エピソード 75
「して、これはどこに向かっておるのだ?」
ジイランさんを残したまま大木の周りに作った会談で地上に降り、ナイトの案内でジャングルをかき分けながら進んでいると、エルガ君が私の後ろから尋ねてきた。
そういえば言ってなかった。でもどこまで言っていいのかな?あんまり石の存在は広まらない方がいいはずなんだよね・・・。
何て言おうか悩んでいると、元の大きさに戻ったヘブンが
「この国を一気に癒せる場所があるんですっ!国中を歩かなくてもいいから、そこを探してるんですよっ!」
と先に答えちゃった。
あ~・・・言ってよかったのかな?一応「緑の使徒が行かないと癒せないんだけどね?」と付け足しておく。
「そんな場所がこの国にあったのか・・・。ちなみにそれはどの辺にあるのだ?」
ん~まぁどうせ一緒に行くんだし、ちゃんと終わった後に隠せば大丈夫か。
ナイトがドワーフ王に貰った普通の地図を見せながら教えているのを眺めていると、
「えぇっ?!」
突然エルガ君が大声を出した。
「どうしたの?」
「ほ、本当にここに向かうのか?!」
エルガ君の指が地図を指している。覗き込んで見るけど・・・よくわかんないや。文字も読めないし。
「今いるのがこの辺で、あっちが首都ですよね?で、その首都から西の方、セイクリッド山のある方角に向かって大人の足で約一日ほど歩いたこの辺ですね。ジャングルで道がないのとキトル様のスピードだともうちょいかかりますけど、二日もあれば着くかと思います・・・ってかエルガ様地図読めたんすね?」
ナイトの指があっちこっち動いた後にエルガ君と同じ場所を指す。
「国の地理は教えられておるから見ることは出来るが、覚えていた場所に辿り着けた事はない!・・・じゃなく、本当にそこに目的の物があるのか?!」
「はい、俺が見た時にはここが光ってたんで」
「なんで?ジャングルの中でも、私がいれば歩きやすくできるよ?」
草も木も避けてくれるし、道ほどではないけど他の人がジャングルを歩くより大変ではないと思う。
「ここは、いや、首都から西の一帯は禁足地なのだ・・・」
「キンソクチ?」何それ。
「端的に言えば立ち入りが禁止されている場所だな。キトル殿は我が国が竜王・・・ドラゴンを信仰しているという事はご存じか?」
「うん、聞いたよ」
「その竜王様が最後に飛んで行かれたのがその西の地なのだ。そして姿を消される前には『この地に入るべからず』と言付けをされたと言い伝えられておる。余がドルコス、教育係から聞いた話では、その地は深い霧に包まれており、入る者を拒むとか戻って来れなくなるとか・・・」
入る者を拒むのに出て来れないって、中に入れてるじゃん。っていうツッコミはこういう話には無粋なのかしら?
「ふうん?じゃあ霧がかかってる場所って事ね!」
「いや、だから竜王様の眠る地で入ってはいけない場所だという」
「って事は、そこに行けばドラゴンが見れるかもしれないって事でしょ?」
せっかくの異世界なんだし、ドラゴンくらい見とかないと!
