エピソード 67
ステーキ祭り絶賛会開催中の夜に出発しようとしたけど、暗いし流石にダメってナイトが言うから結局出発は次の日の朝。
あ、ステーキ?もちろんお腹がはち切れるまで食べたよ!
みんなの前で喋って顔も知られちゃってるし、貴族に見つかったらまた宴会に参加させられるぞうって王様も言うし、まだ日が昇り始めた早朝、みんなが寝てるうちにこっそり出る事にした。
来た時の地下通路とは逆側、次の国へと続く街道がある方へ、ソロリソロリと移動して、気分は夜逃げ!
ビールジョッキの実を手にしたまま道端で寝てる人も居るし、起こさないように歩いて首都ドラム=カズンの出口となる門に差し掛かると、人影が見えた。
ノルグさん、グリンベルダさん、タルゴさんの仲良し三人組だ。
「会えなんだと思ってたから、間に合って良かったぞい」
「道中気を付けてくださいねぇ?またいらっしゃるのをお待ちしてますから!」
「次来た時は、オイラの嫁と子供も紹介してやるよ!アンタに関わりゃ結婚出来るってグラントで噂になってるらしいからな!」
最後のは知らんぞ?自分で頑張ってくれ。
「うん、また一周したら来るね!その時は、しっかり飛んでる姿見せてね!」
三人に手を振り門を抜ける。
さぁ次の国に向けて・・・と、張り切ろうと思ったら、視界いっぱいの緑色。
「すご〜い!!」右へ左へとキョロキョロしながら歩き出す。
この前は夜だったからちゃんと見えなかったけど、すっごい!
街道の左右は地平線の向こうまでザルクが続き、緑色の中に白や赤、ピンクなど色とりどりの花が咲いている。
花を見てるのに気付いたのか、ナイトが説明してくれる。
「あの花の色によって、ザルク酒の味や酒精の強さが変わるらしいっすよ。次は色々味見したいっすね〜」
「次来る時は私も飲めるかな〜飲みたいな〜」
「キトル様は酒好きそうっすよね」
ナイトは何故ニヤニヤしている?
「ワタクシも一緒に飲みますよっ!キトル様と一緒に飲むの、楽しみです〜!」
うんうん、私も楽しみだよ〜。
歩きながらザルクの根元を見ると、岩だった地面がサラサラの砂に変わってる。
手で触ると、指の隙間をすり抜けキラキラと落ちる。
「コレがこの国の本来の姿なんですね」
「ね。綺麗だね」
背後のドラム=カズンから、カーンカーンとリズミカルな金槌の音が聞こえ始める。
段々遠くなるBGMを聞きながら、次の目的地についてナイトに尋ねた。
「えっと、次の国の名前って何だっけ?」
前に聞いたんだけど、まぁ当然ながら私は覚えてないよね。
「ドラヴェリオン帝国っすね」
「そうそう、ドラベリオンね」
「違います、ドラヴェリオンっす」
「・・・」
「ヴェ」
ムカつく!!
「ウエッ」
ニラみながらナイトの唇をグイッと指で摘むと変な声を出した。
「で?その国のどこ目指せばいいの?」
「あ〜・・・」
ん?どうした?
「えっと、ドラヴェリオン帝国っていう国は、様々な動物や高位の魔物との混血種、いわゆる獣人が住んでる国なんすよ」
ほほう?獣人とな?
って事はアニメなんかで見る猫耳とかバニーちゃん的な人がいるのかしら?
「帝国の王様、帝王は基本的に世襲制なんすけど、他の種族が力をつけると内戦が起こって王族の種族が入れ替わります。これは動物の本能なんで国民は勝者に従うらしいんですけど、強き者がいる場所って意味で、その時の帝王の名前が首都の名前になるんすよ」
へ〜帝王の名前が首都の名前になるって変わってるね。
「で、百年くらい前の内戦で帝王の種族が入れ替わって、その時の帝王が数年前に亡くなったんで確かその息子が後を継いだんですけど、何だったかな・・・?デルガとかエルガとか、確かそんな名前だったと思うんすけど、思い出せなくて」
「ふぅん?まぁ場所は同じなんでしょ?」
「そうっすね。ドワーフ王に貰った地図も、俺が持ってる地図もありますし。それに別に首都に用事はないんで、近くまで行ってすぐ目的の石の場所を探しに行けばいいですし」
そうそう。
アルカニアでもバラグルンでも、首都から大陸の中心にあるセイクリッド山に向かって一日位歩いた場所にあったから、多分その辺りを探すと良いと思うんだよね。
セレナさんの手記にもセイクリッド山の近くを探して、って書いてあったし。
「じゃあドラベリオンに入ったらまずは首都を目指すけど、近くまで行ったらそのままセイクリッド山を目指そうか」
「ドラヴェリオンっす」
ナイトうるさい。・・・そういえば。
「ねぇ、首都の名前は変わるのに国の名前は変わらないの?王様の名前じゃなくても、その種族の名前になるとか」
「お、いいところに気が付きましたね!」
何故か嬉しそうなナイト先生。
「ドラヴェリオン帝国っていう名前は『ドラゴンが支配する』という意味があるんです。ドラゴンが支配する国で、ドラゴンを国民は信仰してます。もちろん、神は神として全く別の信仰対象なんですけど、帝王を含む全ての国民はドラゴンに従う、とされてます。まぁこれも強き者に従う、ってやつですね」
おぉ、ドラゴン!ザ・ファンタジー動物ナンバーワン!
「と言っても、ドラゴンは千年以上目撃されてないとかで、ほぼ幻の存在ですね。だから、実質帝王が支配者と考えて間違いはないです。ただ国民の家の中には必ずドラゴンを形どった物が置かれているそうですよ」
「え?」
「え?」
私が眉間にシワを寄せると、同じ顔をしてナイトも聞き返す。
「ナイト、私の事ドラゴンも倒せる〜とかって言うじゃん。ドラゴンってその辺に居るんじゃないの?」
「いやいやいやいや!ドラゴンみたいなのがその辺に居たら大陸が木だらけになったって死にますって!例えっすよ、例え!!」
なんだよ〜期待しちゃったじゃ〜ん。ドラゴン見れるなら見てみたかったのになぁ。
前世で言うとパンダ的なレアさなんでしょ?
「でも居ないとか絶滅したって訳じゃないんでしょ?」
「そりゃあ・・・誰も確認した訳じゃないですし、倒せる人間なんて居ませんから」
ふぅん?そっか〜、もしかしたらどこかに居るかも知れなくて、居るとしたらやっぱり信仰されてる次の国に居る可能性が高いって事だよねぇ?
「うわっ・・・絶対悪い事考えてるじゃないっすか・・・」
「別にぃ〜?もしドラゴンが居そうだったら、見てみたいな〜って思っただけだよ〜?」
ナイトが嫌そ〜な顔をしてる。
「ワタクシもドラゴン見てみたいですっ!まだ見た事無いですし!」
黙って話を聞いてたヘブンも口を挟む。
そうだよねぇ〜?見たいよねぇ?
「探して見つかるもんでもないっすからね?探して変な事に巻き込まれないで下さいよ?モルティヴァ信者に気を付けろって言われてるんですし、余計な事に首突っ込まないで下さいね?」
「失礼だなぁ、ナイト君。トラブルに近付いたりしないよ?トラブルの方が近付いてくるだけで」
ジト〜っとナイトがニラんでくる。
よし、次の国、ドラべ、ヴィ、ヴェ・・・ドラベリオン帝国では、国も救うついでにドラゴンも探しちゃおうじゃないの!




