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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
ドラヴェリオン帝国編

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エピソード 78

「おい、貴さm」


「ごめんね、離れてて」


ドラゴンが喋ろうとするのを遮る。


忍者もどき達はドラゴンの事に触れてない。って事は目的は私達だけなんだろう。


ドラゴンを隠すように前に出て、黒装束の四人を見据える。


頭は静か。でも中身は完全にブチ切れてた。


何かを生み出すのに手を上げるまでもない、考えただけでどんな事でも出来そうな全能感。


こいつらが誰かなんて関係ない。私の仲間に手を出した。そんな事をしたらどうなるのか思い知らせて・・・


「動くな。何か妙な真似をすれば従者の首が胴から離れるぞ。この剣は切れ味がいいからな」


ははっと醜い笑い声に思考が止まる。


ヘブンとエルガ君は力を封じられたって言ってたし、ナイトは首に短剣が食い込んで血が滲んでる。顎を上に向けて反らせてるけど、下を向けば深く切れてしまいそうだ。


どうすれば皆を無事に助けられるだろう・・・。


ほんの少しの時間、お互いに動かず相手の出方を探る。その刹那。


「おい、木の色が違うし、こっちじゃないか?!」


遠くでフェンリル族の声が聞こえた。


今だ、と思い手を上げようとした瞬間ナイトの傷が目に入り、動くのが一瞬遅れる。


「動くなと言っ」


制止する言葉を遮るように、黒い影が木の上から落ちてきて、ナイトに短剣を当てていた忍者もどきにぶつかる。首がグンッと横を向いた。


と同時にエルガ君の首を狙っていた短剣が、その影に弾かれこちらに飛んできた。


本能的に瞼を閉じた次の瞬間、「キンッ」という音が跳ね返る。思わず見上げると、顔の前に差し出されたエメラルドグリーンに輝く尻尾。


「ふん、こんなものでは我が鱗に擦り傷も付かぬ」


ドラゴンが軽く尻尾を振って、飛んできた短剣から守ったぞ、とアピールしてる。


ガッ


「ぐはっ!」


鈍い音が聞こえ、急いで手を前に出しながら尻尾の向こうの仲間を見ると・・・


一番危険な状態だったナイトはヘブンの自由を奪っていた首輪のチェーンを持っていた忍者もどきを地面に押さえつけている。


エルガ君の首筋を狙っていた忍者もどきは地面にうつ伏せに倒れ、もう一人の忍者の首を背後から腕で絞めているのは・・・


「ジッ、ジイラン!!」


エルガ君が嬉しそうに声を上げる。


・・・が、当のジイランさんは聞こえてない。


「この野郎、俺のエルガ様に何をしようとしたっ!」


お、俺のじゃないと思うなぁ・・・。


忍者もどきが苦しそうに呻くが、言葉にならない。


首を絞められた忍者もどきの唯一見えていた瞳がぐるんと上を向き、身体が脱力するとジイランさんが手を離して地面に落とした。


と、次の瞬間。


ブオォォォォと巨大な火柱が上がる。


「なっ、何?!今度は何が・・・?!」


熱さに思わず目を細めたが、薄く開いてよく見ると炎の出所にはヘブン。・・・の口。


「あ、やっぱり出ましたねぇ」


いつもの呑気なヘブンの声に、どっと力が抜けてその場に座り込んだ。


ヘブンの横では首輪の鎖を持ったままのナイトが「おまっ!えっ?!何でコレしてるのに火ぃ吹けるんだよっ!」とチェーンをジャラジャラしてる。


「そんな事言われましてもぉ〜」と困るヘブンと「じゃあ早く助けろよっ!ほら!俺、首ちょっと切られたのにっ!」と怒るナイト。


そして、段々近づいて来るフェンリル肉おじ達の「こっちだ〜!」「フェンリル様ぁ〜!」の声・・・。


あぁ、カオスがまた近付いてきてる・・・。


「あ〜もうっ!とりあえず、肉おじ達は邪魔っ!」


と見える範囲を全て隙間なく竹で囲い、肉おじ達を入れなくする。


「んで、コイツらはこうっ!」


と地面からツタを一斉に伸ばし、ノビている忍者もどきを地面に縫いつけるように縛り上げた。


ムカつくから、メチャクチャ縛って緑のミイラ状態にしてやったぜ。けどまだ足りないから後でまた嫌がらせしてやろ。


