エピソード 66
前世では人と関わりたくなくて引きこもってたのに、何故こんな事に・・・。
テラスの下の王城の門の内側、城壁に囲まれた広場みたいな所には、人、人、人。
夜になってるから空は暗いけど、地下に持って行った光る玉の大きいやつとか、本物の炎が付いた松明とかが色んな場所に設置され明るくなってるから人がよく見える。
みんな私が話し出すのを今か今かと待っている。
そして、目の前にはメガホンマイクもどき。
何を話せばいいの?何かお題を、テーマとか、質問とかなら答えられるんだけどっ・・・
「えっと・・・え〜・・・っと・・・え〜・・・」
口をパクパクさせるも、何も出てこない。
わからない、ワタシワカラナイヨ。
「おいおい使徒様!!どうしたぁ?!」
群衆から叫び声が上がる。
え?野次飛ばされてる?緊張して固まった首をギ、ギ、ギ、と動かして、声の方を向く。
・・・ん?あれって
「オイラに一丁前の口きいてた生意気な使徒様はどこに行ったんだぁ〜?!」
タルゴさんだ。周りの人もワハハ、と笑っている。
「使徒様のおかげで、私、夢も幸せも掴めましたぁ!!ありがとうございますぅ!!」
その近くでグリンベルダさんが叫んでる。
「ワシに天から嫁をもたらしてくれたのも使徒様だぞい!ありがたいぞ〜い!!」
ノルグさんの声が聞こえたと思ったら
「やだぁ、天女だなんて!ノルグさんってばぁ!」
とイチャイチャしてる姿が離れてても見える。
「おかげさまで研究も進みます!感謝ですぞ!」
テラスのすぐ下から叫び声を上げたのは研究ドワーフさん。
「またウチに食べにおいでぇ!いい食べっぷり、また見せておくれよ!」
アレは、酒場のおかみさんっぽい人だ。
「使徒様〜!」「またザルク酒が飲めるぜ〜!」「ありがとう〜!」と色んな所から声があがる。
ぐっ、と込み上げる、色んな明るい色の感情が喉の奥を詰まらせる。
嬉しいなぁ。嬉しい。たまんないね。
これは、ちゃんと答えなきゃ。ドワーフには、ドワーフ流で!
すぅっと息を吸う。
「ぎょゔの!!」
ギィ〜〜〜〜〜ン・・・
爆音で声が拡声されて、ビリビリとヒビ割れた音が王城に反響する。
これ拡声器だから普通に喋ればいいのか・・・。
爆発した音に驚いたのか、さっきまで騒がしかったのが一気に静まり返っている。
ゴホン。気を取り直して。
「今日のご馳走は、私がサンドワームちゃんからお礼に貰ったのを、王様に差し上げただけです!皆さんに振る舞ってるのは、私じゃなくて王様です!王様、ありがとう〜!」
私が拡声器の前で拍手してみせると、観衆も続いて拍手する。王様が右手を上げると「ありがとう〜!」と声も上がる。
「私がザルクを生やしたのは、みんなが頑張って生きてるこの国の本当の姿を見たいと思ったからです!そう思わせてくれた、女性発明家のグリンベルダさん、ありがとう〜!」
また拍手すると、二回目だからかさっきより大きな拍手。
「キャ〜!」「ワシの嫁だぞい!凄いじゃろ!」
とまたイチャイチャしてる声が聞こえてくるけど、それは敢えて聞こえないフリ。
「そして!今日はお祭りです!せっかくのお肉!でも!お肉だけじゃもったいない!そう思いませんかっ?!」
察したのか、おおぉぉぉ・・・?と期待するような低い声。
クルリと後ろを振り向いて、王様を見る。
「王様、ごめんね!もしダメだったら、後で抜いちゃっていいから!」
返事を待たずにまた前を向く。
そうだな〜、城壁の内側がいいかな?!
背中に「何かわからんが、使徒様のする事を止められるモンなんていないぞう」と王様の返事が当たる。
オッケー出たし、やっちゃうぜ!
手を、まずは開かれた城門の左右に向ける。
うん、やっぱりパワーアップしてる気がする。この場合はスキルアップ?結構離れてても、出来るのがわかる。
それに、これは前にも作ったから、イメージもバッチリだもんね。
やっぱりこういう時は・・・とりあえずビール、でしょ!
