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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
ドラヴェリオン帝国編

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エピソード 76

「結局あれはドラゴンだったのかなぁ・・・?」


辺りが暗くなった後、焚き火で作ったポトフを口に運びながら誰に言うでもなく聞いてみる。外で作る料理ってやたら美味しいのなんでだろうね?


「じゃないっすか?なんか偉そうだったし『我の元へと~』とか言ってたから、キトル様が会いたいっつってたのをどこからか聞いてたんすよ、きっと」


ナイトが大きめのニンジンを口に運びながら答える。


「ナイト殿!偉そうではなく竜王様は実際偉いのだ!我が国を支配するお方だぞ?!」


エルガ君がスプーンを振りながら文句を言う。


「でも長い間誰も見てないのに、すぐに会えそうな感じでしたね?ずっとここに居たんでしょうか?」


ヘブンが野菜を食べ終わったお皿のスープを舐めながら聞く。


「そもそもドラゴンなのかどうかもまだ定かじゃないですしね。明日探して会えればわかるんじゃないっすか?」


さっき注いだばかりなのにもうお代わりしながらナイトが言う。


「あっ!ナイト殿!その赤い野菜は僕がまだ食べるから残し」


「ざんね~ん。早い者勝ちですぅ~」


慌ててお皿の残りを口に詰め込むエルガ君。こうしてると年相応の男の子だねぇ。


・・・ん?!


何か妙な気配を感じる!肌がチクチクするような、誰かに見られているような・・・


周囲を見渡してみるけど、幻想的だった景色は夜になると暗く深い霧がおどろおどろしく漂い、焚き火に照らされた自分たち以外はほぼ見えない。


「キトル様どうしたんすか?」


「・・・ううん、何でもない」


下手な事言わないほうがいいよね。ナイトとヘブンはともかく、エルガ君は怖がりっぽいし。


いくら雰囲気的には幽霊やゾンビが出てきそうな感じだとはいえ・・・。


ゾワワワッ!


うわぁ、前世で見たホラー映画思い出しちゃった。お化けとかは平気なんだけど、驚かせる系のホラーは苦手なんだよねぇ。


ダメだ、考えないようにすればするほど思い出しちゃう。早いとこ寝ちゃおう!


急いで周囲の木よりもっともっと高い位置にツリーハウスを作って上に上がる。


食べ終わった皆が上がってきたのを確認してすぐに階段を消し、木の幹をツルッツルにしておく。


一応ね、念の為。チェーンソー持ったゾンビとかが現れたら嫌じゃん?


皆と並んで柔らかい草のお布団に入って目をつむると、安心したのか途端に眠気が襲ってきた。まだ子供の身体だから睡魔にだけは勝てないんだよね・・・。


さっきの何だったんだろ・・・あ、もしかしてドラゴンが陰から見てたのかな・・・。


ポトフ、取っておいてあげれば良かった・・・。






・・・違ったっぽい。


朝、ツリーハウスから降りて木の根元を見たナイトに報告された。


「昨日の夜から朝にかけてここに誰かが居たみたいです。人間の大人サイズの足跡と、地面に大きな凹み、これは多分お尻っすね。この木を登ろうとして落ちたんでしょう」


「やっぱり誰かいたんだ・・・」


思わずつぶやくと、三人の視線が一斉に集まる。


「キトル様、何か知ってるんすか?」


「ち、違うよ!ただ、昨日の夜視線を感じたというか・・・何か嫌な感じがしたんだよね。もしかしたらドラゴンかなと思ったんだけど」


「我が国の竜王様が人間に変化されるというのは聞いたことが無い。もちろん千年ほど前までは、だが」


エルガ君が下を向いて考えながら話すと、ナイトがすぐに否定する。


「この足跡は複数人の人間なんでドラゴンはありえないっす。多分三人か四人、あと短剣を左の腰に付けてますね。ここの尻餅付いた横に短剣サイズの穴があいてるんで」


探偵お得意のアゴに手を当てて考えるポーズ。


「そうだな、竜王様であれば空を駆ける翼をお持ちのはずだ。わざわざ木を登る必要などなかろう」


エルガ君がナイトの方をチラチラ見ながら真似してアゴに手を当てる。なんだ?私を悶え死にさせる気か?


