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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
ドラヴェリオン帝国編

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エピソード 72

「う・・・美味い!!野菜とはこんなにうまいものだったのか?!」


逃げてしばらく経つのでまた首都の近くまで戻ろうかと思ったけど、もう辺りが暗くなってきていたのでそのまま草テントで野宿する事に。


今日の晩ご飯はラガントゥスのお肉とお野菜を煮込んだシチュー。


エルガ君も最初は「野菜なんて食べぬ!」なんて言ってたけど、一口食べたら無我夢中で食べ始めた。


「あの透明な植物も食べられるんでしょ?食べた事なかったの?」


「もちろんある!あるのだが・・・今まで食べた野菜は、この野菜に比べると味がなかったようにすら感じるぞ」


そんなに?そりゃ私が作った野菜はやたら美味しいと評判ですけどもぉ。


ナイトを見るとこちらの意図を察したのか小さく頷いてテントから出て行き、十数分後、手に透明の葉っぱを持って戻ってきた。


あんな事言われたら食べ比べてみたいのは人の常ってもんよ。まだ緑色に復活してない所まで食べられそうな草を取りに行ってくれたんだよね。


私が触ると色が付いちゃうから、そのままあ~んと口に入れてもらう。


モグモグもぐ・・・まずっ!!


え、何これ。まずいって言うか、味がない?無味って感じ。


口に入れちゃったし、気持ち悪いけど頑張ってモグモグして飲み込む。うえぇ・・・。


ナイトとヘブンも食べて、眉間にしわを寄せ何とも言えない微妙な顔してる。


「そうだろう?!美味しくなかろう!」


エルガ君はなんで嬉しそうなんだい?腰に手を当ててどや~ってしてる。


例えるなら、口の中に入れた瞬間から味のないガムみたい。野菜だと思って食べたから、その落差で余計に口の中がショック受けてる。


「これまで食べていた物に比べてこの野菜の美味さ・・・。この野菜を食わせるだけでも、キトル殿を神の使徒と認めるものは多そうだな!」


餌付けか?胃袋掴んじゃえばこっちのモン的な?別に無理して認められなくてもいいんだけどさ。


「草食動物の獣人は確かにこの野菜で懐柔出来そうっすよね。今までこんなの食ってたんなら感動しますよ」


こらこら、懐柔するとか言うんじゃない。・・・ん?草食動物?


「そういえば、エルガ君って何の獣人なの?」


ピタ、とシチューのお代わりを食べていた手が止まる。


あれ?悪い事聞いちゃった?


「・・・リザルドだ。そして僕はその先祖返りと言われている」


「リザルド?」


ナイトの方を見る。困ったときのナイぺディア!


「リザルドって言うのは、ドラゴンに近い種族でドラゴンの眷属とも言われています。固いウロコや翼を持ち、知能や魔力も相当高かったそうですが、今は獣人がいるだけで純粋な魔獣のリザルドは絶滅していますね。地方によっては竜人とかドラゴニュート、と呼ぶところもあるらしいっす」


ドラゴニュート!そっちは聞いた事があるぞ。なんだっけ?ゲームかマンガだった気がする。


「へ~だからそんな綺麗な色が出てるんだね~」


「・・・綺麗か?」


「綺麗だよ〜。頬っぺたとかキラキラじゃん。宝石みたい。ねぇ?」


ナイトを見ると、うんうん頷いてる。


「そんな宝石なら高く売れそうっすよね」


ナイト、それは何か違うんじゃないかなぁ?


「美味しそうですよねっ!」


ヘブン、それも違うと思うなぁ?


「そうか、綺麗か・・・ははっ。初めて言われたぞ」


嬉しそうに顔をくしゃっとして笑ってる。笑って・・・うぉぉ・・・眩しくて直視出来ない・・・!


「初めてって、リザルドン?の人達って皆そんなに顔が良いの?」


「リザルドっす」


「リザルドね、リザルド。」よし、覚えたぞ。


「顔?顔はわからぬが、皆はいつも人間のような見た目をしておる。僕のように普段からリザルドの特徴が出てる獣人はいないし、力もそれほど強くない」


エルガ君は先祖返りって言ってたし、リザルド、つまりドラゴンっぽい感じが出ちゃってるから遠巻きにされてるのね。


「興奮した時や戦う時などは見た目も力もリザルドに近づくが、それでも皆僕より弱いから・・・。だから、父が二、三年前に亡くなってから、こうやって対等に話すのも、共に食事をするのも久しぶりで嬉しい」


ううっ・・・こんな国宝みたいな存在なのに苦労してるのねっ!


「キトル様、口に出てますよ」


おっと失礼。


「お父さんは先祖返りじゃなかったの?」


「うむ、父は普通の獣人だった。だが、リザルドとしての誇りは誰にも負けていなかったらしい。僕もそんな風になりたいのだが・・・」


そういえば。


「エルガ君、あの追いかけて来てたのって悪者?」


「むぐっ!」


シチューを口に入れた瞬間だったからむせちゃった。


「げほっ・・・わ、悪者などではない!あれは余の世話をしてくれている爺や教育係、護衛などだな」


「悪者じゃないならなんで逃げてたの?」


痛い所を突かれたのか、ぐっと言葉に詰まってる。


「・・・からだ」


「え?なんて言いました?」


隣にいたナイトにも聞こえなかったみたい。


「・・・っ!だからっ!帝王教育が嫌で逃げたのだっ!」


・・・あ~らら。なるほど?意外と子供っぽい理由だったな。


「あいつら、威厳を出せと言うくせに素直に言う事を聞けと言うし、帝王として国を治めろと言うのに配慮すべきはリザルド族だけで他の獣人族はどうでも良いというようなことを言うんだっ!」


「え~それは酷いね」


色んな種族がいるんだし、皆を尊重しなきゃ国なんて治められないでしょ。


「そうだろう、そうだろうっ?!あいつら酷いんだ!父にこの国は竜王様が支配する国だと教えられていたのに、「もうドラゴンは居ないのだから、この国はエルガ様の物なのです」などと抜かすのだぞっ?!」


目を左右に引っ張り、変な声を出してモノマネをする。心を開いて来てくれたのか、ノリノリだなぁ。


「・・・それは妙っすね」


ナイトがアゴに指を当てて低い声でつぶやく。何それ、探偵のポーズなの?


「前回この国に来た時は前王の時なんすけど、リザルドの獣人たちもドラゴンを信仰していたし、ドラゴンを無下に扱うような素振りは全くありませんでした。それからたった数年で、王が代替わりしたからってそんなに信仰が薄れますかね・・・?どう思います?キトル様」


「うむ、わからん!」


知らんよ、私は前世から信仰心ないからね!


ブッフォ!と話を聞いてたエルガ君が噴き出した。


「お、お主ら、面白いなっ・・・!キトル殿は、神の、使徒なのにっ・・・!」


笑いが止まらないご様子。


「考えるのはナイトの役目だからね」


と私が言うと、


「キトル様は草係っすよね」


とニヤニヤしながらナイトが言う。別にいいもん草係でもっ!


「ではワタクシは食べる係ですねっ!」


ヘブンがいつものドヤポーズで言い切る。いいなぁその係。


「あっはっはっは!だ、ダメだ、止まらんっ・・・!」


あんまりエルガ君がが笑うもんだから、思わずみんなで笑い出す。


あ~楽しい!国のトップとこんなに仲良くなれたんだし、このまま平和にこの国も救えるんじゃないの~?

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