エルガ君が口を開けてポカンとしてる。おぉ、この子歯並びまで整ってるのか。
「エルガ様、無駄っすよ。キトル様怖いもん無しなんですから。それにもしキトル様が行かなかったらドラゴンの方から来るかもしれませんよ?」
なんだその苦笑いは。ナイトもイケメンなんだからそんな絵になる顔するんじゃないよ。
「そうですよっ!もしそこに行かなかったら国中を歩き回らなきゃいけないから、エルガさんも付いて回るの大変ですよ?」
ヘブンの意見にサンセー。おじさん達から逃げながら国中を歩き回るのはご遠慮したい。
「ダイジョブダイジョブ、ドラゴンが喧嘩売ってきたら買ってやるから!」
力こぶを作って見せるとナイトがドン引きした目でこっち見てくる。
「やめてくださいよ、出来れば穏便な方向でお願いしますね?」
何だい、いつも私なら倒せるとか言ってたくせに~。
「・・・キトル殿といると、余の常識が崩れて行くな・・・」
ポカンとした顔のままエルガ君が呟く。
「常識なんて壊すためにあるのさ!もしドラゴンさんに会ったら、エルガ君も王様なんだし挨拶しとくといいよ!」
「キトル様、王様じゃなくて帝王様ですよ」
「ナイト、細かい男はモテないぞ?」
私たちのやり取りを聞いてたエルガ君が笑い出す。
「・・・はははっ。そうだな、帝王の務めとして、この国の支配者たる竜王様にご挨拶に伺わねばな!」
ちょっと虚勢を張ってる感もあるけど、子供でも帝王で男の子だもんね。弱いとこは見せられないよね~。
ま、私達もいるんだし大丈夫でしょ。
「会えるといいですねぇ~、ドラゴンさん!」
ヘブンがのん気な声で独り言ちた。
とは言ったものの・・・実際に近付くと歩きにくいな。
大木のあった場所から半日歩くらいで何だか白っぽい?程度だったのが、今は三メートル程度の視界しかない。
透明な木々や草花に白い霧がかかって、この世の物とは思えないほど幻想的。
まぁこっちはそれどころじゃないほど必死なんだけど。
迷子にならないナイトが先頭、その横で草や木を避ける係の私、後ろにヘブンとエルガ君と四人固まってゆっくり進んでいる。
多少動きにくいけど迷子になるよりはマシだから、皆誰かしらの服の裾を持って歩いてて非常にスローペース。
私が通った道は緑色に戻ってるから、同じ道をぐるぐるって事はないと思うけど・・・。
「ねぇナイト、なんでこんな霧の中迷わず歩けるの?」
実は迷ってましたぁ~!とかって事はないのか?
「日の当たる角度とか、風の吹く方向やその匂いとか、道の傾斜とか・・・まぁ色々っすね」
なかった・・・。あったら困るんだけど。
「ただそろそろ夕方なんで、今日はこの辺で野宿しましょうか」
「お、了解!じゃあ見晴らし悪いし、ちょっと高い木の上に寝床を・・・」
「・・・立ち去れ・・・」
「ひいっ!だ、誰の声だっ?!」
エルガ君がヘブンの首元に抱きつく。いやん可愛い。
「立ち去れ・・・」
なんか声が聞こえるね。どこかからっていうより、この辺一帯に響いてる感じ。
「立ち去」
「なんで?」
あ、止まった。録音みたいな一方通行の声じゃなさそう。
「・・・ここは立ち入ってはならぬ場所だ・・・」
「用事が終わったら帰るよ〜」
どこ向いていいのかわかんなくてとりあえず上に向かって話してるけど、やりにくいな。
「・・・用事とは何の事だ・・・」
「えっとねぇ、この国に緑を取り戻すために、この先に行かなくちゃいけない場所があるのよ。すぐ終わるから気にしないで!」
「もしや、緑の使徒か?!」
お?食いついた?声が大きくなったね。
「そうそう。知ってる?」
「キトル殿は何故そんなに親しげに話しておるのだ・・・」
あ~エルガ君引かないでぇ~。
「・・・もちろん知っておる。だが緑の使徒はこの国を見捨てたのではなかったのか・・・」
「いやぁ、それ私じゃないんだけど、前の使徒様にも色々事情があったらしいよ?しゃーないよねぇ〜」
世の中色々あるよね~人の数だけ事情ってもんがさ!
「・・・ならば、ここまで辿り着いてみせるがよい。本物の使徒ならば、我の元へと至れるであ」
「ううん、今日はいいや!疲れたし、明日また行くわ!」
ぐふっ!と変な声を出してプルプル震えてるエルガ君。それは笑いを堪えてるね?
「・・・う、うむ・・・」
と納得いかない感じの声を最後にもう聞こえなくなった。
「キトル様はどこまでもキトル様っすよね〜」
おや?なんでナイトは呆れ顔?エルガ君はまだプルプルしてるし、ヘブンはまだキョロキョロしてる。
さてさて明日の予定も決まったし、今日はしっかり休もうじゃないの!




