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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
バラグルン共和国編

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エピソード 64

「お願いね?!」


「はいはい」


ナイトが適当な返事。ちゃんと聞いてる?


「寝てても何か食べ物口に突っ込んだらちゃんと食べるから!」


「試してみますけど、食べなくても俺のせいじゃないっすよ」


大丈夫!私なら寝てても食べるハズ!


多分まだ寝ちゃうし、起きたらお腹空きまくってるなんてヤダもん。


「ナイトさんが忘れてたらワタクシが言いますから大丈夫ですよっ!」


ヘブンも約束してくれたし、ナイトにも念押ししたし!よし、これで集中出来る。


二人を数メートル後ろに下がらせ、膝を付き、地上に出ている花びら一枚だけの部分に手を当て、目を閉じる。


前アルカニアでやった時は確か・・・


色んな植物がいっぱい生えた様子をイメージしたんだよね。


あれ?でも途中で何か勝手に頭にイメージが流れ込んできてたな。


何だっけ・・・。


確か、手の平に触れた石の中に・・・


あ、水だ。うん、この石の中にも流れてる。


冷たいお水じゃなくて、温かいお水。いのちの水みたいな。


植物を産み、育み、土地を癒す水。


この水を、私はどう使いたい?


手の平を通して、問いかけられてる。


身体はそこにあるのに、心が浮遊しているような、不思議な感覚。周りの声も音も、何も聞こえなくなる。


私は・・・この砂の国の、本当の姿が見てみたいな。


ザルクが沢山生えてて、その根が固くなった大地をあるべき姿に戻し、いのちの水を吸い上げ、その実を使って夢中で剣を打ち、みんなが大好きなお酒を作る花がいっぱい咲いてる景色が見たい。


そうなったら、きっとドワーフのみんなは大喜びするね。


歌って、踊って、お酒を飲んで、飲み過ぎ!ってまた私に怒られるんだ。


ふふっ。そう、私はそんなみんなが見たい。


やりたい事やって、楽しんで、笑顔のみんなが。


だから、だから?


イメージが、どんどん鮮明になっていく。


今いる荒野、歩いてきた岩だらけの街道、飛行機械を飛ばした岩山からの景色。


そこにいっぱいのザルク。


小さいのじゃないよ。大きい、おっき〜いザルクが、たっくさん!


いっぱい、いっぱいにして、みんなを驚かせて、喜ばせるんだ!


カッ!と目を開く。


アルカニアの時みたいに、視界いっぱいの緑が目に飛び込んで・・・来ない。


あ、そうだ、今夜だった。そりゃよく見えないわ。


んも〜締まらないなぁ。私らしいっちゃ私らしいけどさ。


でも目が慣れてくると、はるか向こうの地平線まで見えてたのに、大きなシルエットで隠されてるのがわかる。


成功、かな?


後ろを振り向くと、大きなザルクがモリモリ生えてて二人が見えなくなってる。


「ナイト〜!ヘブン〜!」


「へい!」「はぁい!」


うんうん、いるね。


あ、そうだ、岩を隠してから・・・あれ?


コロンと小さいお花の形をした石が、足元に転がってる。


あれぇ?!思ってたよりも小さいんだけど?!小さくなるとは思ってたけどさぁ!


しかも、そのままサラサラの砂に呑まれて・・・砂の中に潜るように見えなくなった。


ええ〜?!どうしよ?!


あ、けど元々隠す予定だったし、いいのか?


う〜ん。


「キトル様〜?大丈夫っすか〜?あいてっ!サボテンが!」


あ〜もう。まぁいいか!考えたって仕方ない事は、考えても無駄無駄ァーッ!


クルリと後ろを向いて二人の方へ向か・・・えない。


そうだった、ザルクいっぱいなんだった。


デカぁ〜。針チクチクだし通れないじゃん。


手を出し、ザルクを左右にお辞儀させて道を開ける。


う〜ん、この力にも慣れてきたなぁ。


気分はモーゼの海割りだね。


ナイトとヘブンのところまでザルクにどうもどうもとお辞儀させて道を作り、歩いて行く。


「お疲れ様です。キトル様。もう、ホント神の使いって感じっすね」


おいナイト、ちょっと馬鹿にしてないか?


「キトルさま、お疲れ様ですっ!流石です!」


大きい状態なのにピョンコピョンコ前脚を上げて可愛らしさ全開のヘブン。


さて、神様に頼まれてるであろう用事も終わったし、ザルクの生えてない街道までお辞儀ザルクの道も作ったし。ドラム=カズンに帰ろうか。


街道は淡く光ってザルクが生えてないのが確認出来るから、安心して歩けるや。


街道から逸れた横の道は光が届かなくてあんまり見えないけど、多分ちゃんとザルクが生えてるっぽい。


やっぱり頑張ったんだから成果は見たいし、次からは明るい時間にお仕事しよう・・・。


街道をドラム=カズンの方向へと歩き出した瞬間。


バササササ〜


んっ?何の音?


