エピソード 68
「だからぁ!本物だっつってんだろうが!ほら!ドワーフ王の誓約状!ヴォルグの!」
「それが本物だとどう証明する?!」
「なんで本物かどうかもわかんねぇ奴がこんな所にいんだよ!!」
ナイトブチ切れまくり。
なんでナイトがこんなに激おこかっていうと・・・
ドラム=カズンを出て二週間、歩いたり野宿したりステーキ食べたりしながらひたすら街道を進み、ついに国境に着いた。
どこからドラゴンの帝国かってわかるかな〜と思ったら、遠くからでもすぐに分かった。
砂漠とザルクが突然途切れ、キラキラとしたガラス細工のような透明な森が線で引かれたように向こう側に見えてたからね。
そして、街道と国境の交差する所には、長い竹槍のような武器を持った人が二人立ってる。
あれ?獣人の国だっていうから期待してたんだけど、普通の人じゃない?ドワーフでもなさそうだしって思ってたら。
その二人がガシン!と槍を交差させバツを作り「これより先、商人の証を持つ者しか通さぬ!」と通せんぼしちゃった。
「この方は神の使い、緑の使徒様だ。世界を救う為この地に参られた。貴国の緑を取り戻す為、ここを通されよ!」
おぉ、ナイトがそれっぽい口調で喋ってる。私とヘブンは役に立たなそうだからお口チャック。
「ならぬ。我らは商人の証を持つ者だけを通すよう仰せつかっている。証がないのなら立ち去れ!」
「は?いや、だからこの方は緑の使徒様で」
「ならぬ!」
・・・という経緯で、冒頭のナイトおこおこになっちゃったって訳さ。
「ね、私が何か生やして見せたらいいんじゃないの?」
「いやコイツらに見せるのなんてもったいないっす!それに緑の使徒様だって言ってんのに通さないっつってんすから!」
ナイト、プリプリしちゃってる。これはこれでちょっと面白いな。
国境警備隊?って名前かどうかは知らないけど、槍を持った二人に近づき、聞いてみる。
「ねぇ、お二人は獣人さんなんですか?」
「なんだ娘。我らが獣人なら何か悪いのか?!」
私に対しても塩対応なもんだから、後ろでナイトとヘブンがピリピリしてる雰囲気がする。このくらいで怒らないのよ〜。
「何の獣人さんなの?」
「・・・ヤマネコだ」
「ニャンコね!オッケー!」
ニコ〜って笑って手を出す。「猫じゃない!ヤマネコだ!」って言ってるけど、つまり猫科でしょ?
じゃあコレが効くよねぇ〜。生やしたのは、猫にマタタビ!やっぱコレでしょう!
「なんだこれは・・・」って近づいてきた二人、匂いを嗅いだ瞬間にカッと目を見開いて、様子が変わった。
目の瞳孔が縦に細くなり、短い髪の毛がブワっと逆立つ。気づかなかったけど、背後にあった尻尾がピーンと上に向かって伸び、頭の上にピョコンとモフモフの猫耳が出てきて、息が荒くなる。
と思ったら、トロンとした顔になり、「んにゃあ」と可愛らしい声を出しながら地面に転がった。そのままゴロンゴロンと左右に寝転んでいる。
「あれぇ?効きすぎた?」
「はんっ!こんなヤツらにはもったいないお力ですよっ!」
「全くですっ!ツタでグルグル巻きにしてその辺に転がしておけばいいんですよっ!」
とヘブンまでプンプンしてる。
「どうしよっか?マタタビをワイロにして通してもらおうと思ったんだけど」
「いいじゃないっすか。このまま行きましょう!そもそもいくら国交がないとはいえ隣国の王の証明書まで出してんのに通さない方が悪いんすから」
「え、国交がないってどうい」
チャリーン!
あっ!来たっ!
『スキルレベルが上がりました』
「やったっ!」
「えっ?!何がっすか?!」「どうしましたっ?!」
ナイトとヘブンがビックリしてるけど、今は無視!
『どこにでも植物を作り出せるようになります』
・・・んん?
今でも生やせてますが・・・?
でも前と一緒で、何かしらプラスの能力が追加されたんだろうな。う~ん、これは検証してみなければ。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
空中を見ながら考えこんでる私を見て、二人がオロオロしてる。
なんか面白いしちょっとこのまま見ていようかな。いや流石に可哀そうか。
「なんかね、どこにでも植物が生やせるようになったんだってさ」
「え!またレベルアップ?でしたっけ?それになったって事っすか?!」
「え~すごいですねぇ!どんな風になったんでしょうねぇ?」
「ね~ちょっとわかんないし、歩きながら色々やってみようかな~」
そんな事を喋りながら、ドラゴン帝国に入国~!
道の横には沢山の透明の植物が生えている。近づいてよく見てみると、うっすら緑色をしている。
「ねぇナイト、これって何なのか知ってる?」
「俺も聞いた事があるだけですけど・・・元々この国は国土全体が緑豊かで、森に包まれているような国だったらしいです」
そうなんだ。まぁ国民が獣人だし、ジャングル的な感じなのかな。
「百年ほど前、前の使徒様が訪れることなくどんどん植物が枯れていってたある日、残っていた植物が突然元の姿に戻り、そのまま色を失ってこんな姿になったんだそうですよ。この国まで護衛で商人と一度来た事があるんですけど、その商人が教えてもらってました」
「えぇ~?!そんな事あるんだね。これって植物として育ったりはしてるのかな?」
「育つことも新たに生える事もないそうなんですけど、食べる事は出来るらしいんでこれで百年食いつないでるんでしょうね。この国の獣人たちはこれを『ドラゴンの奇跡』って言ってるみたいですけど」
へぇ・・・不思議だなぁ。
そうっとガラス細工のような葉っぱに触れようとすると・・・透明の葉っぱがスゥッと色づき、緑色になった。
「あれっ?!」
「えっ?!今度は何すか?!」
「キトルさま、今この植物を蘇らせましたねっ!ワタクシ見てました!」
え、やっぱりそう見えたよね?!
「蘇・・・ったのかな?」
隣の透明の葉っぱに触れようとすると、やっぱりスゥッと色が付いていく。
「うわっ!ホントだ!キトル様すげぇ!」
・・・もしかして。
立ち上がって、透明の草むらに入って行く。私が歩いたところに生えている透明の草がどんどん色づいていく。
「おぉ~!すごいね!この国ではモーリュ草とかザルクじゃなく、こんな風になるんだ~」
「これ、どうなってるんすかね?仕組みが分かんねぇなぁ・・・」
ナイトが首をひねってるけど、知~らな~い!
そもそも透明の植物なんて見た事も無いしね!考えたって分かるわけがないのさっ!
道に戻って歩いて行くと、私が歩いた道の左右の森にもどんどん色が戻って行く。
これおもしろ~い!
よぉし!このままドラゴン帝国全体を緑色に染めちゃおうじゃないのっ!