「昨日の、爺・・・ジイランさん?って可能性は?」


「爺ならば余の事を考えて一人で行動するはずだ。それに愛用の武器はロングソードで、短剣は持ってない」


う~ん、じゃあ違うか。


「キトルさま?ワタクシが探しましょうか?!」


ヘブンが鼻を私の手に擦りつけてきた。


そっか、ヘブンに探してもらうっていう手もあったね!


「まだうっすらと臭いが残ってますから、追えますよ?」


「そうだね、じゃあ追いかk」


「いえ、先に進みましょう」


ナイトにレッツゴーを遮られる。何故???


「その何者かは、立ち入りを禁じられている区域にいる事、登る手立てがない高い木の上に何度か登ろうと試みている事から、帝王であるエルガ様か、緑の使徒様であるキトル様、もしくはその両方を狙っていることは明白です」


うん、それはそうだね。そこまでは私にもわかる。


「そしてこの国で先祖返りのエルガ様が強い事は常識です。また、この国でキトル様を知る者であれば敵うはずがないと身をもって知っているはずです」


あ~そうね。この国であった人達にはことごとく力を見せつけてきちゃったね。


「となると、そんな二人を狙うほどの手練れが足跡や尻餅まで付いたその痕跡を残して消えてるってのはおかしいんです。おそらくおびき寄せようとわざと消さずに残してるんだと思うんで、そこに向かってしまうと相手の思うツボかと」


エルガ君も私も、黙ってナイトを見つめている。


「あと、別にその何者かに用事はないんすよ。寝てる間に狙われてたからちょっと嫌な感じではありますけど、もしまた来たら返り討ちにする、くらいのスタンスでいいと思います」


「・・・ナイト殿は天才か?」


そうでしょうそうでしょう、うちの従者はすごいんだよ!


確かに落ち着いて考えれば、狙われてるからってこっちから探してまで会いに行く必要はないんだもんね。


「ちょっと冷静に考えてみただけっす。ヘブンはともかく、俺は狙われる理由がないんで当事者じゃないですし」


「なんでワタクシがっ?!ワタクシにも狙われる理由なんてありませんよっ?!」


突然名前が出てきたヘブンが猛抗議する。


「ヘブンはほら、あの変な団体に祭り上げられてただろ?お揃いの服着たフェンリル族」


「あんな人達とワタクシは無関係ですっ!」


「ヘブンの方はそうでも、あいつらはヘブンを追いかけてたしな。あいつらが恨みを買ってる相手とかならヘブンを狙うかもしれねえだろ?」


「何て理不尽なっ!!」


ヘブンがプリプリしてる。


「ね、ナイト。あのフェンリル族が襲ってきてたって事はないかな?それか、守護隊だっけ?あの人達とか」


「あのフェンリル族ならきっと着いた途端に叫んでますよ。『悪しき緑の使徒よ~!我らのフェンリル様を返せ~!』とかって」


笑いながら声真似する。そう言われると、あの人たちがこっそり動いてる姿は想像できないな。


「守護隊が帝王である余を狙う事などありえぬ。居場所は知られているかもしれぬが、追ってくることはないだろう」


エルガ君もきっぱりと否定する。ふむ。信頼関係があるんだね。


それなら今できる事は一つだ。


「じゃあ、放置で決定!もし来たらその時考えよ!ナイト、覚えてる所ら辺まで連れてってね!」


「へい、かしこまりました!」


ナイトがおどけて返事をして準備を始める。


ドラゴンさん(仮)も待たせちゃってるしね。早く探しに行ってあげようじゃないの!

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