と違い、温かな水が流れるような感覚がない。


もっと深く、奥底を探るように感覚を研ぎ澄ませる。


違う、ある。温かな命の水は確かにそこにある。あるんだけど・・・


止まってる・・・?あ、そうか、時を止めたって言ってたし、石の中を流れる水も止まってるって事?


じゃあこの水を動かせば元通りになるのかな。


水が、流れるイメージ・・・。


石の中を温かな水が流れ、その水が国中にいきわたる。大地が潤いを取り戻していく。


その水を吸い上げた木々は色付いていき、鮮やかな緑の葉は光を浴びて輝き始める。


草花はゆっくりと水をくみ上げながら色を取り戻す。薄く透けていた葉が、少しずつ緑を帯びていく。


茎が震え、枝が伸びる。止まっていた時間が、確かに動き出した。


花が咲く。赤、黄、白・・・。色が一つ、また一つ、森に灯る。


足元の地面が、かすかに脈打った気がした。水が、流れている。大地のはるか下、奥底に、命の水が!


はっ!


目を開くと、薄緑色の靄。


白い霧と竹の葉の混じった淡い色が目に優しく入る。


目に見える所は既に緑色になってたから、変化はないけど・・・


どうなったんだろう?ちゃんと、出来たのかな?


「うむ。見事だ」


頭の上から辺り一帯に響き渡る声が降って来た。


え?と反射的に顔を上げて、固まった。


「・・・でっっっっか!!」


デカい!!


ドラゴンさん、デカすぎ!!


え?これどのくらいあるの?東京ドーム何個分?!・・・は言い過ぎか。


でもそう言いたくなるくらい大きい。ってか高い。


前世で住んでたマンションが十五階建てだったけど、そのくらいあるのでは・・・?


横幅も、えっと、どれくらいだ?車五台分くらいはありそう。


誇らしげにふふん、と言うだけで風が吹いてきた。


え、これ鼻息では・・・?


「そうであろう、これが我の真の姿である。この姿こそ、天と地を結ぶ我の本来の姿・・・。翼が空を覆い、尾が山を穿ち、ただ歩くだけで風が生まれるのだ!」


「・・・ねぇ、せっかく復活させた木を踏んでるんだけど」


ドラゴンさんの尻尾が木を数本なぎ倒している。


「む?おお、それはすまなんだ」


と、ちょっと動くと右脚が竹の囲いをバサバサと倒していく。


「あ、ちょっと!!」


「ぬう・・・久しぶりにこの姿になったのだ、慣れぬのは仕方ないだろう・・・」


と、竹が倒れた隙間からフェンリルの肉おじ達が顔を出した。


「い、一体何が・・・。あっ!ブラックフェンリル様っ!やはり私共をお待ちいただいていたので、す、ね・・・?」


ヘブンを見つけて喜ぶも、自分たちを一瞥もしないヘブンを不思議に思ったのかヘブンの視線を追い・・・


ドラゴンさんを見あげると驚愕の表情のままパタパタと気を失って倒れた。


何なんだこの人達は。まったく。


「ねぇ!首が痛いんだけど!」


ドラゴンさんの顔に向かって話すと、ほぼ真上を向いて話すことになるから痛いのよ。


「そ、そんな事を言われてもだな・・・」


「ダメっすよ、キトル様!」


ナイトが強めに止めてきた。


「な、なんで?」


「ドラゴン様のこの姿・・・すげぇいいじゃないっすか!!」


「・・・は?」


なんでそんなに目がキラキラしてるんだ?