「・・・ヘブン、キトル様乗せてドラム=カズンまで走れるか?」


ナイト、珍しく緊張感のある声。


「ん?どうしたの?」


「あっ、ナイトさんズルいですっ!ワタクシも戦いたいます!」


ヘブンも暗闇の方を向いている。


「何が何が?」


「バカ、俺たちはキトル様を守るんだろ?俺はアレの相手をして、お前はキトル様を安全な場所に連れて行くんだ」


「どこ見てんの?」


「それならワタクシが相手をした方が全員助かる可能性は高いでしょう?!」


「・・・何の話だっつってんのよ!」


出ておいで、巨大チューリッピカピカ!まさに夜間道路工事現場に置いてあるあのサイズさ!


ピッカ〜!


っと照らしたその先には・・・


「う、うぎゃ〜っ!でっ、でっ、デカキモッ!!何コイツっ!!」


超巨大なミミズ!二回転ジェットコースターのレールくらい、いやそれよりもっと大きい!


よく見ると、頭?先っちょ?の部分は丸く穴が開き、ギザギザの歯が穴の奥まで何重にも重なって丸く並んでて、ミミズより超キモチワルイ。何アレ。口なの?


「・・・サンドワームっす。災害級の魔物で、あの口でラガントゥスを丸呑みするくらいヤバいモンスターです。ここ数年は目撃情報が無かったんすけど」


えっと、そのヤバいモンスターさん、こっち向いてるんだけど?


「だから、キトル様はヘブンに乗ってドラム=カズンに戻って王様にコイツが出たって伝えてください。討伐部隊が来るまで俺が引きつけるんで」


「ダメですよっ!ワタクシの火魔法があればお二人を逃す時間くらい稼げますっ!」


二人がお互いを守ろうと言い争いをしてる。


「ねぇ」


「キトル様の言う事でもこれは聞けません。ヘブンに乗ってすぐ」


いやそうじゃなくて。


「あのミミズさん、踊ってない?」


「「へ?」」


間の抜けた二人の声も聞こえてないのか、サンドワームは上下にギザ歯の口の付いた頭を揺らし、身体から尻尾にかけては前後左右に揺れたり伸び縮みしたり。


「は・・・え?・・・コイツ、何してるんすか・・・?」


「これは、ワタクシも初めて見ましたねぇ・・・」


二人とも今似顔絵描いてもらったら余白にポカンって書かれそう。


「喜んでるんじゃない?なんか楽しそうよ」


まぁミミズが苦手な私にはどっちにしろキモチワルイんだけども。


ピタ


突然踊りを止め、こちらに口を近付けるサンドワーム。


ナイトとヘブンは身体に力が入って今にも飛びかかろうとしてたから、手で制する。


「多分だけど、敵意は無いよ」


「でも、キトル様・・・!」


ナイトが剣を持つ手に力を入れた時、ヘブンが素っ頓狂な声を出した。


「へぇっ?!あ、そうなんですかっ!あ、わかりました、伝えますねぇ」


なんか新入社員の電話対応みたい。


「あの、このサンドワームは砂が固くなって岩になってからずっと地上に出て来られなくなってたらしくて、キトルさまがザルクを生やしてくれたおかげでまた出られるようになった、とお礼を言いに来たらしいです〜」


「あら、それはどうもご丁寧にありがとうございます」


ペコリと頭を下げると、サンドワームも頭を下げる。


何だこれ。


「ほ、ホントにそれだけなのか?」


ナイトはまだ警戒してるね。


「みたいですね〜」


「何だそりゃ!キトル様、こんなのも従えるのかよ!怖ぇ〜!」


尻もちを付いて座り込んだまま大笑いしてる。


う〜ん、気持ち悪いのは悪いんだけど、ペコペコしてる姿はだんだんキモ可愛く見えてきたぞ。


「ねぇサンドワームさん、お礼の代わり、って訳じゃないけど、出来るだけドワーフや人間なんかを襲わないでいてくれると嬉しいな。もちろん、あなたの命に関わらない範囲でね」


言ってる意味がわかったのか、口を動かし歯をガチャガチャとぶつけると頭をさっきより激しく上下に振る。


ピタ。バサササ〜


突然止まったかと思うと、頭を地面に突き刺し、そのまま砂を巻き上げながら潜って行った。


国を救ったらミミズちゃんまで救っちゃうなんて、私ってば一石二鳥なんじゃないの〜?

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