エピソード 7
う~~~~~~~~~~ん・・・。
「あの」
どうしたらいいのかなぁ・・・。
「すいません」
思いつかないなぁ・・・。
「使徒様!」
ハッ!
目の前に心配そうな数人のお姉さんたちの顔。
昨日の夜開催されたバナナまつりで涙を流して喜んでたお姉さんたちだ。
ただひたすらに、生きてる喜びをかみしめ、お互いをねぎらい合い、バナナを食べる住人達。
そんな皆様を横目に「しょっぱいものが食べたい」なんて言い出せない私・・・。
そのせいか朝から、頭の中はポテチやさきいかみたいなお酒のツマミばっかり。
前世では結構お酒好きだったんだよ。
そういえばこの世界では何歳から飲めるんだろう。
そんなどうでもいいことも色々考えながら、集落の外にある畑をぐるぐる歩き回ってたんだよね。
「大丈夫ですか?」
うんうん唸りながら歩き回ってたから心配してくれたんだね。
すまぬ。
「お足元が・・・」
ん?
周辺をぐるぐるしてたから、足元が草だらけ。
「うわ!ごめんなさい!」
畑に雑草が生えちゃ・・・
ん?これ雑草なのか?
ちょっとむしってみる。
稲みたいに細長いけど実はついてない。
何の葉っぱだろう。
「これ、何の葉っぱかわかりますか?」
お姉さんたちに見せてみる。
「なんだろう・・・見た事あるような・・・」
お姉さんたちも知らないのかな?
するとお姉さんたちの後ろからおばあちゃんが割って入ってきた。
「そりゃモーリュ草さ。モーリ草とも呼んでたね。細く深く根を張り固い土を砕き栄養を与え、土地を豊かにしてくれるありがたい草さ」
へぇ~そんな草があるんだ。
「あたしらが子供の時はまだそこらに生えてたのをたまに見る事もあったけど、だんだん減ってきちまってねぇ・・・。緑の使徒様が居なくなって土地が瘦せちまったのは、そのせいもあるのかねぇ」
へ~じゃあこの草は意外と大事な働きをしてるんだね。
おばあちゃんの知恵だなぁ・・・ん?
「これだぁ!」
大きな声を出したから、みんなビクッとしちゃった。
ごめんごめん。
「あのね、野菜とか果物を作るのはもちろんなんだけど、それだけじゃいつかまた出来なくなっちゃうかもでしょ?」
そう、何もお酒とおつまみの事ばっかり考えてたんじゃないのよ?
今お腹いっぱいになるのは大前提で、また不作になった時に備えたかったんだよね。
肥料の作り方も、長期的な栽培方法も、私は詳しくない。
でも私が定期的に来ないとダメになるんじゃ、私に何かあったらみんなが困ることになっちゃう。
「だから、この草をい〜っぱい作るよ!で、一回畑でお野菜とか作ったら、この草を植えて、また栄養いっぱいの土にしてもらうの!」
「おぉ~!」
とおねえさんたちから良い反応。
どうよ、名案でしょ?
「けどモーリュ草は種や実がなかったんじゃないかねぇ?毎回植え替えるのかい?」
種や実がない・・・だと・・・?
そんな草があるのか?
いや、異世界だしありえるのか。
じゃあ緑の手のスキルを持ってないと生やせない草って事?
「作れますよぉ?」
影が出来て、頭の上から声が降ってきた。
ナイトとちょっと離れたところで鍛錬?練習?訓練?だか何だかをやってたワンコが後ろに立っていた。
ナイトは・・・あっちでバテてるね。
「作るの?でも種も実もないんでしょう?」
「使徒サマの緑の手は、思いのままにどんな植物でも作れるんですよ〜」
「え、でもだから、種がないのに・・・」
「ですからぁ!思いのままなんですっ!使徒サマが願えば、火を噴く花だってできますよぅ!」
なんですと?
「お、思いのまま・・・?」
ゴクリ。
「デスデス!」
え、じゃあ・・・手を出して、一番あり得なさそうなやつを想像してみる。
赤地に白の水玉模様、キバがあって近づくとパックンって食べようとするあのお花・・・
パチッと目を開ける。
「うわ~!」
「きゃあ~!!」
目の前にかの有名なゲームの花が!