城門を挟むように、左右にビールジョッキの黄色い実を揺らした木が生えた。
「さぁ、みんな!お待ちかねのお酒だよ!」
うおおおおおおお!!
地鳴りのような歓声がドラム=カズンを揺らす。
「お酒の実も、ステーキも食べ放題だから、お酒ばっかり飲みすぎないようにね!いっぱい作るから、喧嘩も無しだよ!」
左右の手を少しずつ広げて、ノンアルビール、酎ハイ、梅酒、と作っていく。たまにノンアルを混ぜるのがミソだね。
「使徒様〜!」「最高だ〜!」とさっきよりも色んな所から叫び声が聞こえる。
「ステーキ様〜!」おい誰だ、私はお肉様じゃないぞ。
「わっはっはっはっは!緑の使徒様はドワーフの心を掴むのが上手い!酒と祭りを出されたら、もうドワーフは使徒様に頭が上がらんぞう」
ドワーフ王様がお腹を抱えながら大笑いしてる。
「陛下!わたくし先に行きますわ!」と待ちきれなかった王妃様はテラスを出て下に降りて行き、護衛の人たちも慌ててついて行く。
「今代の使徒様は気持ちの良い方だぞう!これは歴史に刻まれて、後の世界にも笑顔が届けられそうだの!わっはっはっは!愉快愉快!」
笑いが止まらないご様子。笑い上戸?
と、スッと笑いが止まり、真面目な顔になる。
「あの木はしっかり管理して、祭事には国民に解放するようにしよう。・・・また、使徒様が我が国に来られる日まで、のう?」
あら、お見通し?
「わかってました?」
この国で出来る事は終わったから、今日明日にでも発つつもりなんだよね。
「何となくだがのう。多分、ノルグも分かっとるぞ。ほれ」
ドワーフ王様が手で指示すると、テラスの向こうから兵士が剣を持ってきた。
兵士が横を通り過ぎたナイトが、目をキラッキラさせてる。そうだよ、多分キミのだよ。
「約束の剣だそうだ。会う機会があるかわからんから、と夕方持ってきたんだぞう。お主のか?」
チラリと見ると、首をブンブンと上下に振るナイト。首もげるよ?
ヘブン(小)を下に下ろし、ドワーフ王様からうやうやしく剣を渡される。
「くれぐれも、我が国の恩人を守ってくれ」
「自分の命に代えましても」
やめなさいっての。私を差し置いて話を進めるな。
「あとフェンリル殿にはこちらを」
ともう一つ受け取った小さな袋から何かを取り出す。
近付いてドワーフ王様の手の平を覗き込むと、小さな青い宝石の付いた細かい細工のペンダントトップ。
ヘブンの首輪に付けながらドワーフ王様が説明する。
「昨日の夜お話を伺ったのですが、フェンリル殿は水魔法がお得意でないとか。そこで城の宝物庫に水魔法の込められた魔石と呼ばれる、とても珍しい石があったのを思い出しましてな。ワシがちょいと細工をしたので、ここにも多分・・・ほれ、付きましたぞう」
え、ドワーフ王様が作ったの?!
「コレを付けておれば、今よりもコントロールがマシになるはずですぞう」
「これは素晴らしい品ですね!ドワーフの王様!お礼を言いますっ!」
ヘブンがペコリとお辞儀をする。
「・・・それ付けてても、水魔法は使う前に絶対言えよ」
ナイトはジト〜っとヘブンを見てる。まぁアレだけびしょ濡れにされればねぇ。
ナイト、ヘブン、と来たし、お次は・・・
お目目をパッチパチさせてドワーフ王様をジ〜ッと見る。
キョトンとしたドワーフ王様、見つめ続ける私・・・。
ハッ!とした顔で、ドワーフ王様がパタパタと自分の身体を叩き、ポケットからハンカチを取り出すと
「お、王妃が初めて刺繍してくれたハンカチで良ければ・・・」と渡そうとしてきた。
いらないよっ!何その甘酸っぱい想い出の品!大事にしなよ!
「キトル様、もうお肉沢山ありますからそれで我慢しましょうね?」
「喉が渇いたらワタクシがお水出して差し上げますよっ!」
ナイトとヘブンが左右から慰めてくる。
なんだいちきしょう!一番頑張った私にも、何かご褒美くらい、あってもいいんじゃないのぉ〜っ?!