よし、とエルガ君の方を見ると、ジイランさんが首輪を外そうと試行錯誤している。が、なかなか外れないみたい。


「・・・ふはは・・・それは一度付ければ外れない特別製だ。先祖返りの力が無ければ帝王などただの小わ、グホッ!」


まだ意識があったのか地面に頬っぺたを擦りつけたまま生意気な口を聞いてた忍者もどきが、ジイランさんに蹴られて今度こそ気絶した。


「ワタクシが燃やしましょうか?」とヘブンが聞いてるけど、エルガ君が両手と顔をブンブンと横に振る。そりゃそうだ。


「私がやるよ」


前に出て、エルガ君の首に向かって手を上げる。


さっきは結局良いトコ無しだったからね。これくらいはやらせてもらおう。


首輪の金属のわずかな隙間から、双葉が勢いよく顔を出した。みるみる膨れ上がる茎が首輪の輪郭を押し広げ、ギィ、と金属が軋む音が耳に届く。と、たんぽぽの花が勢いよく開き、首輪が外れた。


よっしゃ!アスファルトも押し上げてたんぽぽ咲いてるし、首輪くらい外せると思ったんだよね。


「・・・これが、神の力・・・」


ジイランさんが外れた首輪を手に呟く。


「キトルさまっ!キトルさまっ!ワタクシのもっ!」


ヘブンが私の周りをピョンピョン跳ねる。


「害がないなら付けててもいいんじゃねえの?これで散歩行こうぜ」


ナイトがニヤニヤしながら鎖を持ってるけど、なんてムカつく顔をしてるんだ。


たんぽぽを咲かせて首輪を外すと、ナイトの顔の横、空中にギザギザ葉っぱの草を生やす。


「ナイト首切られてたでしょ?コレ貼っとくといいよ!」


「お、ありがとうございま・・・いっ、てぇ〜!!」


「すぐ治るけど、すご〜く痛い傷薬」ニヤリと笑う私。


秘技!ニヤニヤ返し!


「・・・はははははっ!お、お主らはまったく・・・」


エルガ君がお腹を抱えて笑いだした。


「さっきあんな目に遭ったばかりだというのに・・・くくくっ」


「え~キトル、すっごい怖かったよぉ~?」


両手を揃えて顎の下に当て、ぱちぱちとまつ毛を瞬かせる。


「ぶはっ!!あははははは!やめてくれキトル殿っ・・・!!」


「う~わ、キトル様それはないっすわぁ」


大笑いのエルガ君とドン引きのナイト。


「キトルさま怖かったんですか?」と不思議そうなヘブン。素直な反応が一番キツいな。


さっきまでの空気を消すようにわちゃわちゃしていると、スッとジイランさんが私の前に片膝をついた。


「緑の使徒、いえ、神の使者様。この命の全てを捧げるべき我が主、エルガ様をお救いいただいたそのご恩、万の言葉をもってしても到底尽くしきれませぬ。そのご加護に、心より感謝を申し上げます」


「あ、いいですいいです、そういうの。あとキトルでいいですよ」


「ではキトル殿。助けと言うには粗末ですが、もしこの国やこの先の旅路で素行の悪い者に遭遇してしまった際は、『獣牙衆のジイラン』の名を出していただければ多少の風よけにはなれるかと・・・」


「あ~っ!!!」


突然ナイトが大声を出す。


「それだ!『血煙の獣牙衆』だ!ぶ・・・ブラッドブレイカー、だったっけ?前に護衛した商人が言ってたんすよ!昔ドラヴェリオンに居たクッソ強い義賊が居て、そいつらのリーダーがジイランって名前だったんすよ!」


え?ぎぞく???ジイランさんの方を見ると、


「・・・若気の至りですので、その名前はあまり出さないで頂けると助かります・・・」とちょっと頬を染めている。


ブラッドブレイカー・・・血煙の獣牙衆・・・うわぁ・・・。異世界にも中二病ってあったのね。


「ジイラン、どんな事をしていたのだっ?!あとで詳しく聞かせてくれっ!」


エルガ君がキラッキラの目でジイランさんを見てる。またワチャワチャしそうになったその時。


「んんっ!」


お腹に響く低い声で皆の視線が一点に集まる。


「邪魔者も片づけたようだし、そろそろ話しを進めても良いか?」


ドラゴンが私を守ってくれた尻尾をパタンパタンと振りながら口を開いた。


そうだね、わちゃわちゃするのは楽しいけど、やる事やってからにしようじゃないの!

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