リアルだとめっちゃキモい!!
しかもあっちこっちに嚙みつこうとしてる!
「ナイト!切って!」
「へいっ!」
私の声に反応して走ってきてたナイトが根元からバッサリ切り落とした。
「キトル様・・・なんすかこれ・・・」
ですよねぇ~?
私もビックリ。
まだちょっとウネウネしてるし、キモキモ。
「ワタクシに言ってもらえれば食べましたのにぃ~」
何言ってんのよワンコ。
「やめなよ、お腹壊すよ」
ほら、おばあちゃんもお姉さんたちもドン引きだよ。
でもさ、これってすごい事だよね。
「なんでも作れるなら、やりたい放題じゃん!」
「今も十分やりたい放題っすよ」
おいナイト、聞こえてるぞ。
ん〜と、じゃあ、土を栄養たっぷりにしてくれて、タネがいっぱい出来るモーリュ草!
かざした手の下からワサワサ沢山生えて来た。
しかもタネも沢山!
すご〜い!バッチリじゃん!
「畑には希望の野菜作るんで、モーリュ草作る場所決めて欲しいってオサさんに聞いてください!」
お姉さん達が喜んで集落の中に走ってった。
私は黒のモフモフに抱きつく。
フカフカ〜。
「ありがとワンコ!」
「ワンコ?ワンコって何ですか??」
あ、そうだ聞こうと思ってたんだ。
「ね、名前って何で呼べばいいの?」
「前の使徒サマには、次の使徒サマに名付けてもらえって言われたんですよねぇ。頂いたお名前は使うなと言われまして〜」
そうなの?悪い意味があったりしたのかな。
「何て呼ばれてたの?」
「ポチです!」
・・・そうか、転生スキルって言ってたし、前の人も転生者か。
「ポチ、いいじゃねぇか。お似合いだぜ」
「そう言われると何か嫌ですねぇ」
ん〜じゃあせっかくだし名付けてあげるか・・・
「ねぇ、なんか好きな事とか得意な事とかないの?」
「好きなのは使徒サマの作った果物と野菜で、得意なのは魔法ですっ!」
魔法!マジか!ここに来てついに魔法とは!
ザ・ファンタジー!
「使えるのっ?!どんな魔法?!見せて見せて!!」
「魔獣ですから使えますよ〜。ワタクシは火の魔法が得意ですね」
そう言うと、空に向けて口を開けた。
ゴウッ
立ち上る巨大な炎。
え、火炎放射器じゃん・・・しかも特大の。
「・・・私がいいって言った時だけにしてね」
「もちろんです!」
危なぁ~。
イイコで良かったわ。
しかし、火を吹く黒い犬・・・よく見ると目も赤い。
確か海外ドラマに出てた地獄の猟犬がこんな見た目だったはず。
地獄の猟犬・・・ヘルハウンドだっけ。
でもこの子はイイコだし、じゃあ天国の猟犬?
ヘブンハウンド・・・ヘブンリーハウンド?長いな・・・
「ヘブン、は?」
こっちに天国の概念が無けりゃ許されるはず。
「ヘブン!いいですねぇ!」
「へ~かっこいいいっすね」
あ、良かった、ありなんだ。
「ね、ヘブンも、私の事は使徒様、じゃなくキトルって呼んでね?」
パァァァァ!と顔だけで喜んでるのがわかる。
「ハイですっ!キトルさまっ!」
ん~可愛いね。でもやっぱり様付けなのは仕方ないか。
「ヘブンはこの力の事色々知ってるんだね」
「もちろんです!今生きてる人間の誰より詳しいですよ!」
「おっ、俺もっ!俺も傭兵で色々行ってて顔広いんで、何でも教えますよっ!」
こらこら張り合うんじゃない。
でも、心強いね。
じゃあ畑を作ったら出発だ。
旅すがら、色々教えてもらおうじゃないの。
アドバイスをいただいたので、読みやすいように行間を開けてみました。