エピソード 70
「ねぇ、こっちで合ってるの?」
つい数時間前までは道があったのに、今はジャングルの中の道なき道を進んでる。
最初はナイトが先頭で歩いてたんだけど、あまりにも草が多くて進みにくいから私が先頭になって草を左右にお辞儀させながら歩いてるんだよね。
「合ってますよ。ま、さっきの奴らに見つからない道と獣人の集落を避けて行ってるんで仕方ないっすよ」
フェンリル獣人の肉おじ達の話では、この国では『緑の使徒=この国だけ助けに来てくれなかった悪いやつ』って認識みたいだし、面倒事を避けるためにも獣人に会わないように首都を目指すことにしたのだ。
「モルドさんに感謝感謝だね」
ナイトの手にある疲れみ地図を見ながらつぶやく。
この疲れみ地図、目的地を思い浮かべるとその場所までの道のりを出してくれるだけじゃなく、獣人の集落を避けて首都まで行きたい、と思えばその通りの道を出してくれるんだよね。
だから、あのフェンリル肉おじ達に捕まらないよう出来るだけわかりにくく、かつ獣人の集落のない道。つまりジャングルの中になるんだよね~。
と、考え事をしてたら大きな木が目の前に現れた。日本の神社にあったらご神木って呼ばれそうなくらいの巨大な木。根元の幹の太さは十メートル以上あるんじゃない?
木の幹も透明だけど、草や葉と違って薄い茶色をしてる。でも木の向こう側も見えてて、何だか幻想的で不思議。
これは流石に木を曲げても通りにくいし回り道かな~と思ってそっと手を触れると、触れたところからみるみるうちに色が付き、透明だった木が青々と葉を茂らせた普通の大木になった。
すると。
「えぇっ?!なんだこれ、ぅうわっ!!」
と頭上で声がしたと思ったら、バサバサ~!っと目の前に人が落ちてきた。
正確にはほぼ私の真上に落ちてきたんだけど、後ろに居たナイトとヘブンに引っ張られて無事だった。
すぐさまナイトとヘブンが私を後ろにやり、ナイトは剣に手をかけヘブンは姿勢を低くして臨戦態勢。
木の上に人がいたのか。でもサイズ的に・・・子供?
「いてて・・・」
起き上がると、ハッとした様子で慌ててマント?ローブ?のような上着に付いてるフードを被る。フードを被る前に一瞬見えたあれは・・・ツノ?
「な、なんだお前たちは!余に何をしたっ?!」
ヨ?!YO?!HEY YO!のヨ?!
何この子、ヨさんって言うの?それとも偉そうな方の余??
ん?待って、この子・・・
多分私と同じかちょっと上くらいの年齢に見えるけど、そんな事より。
フードの下には毛先が緑色をしたキラキラとした金髪が覗いていて、くりくりとした瞳も同じく金色。その瞳を際立たせるような長いまつげは光の加減によって金色にも青緑にも見える。頬にはうっすらと青みがかかった緑色のウロコのような模様が入っていて、ぷりっとした唇は炎のような赤とオレンジが混ざり輝きを放つ。
「かっ・・・!!」
「・・・か?」
「かっっっっわいっ!!何この美少年?!え、美少女?!いやもうどっちでもいいか!うひゃあ~!なにそれ?!芸術品なの?!すっご~い!どうなってんの?!」
アルメニアのパールちゃんも王子様二人もそれはそれは見事な『美!』だったけどさ!
あれはね、とってもとっても綺麗な人間なのよ。
それに比べて、この子はもう美術品!て感じ。一部の隙もなく完璧に完成されてて、何時間も眺めてられそう。
あ~前世で平日休みに美術館行ってたの思い出すな~。平日は人少ないから行きやすいのよね~。
「キトル様・・・」
ヤベ、暴走しちゃった。ナイトがドライアイスくらい冷たい目でこっち見てる。いや~ん。
「キトルさま、前の使徒様が王子を見た時と同じですっ・・・」
あ、ヘブンがなんか悲しそう。また置いて行かれると思っちゃった?
「ダイジョブダイジョブ、私は鑑賞して楽しむタイプだから!前の使徒様とは違うよ~」
あんな爆進系恋する乙女にはなれないよ~。
「・・・ぼ、ぼ、僕を見て、か、可愛いなどと・・・」
忘れてた。ヨ君を放置しちゃってた。あらま、照れちゃってるの?!っていうか頬にピンク色が差して、もう何色?!虹色かな?!もう可愛さ百点満点なのに、どうやってさらに可愛く出来たの?!