ちょっと待て。後ろの面々もドラゴンさんを見上げる目が、プロ野球選手を見る野球少年みたいになってる。


「すごい・・・竜王様が大きいというのは絵姿で知っていたが、これほど大きく雄大なお姿とは・・・」


エルガ君、見上げすぎてひっくり返りそう。


「いやはや、まさに巨大無比と言いますか威風堂々と言いますか・・・。エルガ様とはまた別の、息を呑むほどの存在感ですな」


ジイランさんはブレないね。


「山みたいですね~!大きくてカッコいいですっ!」


ヘブンまで・・・。


マジか。これだから男の子ってやつぁ。


「ねぇ!もっかい小さくなれないの?!」


頭がはるか上にあるから必然的に叫ぶようにして話しちゃう。疲れるわぁ。


「「「えぇっ?!」」」


「も、もっかい?!あの姿は力を使い果たしていたからで・・・」


なんでそんなにビックリしてるのよ。


「だってこのままじゃお城にも入れないじゃん!っていうか千年ぐらい前はどうやってたの?!国を治めてたんでしょ?!」


「む?そうだな、どうしていたか・・・おお、そうだそうだ、我は人型になっておったぞ!そうだな、そこの男のように」


大きな爪で指差したのはジイランさん。


「わたくし、という事は大人の男性、という事でしょうか?」


「うむ、ちょっと待てよ、どうやっていたか・・・ぐぬぬぬ・・・」


なんかやり始めたっぽい。


「え~・・・いいじゃないっすかキトル様、このままでも」


ナイトがぶーぶー言ってる。


「なんでよ。無理じゃん、このまま行くの」


「え~せめてもうちょっとこの雄姿を拝んでから・・・」


「また来た時に見せてもらいなよ。あ、ほら・・・」


ドラゴンさんの身体が淡く緑に光を帯びたかと思うと、徐々に小さくなってくる。


十五階建てから十階、五階・・・普通の人サイズの光になってきて、気が付いた。


これもしかして裸なのでは?!


「ナイトッ!!」


「はいっ!」


私の声に反応してすぐさま剣に手をかける。いい反応だけど今は違うよ!


ギュッと目をつむって後ろを向き叫ぶ。


「服!服出して!なんでもいいから洋服っ!」


「へ?服?・・・あ、なるほど、そうっすね!」


ガサゴソと布の擦れる音や「おお、使徒殿はおなごだったな。はっはっは!」という声。


人型になっても声は同じなんだ・・・。と考えてると「キトル様いいっすよ」というナイトの声で振り向く。


振り向くとそこにはトカゲ人間が・・・いなかった。


「・・・え?」


「久しぶりにこの姿になったが、尻尾がないのは動きにくいな!」


と大きな口をあけて笑うのは・・・とんっでもないイケメン。


え、カッコ良すぎんか・・・?


ドラゴンの時は狂暴そうな見た目だったけど、人型だと顔面が暴力的・・・!若手俳優やアイドルと見まがうような美青年。笑っている口からのぞく八重歯すら神々しくて眩しいんだが。


私の表情を見たナイトが「また始まった・・・」って言ってるけど、キコエナ~イ。


腰ほどまである長い髪の毛は金色に輝き、その毛先はドラゴンの姿の名残か緑色になっている。強い意志を感じさせる瞳は黄金色の光を放つ。頬っぺたには鱗の模様が残っていて若草のような青緑が光に当たってキラキラと・・・


ん?あれ?


無言で歩いてエルガ君の腕を持ち、そのまま歩いてドラゴンさんの横に連れて行く。


「き、キトル殿っ??」


アワアワしてるエルガ君をドラゴンさんと並べ、少し離れて二人を見てみる。


「・・・似てない?」


「似てますね」


ナイトも納得する。それもそのはず、二人の容姿の特徴がそっくりなのだ。


「先祖返りの影響っすかね?もともとリザルドはドラゴンの系譜だと言われてますし、似ててもおかしくはないんすけど、並ぶと兄弟みたいっすね」


崇拝する竜王様と兄弟みたいって言われたエルガ君はハワワワ・・・とオタクみたいな反応をしてる。


ジイランさんに至っては「このような、成長したエルガ様の未来の姿を拝めるなど・・・!今のエルガ様の愛らしさも捨てがたいですが、成長した凛々しさも素晴らしい・・・っ!」と口を押さえながら涙を流している。


うんうん、私も嬉しいよ。


こんな至上のイケメン二人を眺められるなんて、神の使い冥利に尽きるってもんじゃないの~?!

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