「ねぇ、ヨ、君?ちゃん?大丈夫?木の上から落ちて来たよね?何してたの?」
「ちゃ、ちゃんではないっ!男だっ!」
「あらま、ごめんね?男の子ね、男の子」
「違うっ!子じゃないっ!」
喋る姿も、っていうか動いてる姿すら見事な造形。も~ニヤニヤしちゃう。
「キトル様、顔、顔」
いや分かってるけどさぁ~これは仕方なくない?
「バラグルンではそれ出なかったからもう大丈夫だと思ったのになぁ・・・」
ナイトがはぁ~と深いため息をつく。
「え~?グリンベルダさんとか王妃様も綺麗だとは思うけど、そこは個人の好みなんだし仕方なくな~い?」
と話しながらも目線は美少年に釘付け。私があまりにも凝視してるもんだから美少年も困ったようにモジモジしてるけど、ごめんね、目が離れてくれないのよ~。
「あとキトル様わかってるのか知らないっすけど、この子多b」
「どこだ!」「こっちから声がしたぞ!」
ふいに、話し声が聞こえてきた。目の前の大木の向こうの方かな?
「はっ!いかん!」
美少年が我に返ったようにこっちを向く。
「おいお主ら、余を木から落としたのだ。その責任を取って、余を連れて逃げろ!」
と言うと、私、ヘブン、ナイトと順番に見比べて、ナイトに近付く。
「お主に余を抱える栄誉を与えてやろう。さぁ逃げるがよい!」
というとナイトに向かって両手を広げる。
やだ~!何それ可愛い~!!生意気可愛い属性なのっ?!キラキラしてるのに可愛いとか欲張りすぎじゃないっ?!
「えっと、俺っすか・・・?」
ナイトが困ったように自分を指差してる。
「うわっ!なんだあの木は!色が・・・!」
さっきより声が近づいてきた。木が見えるくらいの所にいるのか。
「む!いかん!早く逃げるぞ!」
ん~と、よくわかんないけど、とりあえずあの声から逃げたいのね?
「ヘブン、私とナイトと、その子も一緒に乗せて走れる?」
「もちろん余裕ですっ!」
フン、とヘブンがいつものドヤポーズ。が、
「えぇっ!嫌だ!そいつはフェンリルだろうっ!僕はコイツに抱えてもらうんだ!」
ナイトの足にしがみついて首を横に振りイヤイヤしてる。
「あ~もう、わかりましたよ。キトル様、あとでお説教ですからね?」
諦めたようにナイトが言うと、ひょいっとヨ君を抱え上げた。
わたしは自力でヘブンによじよじ・・・。ヘブンの首にしがみついた私の後ろにヨ君を抱えたナイトが座り、ヘブンが力を溜めて跳躍する。
一度大木の方に向かって飛び、大木の立派な幹を使って大きく弧を描くように飛びあがる。
うわぁ~!ヘブンが本気でジャンプしたらこんな高く飛べるんだ!
「エルガ様~っ!」
足元で上がった叫び声は飛び上がって聞こえなくなった。
エルガ様?・・・様?
何度か木や草の上を飛び越えて道に出た。この辺はもう植物が緑色をしてるから、さっきの大木より戻って来た感じなんだろう。
「エルガ、様って呼ばれてた?」
ヘブンから降りて、ナイトに抱えられたままぐったりしてる美少年に聞く。
「しょ、しょう、んんっ・・・そうだ、余はドランザ・リザルドが息子、エルガ・リザルド。偉大なるドラヴェリオン帝国の帝王だ」
がんばって威厳を出そうとしてるけど、怖かったのか手がプルプル震えてる。
っていうか、帝王?!
「あ~、やっぱキトル様気付いてなかったんすね・・・」
「ヨって名前じゃなかったんだ・・・」
「・・・そこっすか?」
エルガ君を地面に下ろしながら弱めのツッコミ。
「で、帝王サマが緑の使徒様に何の御用ですか?」
ナイトが嫌味っぽく聞く。
「緑の・・・?」
う~ん、ポカンとした顔も見事な整い方・・・。何とかして絵に残せないかな。写真とか作れないかな。無理か。
「み、緑のっ?!か、神の使いは我が国には来ないのではなかったのかっ?!」
「こっちも気づいてなかったのかよ・・・」とナイトががっくりと膝に手をつく。
って事は私らとは関係なく、帝王なのにエルガ君は逃げてたって事?
「キトル様?余計な事に首突っ込むなって俺言いましたよね?」
あ~ナイトの視線が痛い~。
でもさ~仕方ないじゃん?別に美少年だからってわけじゃないよ?
この私が困ってる人を目の前にして、理由も聞かずに放り出せるわけないじゃないの!




